企業と人材 「志と志を重ねて」部門 優秀賞:インタースペース

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株式会社インタースペース 執行役員 人事部 部長 小林剛士さん

コーチングマラソン(人事による社内コーチング制度)

 個人の思いと企業の思いを重ね合わせていくためには、まずは、その人がどういう人生を歩みたいのか、どういうキャリアを望んでいるのか、会社に何を求めているのかを明確にしていく必要があります。そのための手法として多くの企業で用いられているのが「コーチング」です。株式会社インタースペースが実施している「コーチングマラソン」について、執行役員人事部・部長の小林剛士さんにうかがいました。

会社概要
本社   : 東京都新宿区
従業員数 : 414人(連結 2024年9月末現在)
売上高  : 79億900万円(2024年9月期)
事業内容 : パフォーマンスマーケティング事業、メディア事業

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「志と志を重ねて」部門 優秀賞:インタースペース
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まずは自分でやってみる!

 インタースペースでは、半年間、人事部メンバーが希望者にコーチングを行う「コーチングマラソン」を実施しています。小林さんがコーチングマラソンをはじめた背景には、メンバー育成に対する課題認識がありました。
 「当社では、マネージャーと人事で定期的に1on1を実施しているのですが、そこであがってきていたのが、『メンバーが育っていない』『メンバーが自発的に行動しない』という育成に関する悩みです。では、そうした課題を解決するためにマネージャー自身がメンバーに対してどう関わっているのかを聞くと、ティーチングもコーチングもしっかりとできていないということが多かった。マネージャーもプレイヤーとして忙しいので、教えたり導いたりするよりも、『自分で気づいて』という状態になってしまっていたんですね。それでは思うように人は育ちません。仕事を任せたり役割を与えたりすることとあわせて、部下を導き、引き上げていく方法を社内に取り入れていく必要があると感じました」
 こうした課題への対応策を探るため、離職率の推移や離職者へのヒアリングデータを集め、マネージャーの「育てる力」における課題を導き出していった小林さん。それらのデータをもとに、経営層や社内に「変化する市場環境への対応や自社の競争力維持のためには、部下を導けるマネージャーを育成していく必要がある。そのためには、コーチングの手法を学ぶことが求められる」と訴えていきました。
 その結果、管理職向けにコーチング研修を実施したのですが、効果としては、一部のマネージャーが取り入れるという程度でした。コーチングの効果がわからないので、積極的に取り入れようという流れにはならなかったそうです。そこで、コーチングを社内に浸透させるには、まずは成功事例が必要と考え、自身が所属する人事部でコーチングを実践してみることにしたそうです。
 すると、人事部の取組みをみていたある事業部から、小林さんのもとにコーチングの依頼がきます。それをきっかけに、希望者6人を対象に、トライアルコーチングを実施。これが「コーチングマラソン」のはじまりです。
 このトライアルで手ごたえを感じた小林さんは、徐々に社内にコーチングの輪を広げていきます。まず、2021年5月から、小林さんと人事部のメンバー1人の計2人をコーチとして、10人強のメンバーに対して2期目のコーチングマラソンを実施しました。そして、2022年からは、コーチ4人体制で、全社員へと対象を広げて展開しています。

ゴールに向けたTODOを考えよう!

 コーチングマラソンが目指すのは、①目標から逆算して動くことができる社員の増加、②努力を正しい方向に注いでいくことによる生産性の向上、③組織へのコーチングカルチャーの浸透、の3つです。なかでも、コーチングカルチャーの浸透は、マネージャーの育成力向上に密接に関わっているため、特に力を入れて取り組んでいるそうです。
 「コーチングマラソンを受講し、その効果を体感した社員がマネージャーへと育っていけば、自分たちの部署・チームでもコーチングを実施してくれるようになります。コーチングを実践できる人が増えることで、社内にコーチングカルチャーが浸透し、いずれは、自走できる人材が増えていく。そういった好循環が起きてくることを期待しています」
 コーチングマラソンでは、半年間、毎月1回、1時間程度、人事部メンバーがコーチとなり、希望者にコーチングを実施していきます。毎回の受講者は10~20人ほど。希望者は、応募動機を付けて申し込みます。マネージャーの育成力向上に向けた施策ではありますが、マネージャー以外も受講可能です。
 半年間の内容は、大きくは、「ゴールの設定」「TODO の決定」「伴走サポート」です。
 キックオフとなる初回面談では、受講者一人ひとりに対してキャリアカウンセリングを実施します。そのなかで受講者は、コーチとの対話を通して、自身の価値観やキャリアプランを深掘りしていき、半年後に到達したい「理想」の状態を目標として設定します。目標は、例えば、「社内表彰を受ける」「○○の業務ができるようになる」「昇格する」といったように、自身が目指したいことで業務に関わりのあることなら、何でもかまいません。
 とはいえ、「半年後の目標を考えてください」といわれても、すぐに思いつく人は少ないでしょう。「どういう目標を設定すればいいかわからない」という受講者に対しては、コーチが「そういう人のほうが多いので、これから一緒に探していきましょう」と語りかけながら、まずは安心安全な場をつくっていきます。そのうえで、応募動機を深掘りしながら、受講者が描く未来を一緒に考え、半年後に向けた具体的な目標へと落とし込んでいきます。
 目標が決まれば、次は、「ゴール(理想)」と「現状」の間の差分を埋めるために必要な項目を洗い出し、その月に取り組むことをTODO として設定します。
 「ゴールの設定時に特に大事になるのが、仕事に対する価値観を明らかにしていくことです。10年先、20年先のことはわからなくても、自分が仕事をしていくうえで大切にしたい思いは何か、どういうことのために頑張りたいかということを本人とコーチで紐解いていくのです。そこがはっきりしてくれば、行動意欲も生まれ、TODO にも落とし込みやすくなります」

承認して、伴走していく

 2回目以降の面談では、TODO の進捗確認や、取り組むなかで気がついたことなどをコーチと一緒に振り返りながら、次の1カ月で取り組むTODO を整理していきます。あわせて、TODO を進めていくうえで気になっていることや困っていること、ストレスに感じていることなども確認していきます。
 この間は、受講者に伴走しながら、ゴール達成に向けて支援していくことが、小林さんたちコーチの役割になります。ここで大切にしているのが、受講者が取り組んだ内容に対して「承認する」ことです。
 「コーチングマラソンで目指すのは、受講者と会社が最終的にWin-Win な関係になるよう視点をそろえていくことです。そのために、受講者が1カ月間、TODO とどう向き合ったかを聞き、褒めて、承認しながら、次の目標へとつなげていきます」
 自身の行動が承認される経験を重ねていくことで、受講者は、TODO の実施やコーチングの時間を楽しみにするようになるといいます。それが、次へ向かうモチベーションへとつながっていくのです。仮に、その月は十分な結果がでなかったとしても、または、決めたことが完遂できなかったり、失敗したとしても、その間の取組みをしっかりとみて、承認していきます。「結果」だけではなく、「プロセス」「行動」「意識」のいずれかに対して承認していくことが、コーチングマラソンへの向き合い方を大きく左右するそうです。
 そのうえで、「忙しくてできなかった」という受講者に対しては、「必要な時間をつくるためにどうすればいいか」を、「忘れていた」という受講者に対しては、「忘れないためのリマインド対策」を一緒に考えていきます。この時も、コーチは、答えを与えるのではなく、質問を投げかけることで、受講者自身が自ずと対応策を考えられるように導いていきます。
 そして、最終面談では、これまでの半年間を振り返りながら、その間の成長を本人と確認します。最後に、この経験を今後どう活かしていくかを考えて、コーチングマラソンは終了となります。

上長を巻き込もう!

 コーチングマラソンでは、受講者のゴール設定やTODO の実行を進めていくため、上長に対する働きかけも行っています。
 先ほど小林さんが言ったように、コーチングマラソンでは、受講者と会社がWin-Win な関係を築いていくことを目指します。つまり、本人の思いだけでなく、組織の思いもそこに反映されている必要があるのです。また、いくら本人がやる気になっても、「上長が忙しそうだったから、声をかけられなかった」となると、TODO が達成できない可能性も出てきます。
 そうなってしまわないよう、コーチは、プライベートに関すること以外の面談内容や毎月のTODO項目などを上長と共有しています。特に、初回のTODO 設定では、自身が立てた目標が組織の目標とあっているかを確認するため、本人と上長で確認の時間をとってもらうようにしています。
 このほか人事部では、本人の自己認識と上長の認識にズレがないか、また、上長からの受講者に対する要望、TODO に対する上長からの支援のあり方などについて、随時、上長と連携・協力・確認しています。
 コーチングマラソンを希望する社員の年代や役職はさまざまですが、共通しているのは、将来に向けて「何らかの目標をもっている」ことだといいます。小林さんによれば、そうした「目標」は大きく2つに分かれるそうです。
 一つは、昇進・昇格といった明確な目標です。これは20~30代の社員や中途入社者に多いとのことです。もう一つは、「今の自分を変えたい」という、少し漠然とした目標です。こちらは、社歴が長かったり、長年同じ業務に携わっている社員があげることが多いといいます。
 いずれにしても、こうした本人の「将来に対する気持ち」を重視しながら半年間取り組んでいきます。「面白そうだから」「上長に言われたから」参加するのでは、十分な成果がでないこともあるため、募集要項にも、「変わりたいという思いをもつ人ほど効果が高い取組みです」と明記しているそうです。
 これまでの4年間に実施したコーチングマラソンは8回。受講者は延べ103人となっています。このなかからは、19人の昇格者、17人の社内表彰者も出ているほか、受講者に対して実施しているeNPS(従業員満足度)も平均スコア9以上と高い値になっています。
 受講者からは、「現在地、ゴールを明確にできた。道に迷わないぶん、効率的に自分の力を使うことができ、それがパフォーマンス向上につながったと考えている」「個人的に、キャリアに対する節目にあったこともあり、現状の自分の状態や考え方を整理することができた」といった声が、上長からは、「部下が主体的・自主的に行動するようになった」「自ら目標を立てて、率先して動いている」「明るく、前向きになった」といった声があがってきています。

いつかくる「卒業」に向けて

 コーチングマラソンのようなコーチングの仕組みを社内に取り入れていくことについて、小林さんは、「手順さえ押さえていれば、どんな組織でも応用可能」だといいます。そのうえで、大切になるのは、「社内の合意形成」と「小さくてもいいから成功事例をつくっていくこと」だとします。
 「実際に体験してもらえれば効果を感じられるはずなので、1部署・1チームからでもいいのではじめてみて、事例を社内にシェアしながら、輪を広げていくことです。コーチングマラソンは毎月のTODO の実践・振り返りが軸となるため、仮に、コーチのスキルが十分なくても、取組み自体がマイナスになることはほとんどありません。まずはやってみて、成功体験を重ね、『継続していこう』という機運をつくり出していくことが大切になります」
 コーチングマラソンを受講した社員がマネージャーへと昇格する例も出てくるなど、成果が表われてくるのに伴って、当初目指した、コーチングカルチャーの浸透も進んできたと感じているそうです。
 小林さんは、「最終的にはコーチングマラソンをクローズするのが目標」だと言います。事実、受講者は回を重ねるごとに減ってきており、逆に、各部署や上司部下間でのコーチングがそこここで行われるように変わってきています。
 「受講者を中心に、部署・チームでコーチングが行われるようになれば、いずれ、この施策からは『卒業』していきます。今は次の展開として、部長層を対象としたエグゼクティブコーチングなどもはじめています。さまざまな層に対して、組織づくりや人材育成につながる知識・スキルの習得といった必要なアプローチを仕掛けていくことで、経営・人材戦略をしっかりと実現していける、そんな組織をつくっていけたらと思っています」

 お互いの「志」を重ねていくためには、まずは、その人が何を求めているのかを知る必要があります。人事が率先垂範しながら、また、受講者・上長の支援者となって取り組んできたインタースペースのコーチングマラソンは、簡単なようで奥が深い、それでいて他社でも実践可能な内容です。

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