企業と人材 「違いを力に」部門 優秀賞:ユニクル
ユニクル株式会社 代表取締役社長 高野俊行さん
副業起業で社会に通用するサービスを
ユニクル株式会社は、「社員のやる気向上」を支援するサービスやツールなどを提供している会社です。と、ここまでは普通の会社紹介ですが、興味深いのは、代表取締役社長の高野俊行さんをはじめ、ユニクルの従業員が全員「副業人材」だということ。「副業起業」を自ら実践している高野さんに、副業人材だけの企業の実態、副業起業に向けて社会・組織・個人に求めることなどについてお聞きしました。
本社 : 神奈川県横浜市
従業員数 : 28人(全員副業)
売上高 : 600万円(2023年度)
事業内容 : 社会人教育業およびタレントマネジメント,Saas業
「ユニクル」ってどんな会社?
副業・兼業制度を導入する企業が増えるなか、また、副業人材の受入れ先が広がるなか、副業人材だけで運営されているユニークな組織があります。それが、「学びをRPGに」をメッセージに、スキルの可視化と自律学習支援サービスを提供するユニクルです。
ユニークな組織体を体現する社名は、ずばり、「ユニークになる」をもじってつけたそう。そこには、人は誰でもさまざまなスキルの組み合わせによって成り立っている世界に一つの存在であり、一人ひとりがユニークな存在になることで、自己肯定感を「爆上げ」していってほしい、そして、「学び」を通してそうした世界をつくっていきたいという思いが込められています。
ユニクル創業者でCEOの高野さんは、国内外でプラントなどの設計・建設・オペレーション・メンテナンスなどを行う大手企業で、プラント建設に携わっています。海外勤務も経験し、仕事にやりがいを感じていたそうですが、ある時、次にやりたいことを考えるなかで、これまでとはちょっと違う道がみえてきたといいます。
「プラント建設に約18年間携わった後、次にやりたいことを考えた時に、『社会人としての自分自身をアップデートしたい!』と思ったんです。企業のなかでは、必ずしも、自分がやりたいことを手がけられるわけではありません。かといって、会社以外の道を探そうにも、起業をするのはハードルが高い。あわせて、国際的にみて日本人の学習意欲は低いといわれています。日本には、仕事やキャリアでチャレンジしようとする時に、多くのハードルが存在しているのです。そこを変えていくにはどうすればいいかを考えていくなかで、『自己肯定感』がカギになるのではないかと思い至りました。
『社会人の自己肯定感を高めていくことができれば、もっと面白い社会になるのではないか』。そこから、自分自身の能力やスキルを見える化し、認め合う仕組みをつくれば、自発的な能力開発につながっていくかもしれないと考え、働く人の承認欲求につながるサービスを提供する会社を思いつきました」
やりたいことをみつけた高野さんは、会社で働きながら、中小企業のDX伴走事業を支援するイントレプレナー(社内起業家)として起業。そして2021年に副業でユニクル株式会社のCEOというアントレプレナー(起業家)となりました。現在は、この2つに加えて、地元の地域振興活動に携わるインタープレナー(社会起業家)としても活動しています。
「Preneur(プレナー)」とは、英語の「Taker(受取人)」を意味するフランス語であり、枠を超えてさまざまな人・ものの間を取りもつ人を指します。イントレプレナー・アントレプレナー・インタープレナーという3つの顔をもつ高野さんは、まさに、事業や場を通じて、それぞれ異なる人や思いをつないでいる人といえるでしょう。
副業起業「ユニクル」で肯定感を上げる!
「働く人の自己肯定感を上げたい」という思いから起業した高野さんは、ユニクルのミッションとして、「学ぶ楽しみをすべての人に」を掲げました。そして、「日本人の自己肯定感を高め、学びの楽しさを広めること」「ゲーミフィケーションを取り入れた楽しい学習の仕組みの構築」を目標に、商品・サービスを開発・提供しています。
現在は、個人に対する2時間程度のインタビューをもとに、その人のスキルや経験を棚卸ししていく「ヒーローインタビュー」、人生を表すキーワード40個をまとめたカード交換を通じてコミュニケーション向上を支援する「ユニクルカード」、メンバー一人ひとりのスキルや学びを見える化するプラットフォーム「ユニクルII」の3つが、主なサービスとなります。
例えば、ヒーローインタビューで重視しているのは、「肯定」を通して今までの自分に自信をもってもらうことです。中学時代から今まで、また、はじめて部下をもった時の気持ちなどを1on1形式でインタビューし、スキルを棚卸ししてまとめることで、自己肯定感の向上を支援します。ヒーローインタビューの実施者は、450人以上にのぼってるそうです。
そんな同社が目指すのは、「副業起業」の実践です。ユニクルで働く従業員は、全員、本業などをもつ副業人材で、現在、26人いる従業員は、大手ソフトウェア企業社員や不動産スタートアップ企業社員といった別の顔をもっています。
とはいえ、ユニクルが副業人材による組織体となったのは、なかば成り行きからだといいます。
「ユニクルを立ち上げようと思った時、私自身は、法律はわからない、システムも作れない、営業もやったことがない、という状態だったので、『じゃあ、仲間を集めよう!』と考え、一緒に働きたい人に声をかけていきました。創業時に集まってくれた人は8人で、企業で人事をしている人やデザイナー、営業など職種はさまざまです。そこからサービスが広がるのにあわせて、人材も増えていきました」
創業時は、高野さんの考えに賛同して集まってくれた人が多かったのですが、最近では、提供しているサービスや同社の働き方を知り、入社してくる人も増えてきているそうです。
「ユニクル」の働き方とは?
同社は、一般的な企業体のような「組織」単位ではなく、事業活動や会社機能に関する「プロジェクト」単位で運営されています。年度はじめに立てた事業ロードマップをもとに、今期取り組むべきプロジェクトを考案し、高野さんが、各プロジェクトに副業人材をアサインしていくというのが、主な仕事の流れになります。その際には、必ず、本人のやりたいことや希望、考えなどを聞き、「やりたいこと」と「会社が任せたいこと」ができるだけ多く重なる業務にアサインするようにしているそうです。
現在、プロジェクト数は大小合わせて16個ほどあり、一つのプロジェクトには、だいたい5人程度が参加しています。
各プロジェクトでは、自社のビジョン・顧客体験設計・競争戦略を軸に、メンバーそれぞれがリーダーシップをもちながら自律的に動いていきます。それぞれが自分の役割を、「事務総長」「軍師」「研究所長」「書記長」「匠」といった自由なネーミングで表しているのもユニークです。
業務時間は、基本的には平日21~24時までの3時間。この間にプロジェクト・チーム単位で、オンラインで会議を行ったり、業務を進めていきます。
業務の割り振りや遂行において高野さんが最も重視しているのが、「健康>家族>本業>ユニクル」という優先順位を崩さないことです。業務の進め方は本人の判断にゆだねることになりますが、定期的に他のメンバーからも事情を聞き、適正な業務負荷と仕事の割りあてとなるよう留意しています。
プロジェクト単位で活動しているユニクルでは、その参画期間も個人の意思が尊重されます。本業や家庭の事情などで副業を行うことが難しくなった場合は、一定期間プロジェクトから外れたり、プロジェクト自体をストップさせることもあるそうです。数カ月ユニクルの業務から離れ、状況が落ち着いた後に復活している人も多いとのこと。納期などの都合でプロジェクトの中止・延期が難しい場合は、必要に応じて高野さんが仕事を引き取っています。
こうした、個人がそれぞれの方向性に軸を伸ばしていける組織体を表すものとしては「ウニ型組織」がありますが、高野さんが目指すのも、まさしく、それぞれが「好きな方向に尖る『ウニ型組織』」です(図表)。
なお、現時点では、副業人材への報酬は定期的な食事会(焼肉)となっているそうです。
「ユニクル」に集まる仲間たち
従業員からは、「ユニクルでは自分のやりたいことをやれるので、それが人生に彩りを加えている」「仲間と働く時間が楽しみ」といった声があがっています。
ユニクルに集まってくる人がやりたいことができる環境を整えるために高野さんが気をつけているのが、連絡手段やデータの扱い方などの共通ルールを定めること、そして、コミュニケーションをおろそかにしないことです。
「オンライン会議などのほか、定期的にメンバーそれぞれにメールをして、状況を確認しながら、今、その人がどういう状態なのか、ユニクルへの参画を楽しんでくれているか、どういうことを期待しているかといったことを聞くようにしています。副業人材は、所属している企業も違えば、価値観や考え方、ユニクルへの関わり方などもそれぞれ異なります。そうした多様な人たちと同じ目標に向かって動いていくためには、やはりコミュニケーションが重要になります。誰もが自分の意見を出し合える環境をつくっていくこと、そして、私がすべて決めて牽引していく組織にしないことを心がけています」
時には、高野さん自身が「それって、どうなの?」と思うようなアイデアがメンバーからあがってくることもあるそうですが、そうした場合も、はじめから否定することはしません。それは、「自分で枠を決めてしまうと、その人の能力を超えた案は出てこなくなってしまう」と考えているからです。実際、「ユニクルカード」や「ヒーローインタビュー」は、メンバーの発案から生まれたサービスです。いずれも、高野さん自身は予想もしていなかったアイデアで、当初は批判的な意見を言うメンバーもいたそうですが、「面白いかもしれない」と見守り続けることで、今では、事業の柱の一つに成長ました。
「一見、荒唐無稽に思えるアイデアも、『もしかしたら面白いかも』というスタンスに立ってみると、実現できるように感じてくるものです」と高野さんは言います。
「副業起業」で進む「ユニクル」
2024年10月に、ユニクルは創業から4期目に入りました。事業の成長とともに人材も増え、これまでの「有志がやりたいことを優先して行う」ステージから、「事業として継続させていく」ステージへと移りつつあります。「会社の成長フェーズに応じて、組織も『大人になっていく』ことが必要なのかもしれません」と高野さんは言います。
今、高野さんが感じているのは、「副業で起業する」方法が、より多くのビジネスパーソンの選択肢に入っていく世の中になってほしいということです。特に、「起業」という選択肢はまだハードルが高いという場合に、企業に在籍したまま、副業で会社を立ち上げることができれば、資金面での不安を抑えながら、働く人のチャレンジを促していくことができるはずです。
その際に重要になるものとしては、「人脈」をあげます。自分自身を振り返っても、起業前に培ってきた人脈に助けられたそうです。そうした経験もあって、業務のなかでさまざまな人脈を築いている大企業の40代が起業すれば、日本にはもっといいビジネスが生まれてくるのではないかと考えています。
「『何をやりたいのか』というビジョン型のWillをもっている人は必ずしも多くないかもしれませんが、一方で、『こういう自分でありたい』というミッション型のWill、『こうしたことを大切にしたい』というバリュー型のWillをもつ人は少なくないはずです。そうした人がビジョン型を支える形があってもいいでしょう。アメリカの実業家、アンドリュー・カーネギーの墓碑には『自分より賢き者を近づける術知りたる者、ここに眠る。』と刻まれています。私は、この言葉に強く共感します。私の能力には限りがありますが、優秀な人たちが気持ちよく働ける環境をつくることはできる。1人で全部やろうとするのではなく、やるべきことを、仲間を集めながら分担していくこと、そこがメンバー全員にとって楽しいと感じられる環境をつくることが、私の目指す副業起業のあり方です」
副業起業のその先としては、そのまま細く副業を続けることで心と金銭に余裕をもっても、副業をメインにすることで新たなチャレンジをしてみても、畳んで本業に専念することで副業で得た学びを本業に活かすのもよいと思っているそうです。
「いずれにせよ、能力と意志がある人が家族などへのリスクを少なくしながら挑戦できること、そして、この国に多くの価値が生まれて行くこと。そういった社会に、日本がなっていけばと思っています」
- 企業・団体等の
経営層 - 企業・団体等の
教育研修担当者 - 労働組合
- 教育研修
サービス提供者
- 豊富な先進企業事例を掲載
- 1テーマに複数事例を取り上げ、先進企業の取組の考え方と具体的な実施方法を理解できます