労務事情 フレックスタイム制と休日出勤

[弁護士 加茂善仁, 弁護士 三浦聖爾, 弁護士 青山雄一, 弁護士 小峯貫]

Q.当社では,一部の部門でフレックスタイム制を導入しています。先日,この部門で,担当商品の納期が迫っていた社員が,週休日である土曜日と日曜日にも出勤しました。本人からは事後の休日勤務申請が出されましたが,労務管理上,問題となる点はあるでしょうか。この場合,時間外・休日割増賃金等は,どのように計算されるのでしょうか。通常勤務の場合と同じように,割増賃金を加算することになるのでしょうか。
フレックスタイム制の社員が休日労働をする場合の留意点について,教えてください。

A.

フレックスタイム制が適用される労働者であるからといって,原則として自由に休日労働ができるわけではなく,休日労働は原則として使用者の指示または事前の許可に基づき行うべきである。
フレックスタイム制が適用される社員が休日労働をした場合,法定休日労働に対しては,休日割増賃金を支払わなければならない。また,法定外休日労働に対しては,時間外割増賃金を支払わなければならない場合がある。割増賃金の加算の詳細は下記2を参照。

1. フレックスタイム制と休日労働の管理

(1) フレックスタイム制と休日労働の関係
フレックスタイム制は,労働者が,単位期間の中で一定時間(これを「総労働時間」または「契約時間」とも言います)数労働することを条件として,1日の労働時間の開始と終了を自ら選択できる制度であり,この制度の適用を受ける労働者は,所定労働日に,フレックスタイム制の清算期間における総労働時間(契約時間)分労働する義務を負いますが,休日は労働義務のない日ですから,労働者の判断で自由に休日労働することは認められません。
休日労働は,業務上の必要性に基づいて使用者から明示または黙示の指示・命令があった場合に行われるのが原則です。

(2) 使用者による労働者の労働時間把握義務
使用者は,労働時間を適正に把握するなど労働者の労働時間を適切に管理する義務を負っており,フレックスタイム制を実施する事業場においても各労働者の各日の労働時間を把握する必要があります(前掲・基 発150号)。
厚労省の「労働時間の適正な把握のために使用者が講ずべき措置に関するガイドライン」(平成29年1月20日策定)(以下,「ガイドライン」と言います)も,使用者が労働時間を適正に把握すべき対象労働者について,「労働基準法第41条に定める者及びみなし労働時間制が適用される労働者(事業場外労働を行う者にあっては,みなし労働時間制が適用される時間に限る。)を除く全ての者」であるとしており(ガイドラインの「2」),フレックスタイム制の適用を受ける労働者を除外していません。
また,労働時間の適正な把握のために使用者が講ずべき措置として,「労働者の労働日ごとの始業・終業時刻を確認し,これを記録すること」を求めています(ガイドラインの「4(1)」)。

(3) フレックスタイム制が適用される社員が事後申請で休日労働を行うことの問題点
フレックスタイム制の適用を受ける労働者が,自主的に休日(法定休日および法定外休日)に出勤して休日労働ができるのかが問題となります。フレックスタイム制は,始業・終業を自主的に決定することはできますが,労働日を休日にしたり,休日を労働日に変えたりすることは予定されていません。
したがって,フレックスタイム制の適用労働者が,就業規則の根拠もなく自由に休日労働ができるわけではなく,休日労働を行うにあたっては,原則として業務上の必要性に基づく使用者からの明示または黙示の指示・命令が必要です。
もっとも,土・日曜の週休日を他の労働日と振り替えることができれば,土・日曜の週休日は労働日となりますので,フレックスタイム制の適用労働者は,土・日曜をフレックスタイム制で労働することが可能となります。休日の付与義務は使用者にありますので(労基法35条),休日の振替えは,通常,使用者が業務上の必要性に基づき行いますが,フレックスタイム制において労働者にも休日振替の権限を付与しておくことも可能と考えられます。
すなわち,フレックスタイム制の適用労働者について就業規則に休日振替の権限を与えておく(使用者が事前に包括的に休日振替を承諾しておく)ことにより,フレックスタイム制の適用労働者が,休日振替をして土・日曜に労働を行うことも可能となると考えられます。
このようにフレックスタイム制においては,労働日を休日にしたり,休日を労働日に変えたりすることは予定されていませんので,休日労働は原則として事前の指示・命令もしくは事前許可制として実施すべきです。
フレックスタイム制が適用される労働者につき,事後申請による休日労働を無限定に認めることは,労務管理上問題があります。

2. フレックスタイム制が適用される労働者の時間外・休日割増賃金

労基法35条の休日に関する規定はフレックスタイム制の下でも適用があるため,フレックスタイム制が適用される労働者が法定休日に(36協定に基づき)労働した場合,フレックスタイム制の清算期間における総労働時間(契約時間)の算定とは別に休日労働時間を把握して割増賃金を支払うのか,それとも総労働時間(契約時間)の中に取り込んで割増賃金の計算をしてよいのかが問題となります。
この点について,休日労働は,通常の労働日の労働時間とは区別されているため,休日労働として処理すべきであり,総労働時間(契約時間)の中に取り込むことはできないと考えられ,また,この場合の割増率は,休日労働の35%以上となると考えられます。しかし,完全月給制において,総労働時間(契約時間)を対象に月給額を支払っている場合において,休日労働(時間)を加算してもフレックスタイム制の総労働時間(契約時間)の範囲内である場合には,すでにその時間に対しては1.0の賃金は支払われていますので,割増賃金としては35%分を加算して支払えばよいと考えられます。
もっとも,フレックスタイム制にかかる労使協定において,法定休日労働時間についても総労働時間(契約時間)に取り込むことができる旨の定めをしている場合には,フレックスタイム制における総労働時間(契約時間)に取り込むことも可能と考えられます。この場合の割増賃金の扱いは上記と同様になると考えられます。
また,フレックスタイム制が適用される労働者が法定外休日に労働した場合,法定休日における労働ではないため,労基法上の休日割増賃金は発生しませんが,法定外休日労働時間はフレックスタイム制における総労働時間(契約時間)に取り込まれるため,その結果,(1)清算期間における実労働時間が清算期間における法定労働時間の総枠を超えた場合,(2)1カ月を超える清算期間を定めた場合であって1カ月ごとの労働時間が週平均50時間を超えた場合は,それぞれの超えた時間数を時間外労働としてカウントし(ただし,1については,2でカウントした時間は除きます),(1)については清算期間の最終月に対応する賃金の支払日に,(2)についてはその超えた月に対応する賃金の支払日に,125%以上の時間外割増賃金を支払う必要があります(平30.9.7基発0907第1号,平30.12.28基発1228第15号)。

(『労務事情』2024年3月15日号より)

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