労務事情 ランチミーティングへの参加
[弁護士 外井浩志]
Q.当社の営業部では,大きな商談に向けた戦略会議の一環として,ここ最近,ランチミーティングを行っています。形としては,昼食を取りながら,気軽に話をするということになりますが,参加しないと情報共有の点で後れを取るようにも見受けられます。そのため,一部の者からは「休まる時間がない」「休憩がないのと同じだ」という不満が出ています。また,参加メンバーは,「先輩が取らないから」という理由で,全員,別途休憩は取っていません。
このように,昼休憩を使用したランチミーティングは労働時間に該当するのでしょうか。労働時間に該当する場合,別途休憩を付与することで足りるのでしょうか。また,場合によっては残業代が発生することもあるのでしょうか。
昼休憩時のランチミーティングにおける労働時間の扱い,および休憩未取得時の対応について教えてください。
A.
休憩時間は自由に利用できなくてはならない。また,休憩時間は労働者が権利として労働から離れることを保障されている時間を言う。ランチ ミーティングへの参加が自由であれば労働時間にならないが,そうでない場合には指揮命令下にある時間であって,労働時間と解される。
また,労働時間に該当するとすれば,別途,休憩時間を与えなければならない。その結果,1日で8時間,または1週間で40時間を超える場合は時間外労働となり得るので,手当の支払いが必要となる。
1. ランチミーティングの意義
ランチミーティングは,何のために行われるのかということをまず考える必要があります。本問では,ランチミーティングと呼ばれていても,最終的には大きな商談に向けた戦略会議としての位置づけであり,自由で緊張感のない雑談をする雰囲気の場ではないと思われます。
その内容が勤務時間中に行っても不自然ではないものであれば,労働時間であるとみるべきです。その意味では,ランチミーティングは,業務上の必要な打ち合わせと判断できる場合が多いと思われます。
2. 労働時間性
労働時間か否かについては,法令は特に定義を置いていませんが,学説では,「使用者の作業上の指揮監督下にある時間または使用者の明示または黙示の指示によりその業務に従事する時間」を言うとされています(菅野和夫・山川隆一『労働法〔第13版〕』421頁)。
判例上も,三菱重工業長崎造船所(一次訴訟・会社側上告)事件(最一小判平12.3.9労判778号11頁)は,「労基法上の労働時間とは,労働者が使用者の指揮命令下に置かれている時間」を言うとされ,「労働者が就業を命じられた業務の準備行為等を事業所内において行うことを使用者から義務付けられ,又はこれを余儀なくされたときは,当該行為を所定労働時間外において行うものとされている場合であっても,当該行為は,特段の事情のない限り,使用者の指揮命令下に置かれたものと評価することができ,当該行為に要した時間は,それが社会通念上必要と認められるものである限り,労働基準法上の労働時間に該当する」と述べています。
昼食を取りながら気軽に話をし,参加するもしないも自由,途中から参加し,途中で退席するのも自由で,出席も確認していないというものであれば,指揮命令下にはなく,労働時間ではないと考えることは可能です。しかしながら,上司が出席し,参加を募り,不参加者をチェックし,その内容も業務と関係のある事項についての通知や意見の聴取であって,参加しないことにより事実上の不利益を受けるため,参加せざるを得ないということであれば,指揮命令下にある労働時間と評価できると思われます。
労働時間か否かを一概に決めることはできませんが,参加者が,参加しないと後れを取ると感じていること,「休まる時間がない」とか「休憩がないと同じだ」というのであれば,やはり指揮命令下にある労働時間と考えるべきであろうかと思われます。
3. ランチミーティングが労働時間である場合
ランチミーティングが労働時間と認定されれば,1日の労働時間8時間のうちに休憩時間がなくなるので,6時間超であれば45分,8時間超であれば60分以上の休憩時間を付与しなければなりません。ですから,別の時間に休憩時間を与えるべきです。仮に,休憩時間を与えていないということになれば,労基法34条1項に違反することになるので,罰則があり,6カ月以下の懲役または30万円以下の罰金となります(労基法119条1号)。
また,休憩時間を与えていない場合には,1日の所定労働時間が8時間であれば1時間余計に就労したことになり,1時間の時間外労働になりますし,終業時刻以降も労働しているのであれば,その分についてさらに時間外労働が発生することになります。そのため,時間外労働手当の支払いが必要となります。
4. 労働時間ではない場合
労働時間ではないと認定されれば,ランチミーティングはあくまで休憩時間中の懇親の場ということになるでしょう。
そうだとすると,休憩時間を付与したことになるので,問題は生じませんが,やはり休憩時間の自由利用や緊張をほぐすという観点から,一定の配慮をし,その時間以外に休憩時間を付与することも検討したほうが,労務管理上は好ましいと思われます。
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