人事
賃金・賞与・退職金改訂5版 職能資格制度
人事
賃金・賞与・退職金
■楠田 丘・著 |
目次
1 人事管理の理念
(1)能力・仕事・賃金の成長高位均衡
(2)日本モデル(能力主義)とアメリカモデル(成果主義)
2 人間基準の日本モデルの過去100年の経緯
(1)日本モデル(人間基準人事)の種類
(2)日本モデルの過去100年の歴史
3 能力主義の今日的課題と修正の方向
(1)能力主義人事の今日的課題
(2)修正の方向
4 職能資格制皮の性格と機能
(1)年功に代わる処遇基準(社員満足が経営の出発点)
(2)人材育成のラダー(人材戦略の基本)
(3)過去の努力に報いる社内称号(降格はない)
(4)日本型成果主義の基盤(インプットなくしてアウトプットはない)
5 能力主義人事の4つの基準-“まず基準を明確にする”
(1)期待される職能像-等級基準と役割基準と職群基準そして実力基準(コンビテンシー)
(2)「基準」の明確性(全社的統一性)と柔軟性(時・所・人による機動性)
(3)能力主義人事を構成する6つの制度-“トータルとして整備する”
(4)能力主義人事・労務管理の流れ-“現場個別管理を強化する”
第二章 職能資格制度の設計
1 職能資格制度導入の手順
2 職能資格等級のフレーム
(1)枠組み
(2)等級数の設定
(3)資格等級の定義
(4)資格呼称(最も基本となる社内のステイタス)
(5)初任格付等級の設定
(6)対応役職位の設定
3 昇格基準指標
(1)昇格のための必要経験年数の設定
(2)昇格基準の考え方
4 職能資格等級と職群の位置づけ
(1)職群の導入
(2)「習熟の深まり」のパターン
5 設計上の留意点
(1)全社一本設計か職掌別設計か
(2)高齢化と等級の数
(3)理論モデル年数の設定
(4)一つの事例
(5)問題点-あいまい性
(6)能力の“絶対評価”こそが不可欠
第三章 職務調査と等級基準(職種別等級別職能要件)
-職能マニュアルの設定
1 等級基準(職種別等級別職能要件)は職務調査から
2 職務調査の内容と手順
(1)職務調査の内容
(2)課業とは
(3)職務調査の手順
(4)職務調査の産物
3 職務調査の実際
(1)具体的手順
(2)作業母体を決める
(3)職種(職務調査の単位区分)の編成
(4)課業の洗い出しと難易度評価
(5)習熟要件の設定
(6)修得要件の書き出し
(7)個人別課業分担表の作成
4 職務調査の留意点
第四章 職群管理の導入と運用
1 職群管理の今日的認識
(1)職群管理とは新たなる人材管理
(2)その背景
2 職群管理の意義と機能
3 職群管理の要件
(1)編成上の要件
(2)運用上の要件
4 昇進の多様化管理職・専門職・専任職
第五章 職能資格制度の運用
1 運用の原則
2 昇格基準
(1)3つの要件
(2)仕事や職種と昇格との関連
(3)試験と昇格
3 昇格(処遇)と昇進(配置)の分離
(1)高年齢化と昇進処遇
(2)昇格と昇進の分離
(3)人材評価制度と昇進基準
4 中途採用者(スカウト人材)の格付け
5 職能資格と仕事
6 移行時の格付け
7 定年延長と高位資格者の処遇
(1)高位資格者の処遇がこれからの課題
(2)前向きで対応を
第六章 期待像を軸としたトータルシステム
-人材の評価・育成・活用
1 目標面接制度-チャレンジシステム
2 職能資格制度とキャリア(職歴)開発
3 職能資格制度と人事考課
(1)育成型人事考課-絶対考課
(2)絶対考課への道
(3)職能開発力ードと成績考課表
(4)職能分析カードと能力考課表
4 職能資格制度と育成面接制度
5 人事考課と処遇
(1)考課結果の計量化(絶対考課と処遇、賃金配分)
(2)ウエイト設定の考え方
(3)目的別ウエイトの展開(人事考課と昇給・賞与・昇格)
(4)職能階層別ウエイトの展開
(5)考課要素へのブレークダウン
(6)相対区分と絶対区分(評価と査定)
(7)調整の考え方
6 配転と人事考課
第七章 日本型成果主義の構築が労使の課題
1 日本型成果主義のフレーム
2 賃金カーブ(賃金体系)の修正
3 スキルステージ別の賃金体系
4 実力主義・加点主義の整備が要件
(1)実力主義の導入
(2)加点主義への組織転換
5 コンビテンシーモデルの設定(モデリング)と実力評価
第八章 職能資格制度のこれからの課題
1 労働市場の外部化への対応
2 職種別標準スキル別能力要件・役割要件と貸金水準
図表索引
はじめに
まず1つは、年功・職階に代わる新しい処遇基準としての意義をもつ。
すなわち高齢化、男女平等化、ハイテク化、それに低成長といった新しい時代環境の中で、年功人事は行き詰まりをみせつつある。年功人事のままでは、人材の育成、活用、処遇が不安定となると同時に、経営も活力を失おう。そこで年功人事は修正されねばならない今日的状況の中にある。
ところで年功人事は、人間の成長の側に視点を置いた人間基準人事だという点ですぐれた側面をもっている。問題は学歴とか男女とか勤続年数といった属性的要素を基準としている点である。そこで年功人事修正の方向としては、属性にこだわらない、しかも人間基準人事ということになるが、それは能力主義人事しかない。すなわち新しい時代環境の中で、指向すべき人事制度の方向は、“人間の成長の側に視点を置いた能力主義人事”ということになる。そしてその基軸こそが、この職能資格制度なのである。
第2の意義は、人材育成のラダーとしての機能をもつ。そもそも能力主義人事における能力とは、企業が期待し求める熟練像つまり期待職能像にほかならない。 その期待職能像は、職種別等級別に分類されて示される。それが職能分類制度すなわち職能資格制度にほかならない。いわば、職能資格制度は、それぞれの企業が期待し求める能力(職能)像の職種別等級別の分類明細書であるといえる。単なる身分資格制度ではない。期待し求める職能像であるからこそ、従業員にとっては、それがキャリア形成(仕事や能力を高め広げ続けること)のプログラムないしラダーとしての意義をもつと同時に、経営側にとっては、人材の育成、活用、そして処遇の基準ともなり得る。
ひるがえって職能資格制度は昭和50年代に入って年功昇進制を修正する意図をもって、盛んに登場した。しかしながら、職能資格等級は職務遂行能力の発展投階に応じたグレードということであって、一般的概念としてははっきりしているのだが、いざ等級基準となると具体性をもつことはいたってむずかしい。能力は確かな手応えをもって把握することはできないものであり、かつきわめて流動的でさえあるからである。つかまえどころがなく、かつ流動的な能力をもって人間を一定の等級に区分し格付けすること自体が、困難な行動だからである。
そのため、ともすると職能資格等級は年功身分資格的に運用されてしまうおそれをもっている。
そこで職能資格制度を人材育成の基準として有効ならしめるには、「職務調査」を確実に実施して職種別職能要件(修得要件と習熟要件)を明示することが要件となる。職務調査なしの職能資格制度は、いわば手抜きのシステムであり、それでは運用が年功に流れてしまいかねない。そして第2の意義は喪失する。
さて、第3の意義は、自己充足への努力、そしてその結果身に付けた能力の高さに対する社内資格である。すなわち、当人の過去の労働の歴史の日々に対する名誉資格である、教授は助教授に落ちることはない、これと同じように職能資格制度には降格はない。
そして最後の第4の意義は、日本型成果主義の基盤をなすというまさに今日的意義である。日本モデルとしての人間基準の能力主義(職能資格制度)は高齢化の中で人件費の面で経営に負荷を与えつつあるが、社員満足つまりインセンティブの面ではすぐれた側面をもっている。他方、アメリカモデルとしての成果主義は人件費の面で経営にとって大きなメリットをもつが、社員満足の面では多くのマイナス面をもっている。国際化とは、日本を捨てて海外に走るのでなく、日本の長所と海外モデルの長所を巧みに組み合わせ調和させることが要件となる。すなわちそれが人間基準の日本型成果主義にほかならない。
職能資格制度で人材を育てながら、成果主義で成果を処遇に結び付けていくあり方である。インプット(職能資格制度)なくしてアウトプット(成果)はない。職能資格制度を捨てては元も子もなくなることを見失ってはならない。
そこで本書は、新しい環境情勢の中で職能資格制度は以上のような4つの職能をどのような条件でもちうるのか、どうすれば職能資格基準に明確性と納得性を付与しうるのか、その再点検のポイントや整備・強化の方策をできるだけ今日的条件の中で考えてみることとした。
基本的姿勢としては、(1)日本的組織風土を尊重しながら、(2)職種別等級別職能要件の明確化と、(3)能力評価の公正確立を重視し、(4)それをベースとした能力の積極的な開発・活用、およびその上に立って、(5)日本型成果主義の導入を図る、そしてそれらの前提として、(6)労使の共同検討を条件とした。
本書が職能資格制度の設計、運用の実際そして整備強化に携わる労使の方々に何らかの形で参考になれば幸いである。
楠田 丘
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