企業と人材 「志と志を重ねて」部門 最優秀賞:ポスタス
ポスタス株式会社 人材組織開発グループ 高松佑夏子さん
はたらく、がえがおでみちてゆく……
えがおを“つなぐ”社内風土の醸成大作戦
個人と組織をつなぐものは「給与」「仲間」などさまざまです。それらがズレてしまうと、成果やモチベーションに影響が表れるようになり、結果、組織全体の意欲低下を招きかねません。そうならないよう両者をとりもっていくのが、人事・人材開発部門です。組織が急成長するなかで起こる課題に対して、人材組織開発グループがどう取り組んできたのか、ポスタス株式会社の高松佑夏子さんにうかがいました。
本社 : 東京都中央区
従業員数 : 224人(2024年4月時点)
事業内容 : モバイルPOSサービス・Fintechサービス・HRtechサービスの提供
急成長による課題が顕在化?
ポスタスは、2013年にサービスを開始したクラウド型モバイルPOS レジ「POS+(ポスタス)」の事業をパーソルプロセス& テクノロジー株式会社より承継する形で2019年に設立された、パーソルグループの会社です。飲食、理美容、小売といった多様な業態に合わせた「POS+」サービスを提供しています。
同社のビジョン「おもてなしのお手伝いで、はたらく、を笑顔でみたす。」には、POS レジを軸にしたさまざまなサービス・機器の提供により、店舗オペレーションの効率化、人手不足解消、利益向上に寄与していくとともに、働く人やその先の顧客の笑顔を引き出す「相棒」になっていく、という思いが込められています。人材組織開発グループのミッションは、このビジョンに対して、社員の「志」を重ねていくための施策を企画立案し、社内に展開していくことです。そうしたなか、2022年以降、特に力を入れて取り組んできたのが、社内のコミュニケーション課題への対応でした。
同社は、事業の成長に合わせて、中途をはじめ採用を強化しており、2021年から2022年にかけて60人強が新しく組織に入ってきました。そうした人員増加とあわせて、コロナ禍以降はリモートワークも増えていったことで、「社内にどういう人がいるのかわからない」「どんな仕事をしているのかわからない」という声が聞かれるようになっていました。
高松さんは、「当社には、代表の本田が掲げるビジョンに共感して入社される人も多くいます。一方で、組織が急成長していくなかで、ビジョンや行動指針である『POS+DNA』が体現できているとはいえない状況も見受けられるようになっていました。このままではいけない、ここを変えていくには組織的な支援が必要だと考え、社員と会社のビジョン、組織と組織、人と人をつなぐ風土醸成に向けた取組みをはじめました」と当時を振り返ります。
社内の人を「よく知らない」?
人材組織開発グループが目指したのは「えがおを“つなぐ”社内風土醸成施策」の推進です。ビジョンにある「えがお」と、経営層が大事にしている「つなぐ」を軸に、会社のビジョンに社員がつながっていると感じられる取組みを考えていきました。
取組みを企画するにあたって、あらためて社内の状況を確認・分析したところ、社員同士がお互いのことを「よく知らない」ことが一つの大きな課題であることがわかりました。規模が小さい時には、「○○さんにお願いする」といったように顔を思い浮かべながら仕事ができていたのが、大きくなるにつれて、「開発担当の人」「営業担当の人」というように、役割でとらえることが多くなってしまっていたのです。
「相手の顔や仕事状況を知らず、また想像せずに『役割』だけでとらえるようになると、言葉が荒くなってしまったり、一方的な物言いになってしまったりしやすくなると思います。チャットでのやり取りが主流になっていたこともあって、『そういうつもりで言ったわけではないのに……』といった、ちょっとしたコミュニケーションロスによる行き違いやミスといったリスクが、そこここで出てきていました」
そこで、お互いを知り、社内コミュニケーションを活性化させていく施策を企画・導入することにしたポスタス。そこから約2年間、大小含めてさまざまな視点から取組みを考えていきました。
例えば、毎月1回、オンラインで実施している全社員参加の「月次会議」を、2023年度から、事業と組織・人を知る場としてリニューアルしました。前半は、従来どおり、経営層や部門長から業績や事業報告を行い、後半は、毎月、一つの部署にスポットライトを当て、部署メンバーから、業務内容やメンバー、苦労したエピソードなどを紹介してもらうようにしたのです。このほか、月次会議にあわせて、社長をはじめとした役職者が、ポスタス創業時の失敗談やトラブルなどを赤裸々に語るインタビュー動画も配信しました。
会議の内容を変えたことで、「直接関わりのない部門の人や仕事を知ることができた」「経営層のことが身近に感じられるようになった」といった声があがっています。なかには、「インタビュー内容を本にしてほしい」といった声もあるとか。現在は、コンテンツをアップデートし、「社内報」の形として配信していくための準備を進めているそうです。
「イカした仕事」を表彰!
個人の思いと会社のビジョン・DNA をつなげるため、2020年から開催しているのが、会社のビジョン・DNA を体現している「その年の自分の最もイカした仕事」を表彰する「イカした仕事大賞」、略して「POS + IKATAI」です。
全社員を対象としており、個人以外にチームでもエントリーできます。基本は自薦としていますが、他薦でのエントリーもあるそうです。社員は、2月に既定のエントリーシー トに取組み内容・成果と、それによって体現したビジョン・DNA を記入して応募します。シンプルな形でエントリーできるようにしているのは、社員への負担を減らすためです。
エントリー後は、経営層と運営事務局が事前審査を行い、5件程度まで絞ります。その後、毎年4月にオフラインで開催している社員総会のなかで、ファイナリストによる10分程度のプレゼンテーションを実施し、その場にいる社員投票でグランプリを決定しています。
「選考基準は、ビジョン・DNA の体現度と、そこまでの価値貢献の大きさです。毎回、熱のこもった内容のエントリーシートが提出されてきますし、『どうして自分たちのチームはファイナリストに選ばれなかったのか』という質問が事務局にくることもあります。社員総会でのプレゼンテーションも、効果音やBGM を活用してアピールするなどそれぞれ凝っていて、とても盛り上がります」
これまで、新プロダクトリリースまでのさまざまな障壁をチームで乗り越えたエピソードや、難しいといわれた受注を達成したエピソード、挫折しながらもチーム課題を突破していったエピソードなどが、ファイナリストやグランプリに選ばれています。社員からは、「1年間の仕事を振り返る機会になった」「他のメンバーの活躍を知って刺激を受けた」といった感想が寄せられています。
同社にはキャリア採用者も多いのですが、ファイナリストのプレゼンテーションなどを通して、会社が大切にしている理念や考え、その体現方法について具体的に知る機会にもなっているそうです。
心理的安全性を対話から学ぶ?
社内コミュニケーションをはじめとした「関係性の質」向上に向けて、2022年4月からスタートしたのが、「hint ゼミ+」です。これは、心理的安全性のある職場づくりに向けたリーダーシップのあり方について学ぶもので、当初は、管理職に実施していましたが、「この内容は全社員が知っておいたほうがいい」との社長判断から、リーダー層、メンバー層へと対象を広げてきました。
週1回(約1.5時間)、3カ月のプログラムで、部門横断メンバーによる、オンラインのゼミ(ワークショップ)での対話が中心となります。対話重視のため少人数での実施を基本としており、1クラスは8人程度。ワーク時には、さらに4人程度のグループに分かれて対話していきます。
このhint ゼミ+は、株式会社ループス・コミュニケーションズが提供しているプログラムです。同社代表取締役の斉藤徹氏の書籍『だから僕たちは、組織を変えていける』(クロスメディア・パブリッシング)がベースとなっていますが、内容は、ポスタスの課題に合わせてアレンジしています。
参加者は、事前に、上記書籍に関する動画を視聴し、事前課題に取り組み、ゼミでは、事前のインプットを踏まえて、グループ内でそれぞれの考えを伝え合っていきます。さまざまな人と関わること、いろいろな意見を知ることを重視しているため、メンバーの組み合わせは毎回変えているそうです。
各回のテーマは、「自分の本当に好きなこと」「働くことに対する価値観」といった内面に問いかけるものからはじまり、回数を重ねるごとに、「問いかけの仕方」「話の聞き方」といった複数人でのコミュニケーションに関するものや、「自分たちのチームにおける心理的安全性の課題」といったチーム運営に関するものへと進んでいきます。
チーム運営について他部署の人の話を聞くことで「同じような悩みを抱えているんだ」といった共感が生まれたり、「うちの部署はこうやっているよ」といったアドバイスがもらえたり、また、「うちだったら、どういうやり方があるかな」といった新たな方法を考えたりと、さまざまな広がりが出てきます。そうした対話のなかで、心理的安全性のある職場づくりに必要なことを学び、気づいていけるようになるのが、hint ゼミ+の特徴です。
ループス・コミュニケーションズ取締役副社長の福田浩至さんは、「ポスタスさんは、若い会社で中途採用の人も多いので、最初は、組織への帰属意識や求心力を高めていくのは少し難しいかもしれないと思っていたのですが、まったくそんなことはありませんでした。他社にも同じような研修を提供していますが、ポスタスさんは目に見えて会社の雰囲気が変わっていったことが印象的でした」と話します。
2024年11月現在、管理職のほぼ全員が、また、メンバー層の6割近くが受講を終えています。
「組織づくりは、どうしても、役職者の問題ととらえてしまいがちですが、メンバー層にも対象を広げたことで、上司と部下の共通言語が生まれました。組織づくりはみんなで一緒に取り組んでいくものという空気も醸成されてきたように感じています」
hint ゼミ+で学んだことがきっかけとなって新たなプロジェクトが社内で立ち上がるなど、好循環も生まれているそうです。
「手触り感」のある取組みを!
このほか、2024年からは、社内チャット上で感謝を伝え合う「POS + thanks」(ポスタスサンクス)もはじめました。これは、誰かの「ナイスプレイ」を見た時に、チャット上で「サンクスカード」を送るというもので、部門を超えて「感謝や称賛が飛び交う文化をみんなでつくる」ため導入しました。
内容は、業務に関係していれば、どんなささいなことでもかまいません。チャットでは「マニュアルを更新してくれてありがとう」「いつも丁寧な顧客サポートをありがとうございます」といった感謝の声がやりとりされています。これらの内容は誰でも見ることができるため、「勉強会を開催してくれてありがとう」という投稿をきっかけに、一部門で開催していた勉強会を全社に広げた例もあるそうです。またCS 担当が顧客からの称賛の声をコールセンターの社員へ伝えることで、普段はなかなか直接「お褒めの言葉」を聞く機会のない部門にスポットライトが当たるなど、社内全体のモチベーション向上にもつながっています。
さまざまな取組みを企画・運営していくなかで高松さんたちが大切にしているのが、「何のためにこの施策を実施するのか」という視点です。例えば、POS + thanks は「お互いに称賛し合う組織風土の醸成」を目的としているため、「投稿数」といった数値で評価することはしないようにしているそうです。
また、今、自社に何が必要かをしっかりと見極めること、なるべく社員の負担が少ない形で導入していくことも重視しています。新たな取組みを企画する際には、グループや他社事例を参考にしながら、「自分たちの会社」に一番望ましい形を考えています。以前、ビジョン・DNA 浸透に向けて「クレドカード」を導入する案があったそうですが、「ビジョンが社員に浸透していないとすると、それは『知らないから』なのか『知っていても共感できないから』なのか理由が不透明」だったため、その案は保留になりました。導入にあたっても、社内へのヒアリングやキーパーソンへの事前説明など、なるべく全員の意識がプラスに向くように気をつけています。
最後にもう一つ、高松さんたちが大事にしていることがあります。それが、「手触り感」のある施策とすることです。
「忙しい社員に制度の目的や意義、導入の背景を伝えるためには、自分たちの言葉で語り続けることが大切になります。そこを判断するための視点が、『手触り感』があるかどうかです。どこかから借りてきた言葉ではなく、運営側が、自分たちの言葉でしっかりと社員に伝えていくことです。今後も、社員のリアクションや反応をみながら、よりよい組織風土の醸成に向けて、私たちらしい『手触り感』のある取組みを継続していきたいです」
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- 企業・団体等の
経営層 - 企業・団体等の
教育研修担当者 - 労働組合
- 教育研修
サービス提供者
- 豊富な先進企業事例を掲載
- 1テーマに複数事例を取り上げ、先進企業の取組の考え方と具体的な実施方法を理解できます
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