労務事情 試用期間中の問題行動と解雇

[弁護士 大村剛史]

Q.新入社員Cは,3カ月間の試用期間中,東京近郊の営業所に仮配属されることとなりました。最初の1週間は,特に問題なく営業事務などの業務に従事していましたが,2週目以降は遅刻をしてきたり,上司の指示に従わなかったり,隣の席の先輩社員と口論になったりと,問題行動が目立つようになりました。営業所長からは,「周囲の社員の業務にも支障が出始めていて,早急に対処してほしい」と言われています。
会社としては,Cについて,すぐに解雇することを検討しています。試用期間中ではありますが,現場の状況からしてやむを得ません。このような取扱いに,何か問題はありますでしょうか。

A.

試用期間における解雇は,試用期間の趣旨・目的を踏まえつつ,通常の解雇同様,客観的に合理的な理由があり,社会通念上相当として是認される場合に認められるため,その要件を踏まえて検討する必要がある。
特に,試用期間中における解雇は,試用期間満了時における解雇よりも慎重に検討する必要があり,期間中の時点において,期間満了時においても改善をする余地がないという判断ができるかどうかを検討したうえで,解雇の可否を判断する必要がある。

1. 試用期間における解雇の考え方

(1) 試用期間の法的性質
試用期間は,法律上求められているものではないため,試用期間を設けないことも可能ですが,一般的には,採用後一定期間の試用期間が設けられている企業が多いところです。その場合,就業規則等にその内容が明記されていますが,3カ月から6カ月の間で試用期間を定めているところが多いです。
この試用期間の趣旨・目的は,基本的には採用した労働者の業務上の適格性を判断し,今後,雇用を継続することができるかどうか(本採用するかどうか)を決定するための期間とされており,その期間の雇用については「解約権留保付労働契約」と解されています。
裁判例においても,この点に関し,「解約権の留保は(中略),採否決定の当初においては,その者の資質,性格,能力その他上告人の(中略)適格性の有無に関連する事項について必要な調査を行ない,適切な判定資料を十分に蒐集することができないため,後日における調査や観察に基づく最終的決定を留保する趣旨でされるもの」とされており,試用期間中の雇用は解約権留保付労働契約であると解されています(三菱樹脂本採用拒否上告事件・最大判昭48.12.12労判189号 16頁)。

(2) 試用期間における解雇の具体的な基準
以上のとおり,試用期間における解雇は留保解約権の行使を意味し,解雇の一類型となります。
この点,解雇の場合,労契法上,要件が以下のとおり定められています。

労働契約法
(解雇)
第16条 解雇は,客観的に合理的な理由を欠き,社会通念上相当であると認められない場合は,その権利を濫用したものとして,無効とする。

つまり,解雇の要件としては,「客観的に合理的な理由」であることと,「社会通念上相当」であることの2つが求められており,これを満たす場合に初めて解雇が有効とされています。
これに対し,試用期間における解雇はどのような要件となるのでしょうか。この点,試用期間の場合には,試用期間の趣旨・目的が,前記のとおり労働者の適格性の評価・判断のためであることから,裁判例上,試用期間中または試用期間満了時の解雇の場合には,通常の普通解雇よりも広い範囲で解雇の自由が認められるとされています(前掲・三菱樹脂本採用拒否上告事件)。
一方で,試用期間における解雇の有効性を判断する際の具体的な基準については,裁判例上,「解約権留保付雇用契約における解約権の行使は,解約権留保の趣旨・目的に照らして,客観的に合理的な理由があり社会通念上相当として是認される場合に許される」と判示されており(前掲・三菱樹脂本採用拒否上告事件),「解約権留保の趣旨・目的」に照らして,通常の解雇同様,客観的に合理的な理由が存し社会通念上相当として是認され得る場合にのみ許されるものとされており,あくまで解雇要件に照らして判断することが必要となります。

2. 試用期間中の解雇

この試用期間における解雇ですが,厳密に区分すると,試用期間満了時の解雇と試用期間中の解雇に分けることができます。
就業規則上も,試用期間に関する解雇の条項については,以下のような記載がなされ,試用期間満了時の本採用拒否(解雇)と共に,試用期間中の解雇も想定していることが多いところです。

【就業規則の一例】
「試用期間中に,会社が従業員として不適格と認めた場合は本採用をしないか,または,試用期間中であっても解雇する」

では,解雇を行う際の留意点に違いはあるでしょうか。
結論としては,試用期間中の解雇については,試用期間満了時の本採用拒否(解雇)と比較して,慎重に検討する必要があります。すなわち,試用期間は,これまでも述べているとおり,採用した労働者の業務上の適格性を判断し,今後,雇用を継続することができるかどうか(本採用するかどうか)を決定するための期間とされており,通常は,労働者の適格性を判断するために必要な期間を想定して,試用期間が決定されていると判断されます。
そのため,試用期間満了時における解雇ではなく,試用期間中の解雇の場合には,本来適格性を判断するために必要な期間よりも短い期間で判断することになることから,いわゆる解雇の要件である客観的に合理的な理由の存在や社会通念上相当として是認できないと判断される可能性が高まるところです。つまり,試用期間中の場合には,「期間満了まで様子を見たら,改善の余地があったのではないか」と判断される可能性が高いという点が,有効性の判断で問題となるところです。
実際に,裁判例においても,この点を踏まえて解雇の有効性を否定した事例も存在します。例えば,ニュース証券事件(東京地判 平21.1.30労判980号18頁)においては,試用期間が6カ月と定められていたところ,3カ月強の期間で解雇したという事案で,「わずか3か月強の期間(中略)をもって原告(注:従業員)の資質,性格,能力等が被告(注:会社)の従業員としての適格性を有しないとは到底認めることができず,本件解雇(留保解約権の行使)は,客観的に合理的な理由がなく社会通念上相当として是認することができない」「試用期間の満了を待つことなくわずか3か月ほどで成績不振を理由に解雇されるに至っているのであって,本件解雇に至る被告の対応は性急にすぎ,本件解雇は無効かつ違法なものといわざるを得ない」とされ,試用期間中の解雇が否定されているところです。
このように,使用者としては,試用期間中の解約権の行使は,試用期間満了時における本採用拒否と比較した場合に,試用期間の目的や趣旨,改善の機会の確保の観点からも,慎重を期すことが必要と思われます。少なくとも,試用期間中に解雇を検討するということであれば,その時点において,試用期間満了時においても改善をする余地がないという判断ができるかどうかを検討したうえで,試用期間中の解雇の可否を判断する必要があるものと思われます。

3. 本問の事案へのあてはめ

本問の事案においては,新入社員Cは,入社2週目以降に遅刻をしてきたり,上司の指示に従わなかったり,隣の席の先輩社員と口論になったりと,問題行動が目立つとのことであり,従業員の適格性として問題があるということは否定できないところです。
もっとも,試用期間とはいえ,解雇要件を踏まえる必要があること,特に試用期間中については,現時点において,本当に試用期間満了時までに改善の余地がないのかどうかといった観点も踏まえて,解雇の可否を検討していく必要があります。

(『労務事情』2024年2月15日号より)

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