企業と人材 「働く責任 働く自由」部門 優秀賞:日本自動車連盟(JAF)
一般社団法人日本自動車連盟
総務部人材サポート戦略課 課長 安井章員さん
経営企画部経営企画課 吉田智紀さん
支部のあり方・未来構想プロジェクト
一般社団法人日本自動車連盟(JAF)は、ロードサービスのほか、個人・法人会員向けサービス、交通安全講習会などを企画・提供しています。そうした取組みをより身近に感じてもらうため、そして、「地域で愛される存在」になるためにスタートしたのが、「支部のあり方・未来構想プロジェクト」です。将来に向けて、支部の「役割」を組み替えていくことで、個人の働く責任と自由はどう変化していったのでしょうか。総務部人材サポート戦略課の安井章員さん、経営企画部経営企画課の吉田智紀さんにお話をうかがいました。
本社 : 東京都港区
従業員数 : 3,416人(2024年3月末現在)
事業内容 : ロードサービス事業や災害発生時の特別支援隊派遣、会員優待サービス、実技型講習会開催や先進安全技術の普及啓発活動などの社会活動
JAFの存在意義とは?
「支部のあり方・未来構想プロジェクト」(以下、プロジェクト)は、全国に52ある支部それぞれが、自分が所属する地域の課題を発見し、その解決に向けてメンバーがアクションを起こしていく取組みです。
このプロジェクトの目的は、ずばり、JAFが「地域に愛される存在」になること。その背景にあったのは、社会環境が変化するなかで、自分たちの存在意義を再確認し、これから求められる役割へと転換していくということでした。
ロードサービスのイメージが強いJAFですが、もともとは、自動車のオーナードライバーの権益を保護する目的で1963年に設立された、自動車ユーザーの会員団体です。2024年10月末現在、個人・家族・法人会員を含めた会員数は約2,062万人。各種サービスは、会員が所属する支部が提供しています。つまり、主な顧客は「地域に住む生活者」なのです。
そうした「身近なファン」に支えられて事業を展開してきたJAFですが、人口減少や自動車保有台数の頭打ち、自動車業界のビジネスモデル変革など、将来に向けてはさまざまな課題が出ていました。これらに対応していくためには、より地域に密着した活動を、地域の人たちと一緒に行っていく必要がある―。そこで目指したのが、「地域に愛される存在」になることです。
安井さんは、「JAFとして地域課題に積極的に取り組んでいくことが、会員の皆さんに喜ばれることであり、そうすることで、将来に向けたJAFの存在意義を高めていくことができるのではないかと考えたのです」と話します。
この「地域に愛される存在」になるという考えは、プロジェクト開始以前から組織内でいわれていました。そこに向けて、2021年には、「支部の業績評価指標の改善」にも取り組みはじめています。
JAFでは、それまで、本部が方針を決め、それを各支部に落とし込んでいく体制をとっており、取組み結果を評価する業績評価指標も40項目あったそうです。「地域に愛される」組織となっていくためには、支部がより地域に根差した存在になっていくこと、そのために、支部への権限移譲を進めていく必要がありました。そこで、40あった評価項目を、「3項目+1」へと大幅に絞り込んだといいます。
具体的には、「支部ごとの収支」「在籍会員数」「ロードサービスの現場到着時間」の3項目に加えて、「+1」として、地域の課題を探し、その解決に向けた活動を推奨するとしました。プロジェクトは、この「+1」に向けた取組みになります。
「ファン」づくりに取り組もう!
プロジェクトは4月から翌年3月までの1年単位の活動です。期待することとしては、主に、1各支部の活動に対する地域からの共感や期待を通じたJAFのファンづくり、2地域との対話から課題を発見していくプロセスにおいて生まれるさまざまな人とのつながりによって事業活動の幅が広がること、3各支部が現場主導で意思決定を進めていく組織風土の醸成、の3つです。
詳しくは後述しますが、年度はじめに各支部で1年間のテーマを決定し、6月に開催される「地方本部大会」で宣言します。その後は、月1回の定例ミーティングを行いながら、3月までそれぞれが取組みを進めていきます。また、7月に、全国の職員による投票で会長特別表彰の対象支部を決めます。そのほか、年間を通じて、必要な知識・スキルを学ぶ研修や支部交流会なども実施しています。
支部の大きさは、地域や管轄範囲によって、数人程度から100人規模までさまざまです。そうしたこともあって、取組み方は各支部に任せており、責任者を立てて全員で取り組んでいる支部、部門横断でメンバーを集めて取り組んでいる支部など、いろいろな形があるそうです。
各支部の活動は、吉田さんが所属する経営企画課が事務局となって支援・サポートしています。事務局は、各支部の活動内容を取りまとめたり、状況や課題を共有しながらアドバイスをしたりするほか、各事業部門責任者への協力や定例会議への参加依頼なども行っています。相談内容によっては、各支部や組織内外の人をつなぐ場を設けることもあるそうです。
吉田さんは、「それぞれの支部が主体的に、円滑に活動していけるよう支援していくのが事務局の役割になります。最も重視しているのは、支部の決定を最優先するということです。テーマ決定や進め方についても、相談がくればアドバイスすることはありますが、指示をしたりすることはありません。活動内容や進め方、手段はすべて支部に任せています。仮に、活動が途中で止まりそうになったり、困難に行きあたっていたとしても、自分たちで悩み、解決方法を考えていくなかで、気づきを得ていってもらえればと思っています」と言います。
地域密着型のテーマって?
プロジェクトで取り組む課題(テーマ)は自由ですが、大枠として、「交通安全」「観光」「健康」「子育て支援」「自然環境」といった10の領域が設定されています。各支部では、地域で生活するなかで、また、日常の業務のなかで感じた問題や、地域の企業・団体・人へのヒアリングなどをもとにテーマを決めていきます。
これまで、例えば、「自然環境」領域での「奄美の野生生物のロードキル減少に関する取組み」(鹿児島支部)や、「交通安全」領域での「路面電車と乗用車の自動車の接触事故減少に関する取組み」(広島支部)といった活動が行われてきました。どれも地域の課題を吸い上げた、地域密着型のテーマといえるでしょう。
活動期間は1年間ですが、課題テーマは単年でも複数年継続してもかまいません。取り組むなかで「最初の課題設定が間違っていたかも」と思えば、途中で内容を変えることも「アリ」です。大事なのは、地域の課題を、地域の人・企業との対話を通じて知り、自分たちができることを考え、そこにきちんと取り組んでいくこと。そこさえブレなければ、柔軟に対応できるようにしているそうです。
プロジェクトで組織は変わる?
先にお伝えしたように、プロジェクトは、6月の地方本部大会で、各支部がその年度に取り組むテーマを「所信表明」するところからはじまります。
この大会は、全国の職員を対象にオンラインで開催しているもので、部署や新人職員の紹介、上司から部下、部下から上司への質問コーナーなど、各支部が用意したさまざまなコンテンツからなります。そのなかで、プロジェクトのテーマも発表してもらっているのです。
そして、7月には、前年度の各支部の活動内容に対して、全職員による投票を行い、上位3~5支部を会長特別表彰に選定します。投票は、活動内容を3分程度にまとめた成果報告動画を社内に公開し、そのなかでよい取組みだと思うもの(5支部)を選んでもらいます。これまでの会長特別表彰対象支部は、図表のようなものでした。
プロジェクト活動をより活発にしていくものとして実施しているのが、「支部交流会」です。これは、活動を進めるなかで、「他の支部の活動内容をもっと知りたい」「どうやって活動を進めているのか、他の支部の話を聞いてみたい」といった声が上がっていたことから、2024年8月と9月にはじめて開催しました。
事前に、他の支部と話したい内容や自分たちの悩み、活動中の失敗談などについてアンケートをとり、取組み内容や課題感が近い支部を事務局がマッチングしました。当日は、グループに分かれて、だいたい2時間、オンラインでのワールドカフェ方式でディスカッションしていったそうです。
それまで、支部をまたいだ社内コミュニケーションはあまり行われていなかったこともあってか、参加者からは「支部同士の交流ができた」「お互いの悩みを話し合ったり、アドバイスをし合える場は貴重」といった声があがるなど、交流会は大いに盛り上がりました。安井さん、吉田さんのもとには「今後も開催してほしい」という声が届いているといいます。
「学び」でプロジェクトを後押し!
もう一つ、プロジェクト活性化のために実施しているのが、必要なスキルや知識を学ぶ研修です。
「プロジェクトでは、これまでコミュニケーションをとったことがない企業や地域の人のところへ行き、地域の課題をヒアリングし、そこから、自分たちが取り組む内容を抽出していきます。外部組織・人との協働や課題解決に向けた手法を学んだことがない人も多いため、研修として取り入れることにしました」(安井さん)
プロジェクトをはじめた頃は「地域の人と対話したけど、うまくいかなかった」「地域課題を絞り込むことができなかった」といった声が数多く出ていました。また、活動を進めるなかでは、軌道修正が必要になったり、外部企業・人との調整が求められることもあります。多様な立場の人たちとコミュニケーションをとっていくこと、お互いの視点をすり合わせていくことは、職員にとって大きな成長機会になる、そう考えて、主に、「チーム研修」「管理職 研修」の2つを実施しました。
チーム研修は、ヒアリング内容を課題へと整理していくためのフレームワークや、プロジェクトにおけるチームビルディングに関するスキルを学ぶもので、2023年度に実施しました。支部のプロジェクト責任者を対象に、2日間の研修を開催したそうです。
また、2022年度からは、管理職研修のコンテンツのなかに、マネジメントスタイル転換に向けた内容を組み入れることも行っています。これは、プロジェクト推進においては、本部の考えを現場に伝え、現場の声を本部や経営にあげていくマネージャーの存在が重要になると考えたからです。研修では、マネージャーに対する360度評価の結果をもとに、自身のマネジメントのあり方を見直していきます。2024年9月現在、この管理職研修を受講したマネージャーは300人を超えており、プロジェクト活動にも徐々に変化が表れてきているそうです。
地域に本当に愛される存在へ!
プロジェクトは今年で3年目を迎え、「何をしたらいいかわからない」から、「自分たちで決めて進めていこう」というように、職員の意識も変わってきたといいます。テーマにも変化が起きています。開始当初は、「社外・地域課題を拾い上げること」としていても、会員数やロードサービスでの活動など組織内の課題を設定する支部が多かったそうですが、次第に、地域が抱える課題をもとに、「では、自分たちは何ができるか」といった視点が入ってくるようになってきたといいます。
今後は、プロジェクト活動を日常の業務と融合させていくことが大切になると吉田さんは言います。
「現状は、業務とプロジェクトを別枠として扱っている支部も多いようですが、それだと、だんだん関わるメンバーの負荷が大きくなってしまいます。そうしないためにも、いずれは、プロジェクトのプロセス自体が通常業務のなかに組み込まれていくようにしていきたいと思っています。地域との対話を通じて、地域に必要な存在になっていく、そんな開かれた組織に向けて、さらにプロジェクトを進めていきたいですね」(吉田さん)
このプロジェクトは、もともとは社会環境の変化への対応としてはじまったものですが、地域との関係性が深まることによる、働く職員のエンゲージメント向上といった効果も期待できます。
「JAFには、社会貢献意識をもって入社してきた職員も多くいます。プロジェクトを通して、そうした職員の『やりたいこと』を実現していくことができれば、必然的にエンゲージメントも高まっていくでしょう。社会や自身の仕事、身近な人に対する『志』と必要な『スキル』をもった職員が増えていくことで、『地域に本当に愛されるJAF』になっていければと思っています」(安井さん)
- 企業・団体等の
経営層 - 企業・団体等の
教育研修担当者 - 労働組合
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