企業と人材 「違いを力に」部門 最優秀賞:パーソルキャリア

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パーソルキャリア株式会社 ミッション共創推進部 三石原士さん

キャリアオーナーシップをあたり前に!
他人に目標をたててもらうワークショップ「タニモク」プロジェクト

100年続く個人と組織を創る「HR’s SDGsアワード」受賞企業の取組み パーソル

 「タニモク」とは、利害関係のない3人または4人で、目標をたて合うワークショップのことです。はじめたのは、パーソルキャリア株式会社ミッション共創推進部に所属する三石原士さん。個人活動からはじまり、社内外へと広がりをみせている「タニモク」について、三石さんに、その考え方や実施する際の留意点、そして、有志によるワークショップを軌道に乗せていくためのコツなどをお聞きしました。

会社概要
本社   : 東京都港区
従業員数 : 6,929人(2024年3月1日時点)
売上高  : 13,271億円(グループ連結 2023年度)
事業内容 : 人材紹介サービス、求人メディアの運営、転職・就職支援、採用・経営支援、副業・兼 業・フリーランス支援サービスの提供

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「違いを力に」部門 最優秀賞:パーソルキャリア
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「タニモク」とは?

 「他人」同士でお互いに目標をたて合うワークショップ「タニモク」。パーソルキャリアに所属する三石原士さんが、2017年からはじめた個人活動が原点になっています。三石さんが、「タニモク」という、ちょっと意外なワークショップを思いついたのは、これからの働き方やキャリアについて、より前向きに選択肢をもつきっかけをつくりたいと思ったからだそうです。
 最初は社外での自由なワークショップからはじめ、2018年9月からは、「タニモク」と命名し、パーソルキャリアのプロジェクトとして社外への提供をスタートしました。

 

 「タニモク」が社外に広がる転機となったのは、2020年。この年から、パーソルキャリアの社内活動としても大いに活用されるようになりました。この背景にあったのは、コロナ禍によって社員同士の交流機会が減ったことで、キャリアや今後の目標を立てることを、以前より難しく感じる人が出ていたこと。あわせて、同社では「キャリアオーナーシップを育む社会の創造」に取り組んでおり、それを体現できる施策の一つとして、「タニモク」に注目が集まったそうです。
 プロジェクト発足以降、三石さんは、プロジェクトに集まった有志メンバーと連携しながら、それまで対面が基本だったプログラムを、オンラインでも実施できるようにアップデートしていきました。そして社内に対しては、「タニモク」を使った「キャリア対話」の機会をつくっていきました。

 

 三石さんは、「『キャリア研修』といった座学形式にしなかったのは、画一的な研修では、さまざまな人の多様な課題に十分対応できないと考えたからです。キャリアを軸に置いた『対話』を活動の主軸にすることで、『タニモク』の効果を体感した人たちが、自発的なキャリア対話を広げていきたくなる状態をつくっていきました。個人からコミュニティへと活動を広げながら、働く意欲やパフォーマンスを上げていってもらうことを目指しました」と話します。
 現在は、マニュアルや投影資料、台本、ガイドラインなどのツール一式をホームページで無償提供しており、社内外の至るところで、自分たちの「タニモク」が開催されているようです。

「タニモク」をやってみよう!

 先ほど述べたように、「タニモク」は、現在、ガイドラインなどが公開されているため、誰でも開催することができます。具体的な実施方法は、「タニモク」の公式ホームページをご確認ください(https://tani-moku.jp/manual.html)。

 

 ここでは、三石さんが実施に際しての留意事項としてあげているものを入れながら、簡単な流れをみていきたいと思います。

 

 「タニモク」の特徴は、その名のとおり、他人に目標をたててもらうことです。それによって、自分の頭では浮かばないような新たな切り口や考えを得られることを目指します。ただし、最終的な目標を決めるのは、あくまでも自分自身。ここは譲りません。
 「他人」に目標をたててもらうことが重要となるため、少人数での実施が望ましいとしています。最小開催人数は、本人を入れて4人としており、人数が多い時は3~4人のグループに分かれて実施します。開催時間は、最短で1人あたり30分をみておくとよいそうです(4人の場合は、4人 × 30分 = 2時間)。

 

 参加メンバーに望ましい条件としてあげているのが、「直接の利害関係がないこと」「参加者全員が新しい目標設定を行いたいと思っていること」「異なるバックグラウンド・観点をもっていること」です。
 ワークショップでは、グループごとに、1人ずつ、自分自身の現状や考えていること、抱えている悩みといった「モヤモヤ」について絵を使って話し、他のメンバーは、それを聞きながら質問を投げかけ、「自分だったら」という視点でその人の目標を提案します。このサイクルを順番に行っていき、グループ全員分が終わったら、個々人で「理想の姿」と「今すぐ」「1カ月後」「半年後」までの行動目標を決めます。
 他者から提案された目標は、すべて受け入れなくてもかまいません。ただし、一見無理なように思えたり抵抗感があったりする提案でも、すぐに否定するのではなく、理由を含めて提案者の考えや思いを理解しながら、少しでも実現可能性がないか探っていくことが、「タニモク」に参加するスタンスとなります。

「タニモク」で何が変わるの?

 あらためて、自分自身で目標をたてることと、他人と目標をたて合うことはどう違うのでしょうか。
 三石さんは、「誰しも、自分自身についてみえていない部分があります。悩んでいる時に他人に相談したことで方向性がみえてきた経験をしたことがある人も多いでしょう。『タニモク』では、利害関係のない他人の目から自分の状況をみてもらい、客観的・肯定的な意見をもらったうえで、行動していくための目標をたて合っていきます。他者の目をとおして自分にない発想を発見すること、曖昧だった自分の思いを具体化させていくこと、それを再現するワークショップが『タニモク』です」と説明します。
 他人の目標を考えることが、逆に、自分へのヒントになることもあります。それも、「タニモク」の面白さでしょう。

 

 こうした「タニモク」の効果については、コーチング理論を用いた対話構造からも説明ができると三石さんは言います。「タニモク」での「モヤモヤについて話す→質問をもらう→客観的かつ肯定的な目標提案→意思決定」という流れは、コーチングセッションにおける、「聞く→質問→観察→承認→提案→自己決定」と同様の構成となっています。これによって、参加者の本音を引き出し、納得できる目標を設定するとともに、それを応援し合える環境も早期に実現していくことができるそうです。

「タニモク」増殖中!

 パーソルキャリアでは、自社内での「タニモク」を活用したキャリア対話の開始以降、オンボーディングやイベントなどでのキックオフ、また、別部門のメンバーや若手同士など、さまざまな関係性のなかで「タニモク」が活用されてきました。これらの多くは、過去の「タニモク」参加者が個人的なネットワークを通じて広げていったものです。
 会社主導の取組みとしては、女性管理職研修やダイバーシティ研修、目標管理制度(MBO)のなかで「タニモク」を実施しています。MBO支援施策の一環として上司と部下を対象に行った際には、目標設定の工数減や部下の納得度向上、また、定期的に実施している1on1の内容などに、大きな手応えがあったといいます。

 

 「以前より、メンバー層から、『1on1で何を話せばいいのかわからない』『MBOでどのように目標を設定すればいいのか』といった悩みが出ていました。そこで管理職に『タニモク』を体験してもらったところ、メンバー本人が気づいていない強みや状況がわかったり、これまでとは違った視点から背中を押したりすることができるようになったという声が聞こえてきています。『タニモク』を通じて、一人ひとりのありたい姿を提案し、サポートし合う土台ができつつあると感じています。

 

 「タニモク」は、基本的には、直接の利害関係がない相手と行うものとしていますが、仕事上の距離が近い人と実施する場合は、現状に即した具体的な目標設定ができるといったメリットがあります。一方で、他部門のメンバーなど仕事での関わりが少ない人と実施する場合は、「前提」を超えた大胆な選択肢がみつかりやすいこと、社内ネットワークの広がりなどがメリットとしてあげられます。2024年3月には、パーソルキャリアの経営ボード同士による「タニモク」も実施したそうです。
 これまでに、社内で「タニモク」に参加した人は、延べ1,000人に上るとのこと。実施後のアンケートでは「仕事に対するモチベーションが上がった」「働くうえで大切にする軸が明確になった」といった項目で満足度が高くなっていました。参加者からは、「他人の意見から、新たな切り口や選択肢を得られた」「自分自身が何を大切にしているのか、どのような人にみえるのか、他者を通して理解できた」など、前向きな声が上がっています。

 

 「タニモク」でたてた目標から社内表彰を受けた新人社員や、目標をもとに希望を出して異動した人など、実際の行動変容につながった例も多くでているそうです。

「タニモク」のコツとは?

 三石さんたちは、「タニモク」を企画・実施していくうえで、いくつか留意している点があるといいます。
最も大切にしているのは、「タニモク」は目標の切り口を得る場であり、アドバイスする場ではないという考えを共有することです。そのため、目標を提案する際には「私が○○さんだったら」という枕詞をつけることと、自分では選ばないものや、実現不可能なものは提案しないことを参加者に伝えています。

 

 「『アドバイス』になってしまうと、相手の行動を否定したり、自分の意見を押しつけたりすることにつながりかねません。そうした態度の参加者がいるグループは、明確に満足度が下がります。『タニモク』は正解を当てる場ではなく、あくまで、本人の選択肢を広げるための視点を提供する場です。ここをきちんと押さえておかないと成立しません」

 

 もう一つ、「タニモク」でたてた目標を行動に移していくために留意しているのが、「おせっかい」をすることです。
 「例えば、目標を達成するために他部署の人の関わりが必要となった場合には、『私、その部署に知り合いがいるから、ちょっと声をかけてみようか』といったように、たてた目標が実現できるように周囲が『おせっかい』をしていくんです。面識がなかったり、忙しそうだったりすると、声を掛けるのを躊躇してしまいますが、間に入ってくれる人がいると、話はスムーズに運びます。小さなきっかけからはじまって、人や組織が大きく変わっていったことも珍しくありません。実際に行動に移し、そこで成功体験を得ることができれば、次の目標へとつながっていきます。
 それもあって、私たちは、同じメンバーでの『タニモク』を最低3回実施することを推奨しています。回を重ねるごとに、互いの価値観への理解が深まり、共感が生まれ、より的確な提案ができるようにもなります」

 

 一つの事例として、パーソルキャリアでは、女性社員を対象とした研修時に、社内SNS上にグループをつくり、そこに各自が決めた目標を入力していくといったことを行っています。その内容をもとに、運営事務局が人や部門を橋渡しするといった「おせっかい」を焼くこともあるそうです。

「タニモク」のこれから

 三石さんの個人活動からはじまった「タニモク」は、今、社内外へと広がっています。オープンソースとしてノウハウを公開したことで、企業や学校・団体での実施数が増えているほか、アスリートのセカンドキャリア開発などにも活用されているそうです。2023年からは、参加者同士がフラットな関係でメンタリングを行う、「タニモク」を活用した「キャリア・メンタリング」の社外への実践や情報提供などもはじめました。

 

 「私たちは、今、『タニモク』を用いたキャリア対話が、組織の枠を超えて展開されていく、『キャリア・メンタリングネットワーク』というコンセプトをもって活動を続けています。キャリアを考えることがもっとあたり前になり、今後の働き方や生き方を考える機会をみんなでつくっていきたい。よい目標は、人生を変えることにつながります。企業の枠を越えてさまざまな視点を取り入れながら、働く一人ひとりが前向きな人生を進んでいく、そうした機会づくりを進めていければと思っています」

 

 最後に、三石さんは、「タニモク」などの有志によるワークショップやコミュニティが継続していくポイントとして、「簡単」「役に立つ」「面白い・楽しい」の3つをあげてくれました。気楽に楽しく、でも、使える、これが人を集める秘訣かもしれませんね。

 目標を他人にたててもらう―。一見、無責任なようにもとれる「タニモク」ですが、これまでのノウハウとコーチング理論などをあわせることで、多くの人の新たな視点や可能性を拓いています。まさしく、「他人」という「違いを力に」する取組みといえます。

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