民間のシンクタンク機関である産労総合研究所(東京都千代田区、代表 平盛之)が発行する定期刊行誌「人事実務」(編集長 重山紀子)は、私傷病による長期療養と雇用・就労との両立について、「私傷病保障制度と復職支援等に関する調査」を実施した。
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調査結果のポイント
(1)私傷病保障制度(身分保障制度)の有無
- ほとんどの企業に私傷病保障制度あり(98.6%)
(2)勤続年数別にみた身分保障期間
- 勤続1年で14.5カ月、勤続20年で24.5カ月(一般疾病の場合)
(3)休業期間経過ごとの所得保障率(一般疾病、勤続10年モデル)
- 休業3ヵ月までは休業前賃金の8割保障、36カ月でも7割保障
(4)職場復帰訓練(リハビリ・ならし勤務)
- 復職に際しては、制度の有無にかかわらず、医師の指示により職場復帰訓練を実施している企業は71.7%
(5)職場復帰の判断基準
- 本人の意思(79.5%)と主治医の診断(87.1%)、産業医の判断(65.2%)を重視
(6)復職時の処遇
- 復職時の職務について、原則として「休業前の職務(原職復帰)とする」企業が7割強
- 復職時の昇給・ベアの取扱いについてみると、「休職直前の賃金を支給(次回の昇給時期まで凍結)」が33.6%、「通常勤務者と同様に昇給・ベアを実施」が24.6%、「復職後の勤務形態に応じて決定」は13.4%
調査要領
【調査対象】本誌調査から任意抽出した2,000社
【調査時期】2011年11月~12月
【回答状況】回答のあった140社について集計
用語の定義
労基法では、社員が私傷病で休むときのルール(基準)については何も定めていない。ただ、労基法(15条、89条)により、賃金(欠勤控除)、休暇(病気休暇)、休職、解雇に関する事項として明示し、定めておかなければならない。一般的には、一定期間の欠勤を経て休職に入るといった規定を設けて、療養に専念させる企業が多いようである。
本調査では、以下のように定義している。
「欠勤期間」欠勤扱いとする期間(欠勤許容期間)
「休職期間」休職扱いに移行した後の期間
「身分保障期間」欠勤期間と休職期間の両方を併せた、雇用を保障している期間
「所得保障期間」身分保障期間のうち、賃金や傷病手当、健康保険からの傷病手当金や共済会からの休業給付などが支給されている期間
なお、病気療養のために休業しているときの所得保障は、会社からの支給がなければ、健保から傷病手当金が支給されるが、健保の傷病手当金の支給期間は18カ月で(健保法99条2項)、その支給額は平成18(2006)年の法改正でそれまでの「標準報酬日額の6割」から「標準報酬日額の3分の2」に引き上げられている(99条1項)。
高齢化やIT化等による労働環境の変化の中、生活習慣病罹患やメンタル不調により、社員が長期療養を余儀なくされる状況が増加してきている。長期療養と雇用・就労との両立、すなわち休業中の所得保障、雇用(身分)保障、復職支援等の整備がいま企業に求められている。
調査結果の概要
(1)私傷病保障制度(身分保障制度)の有無
私傷病休業に対する「身分保障制度」のある企業は98.6%
今回の調査結果では、「私傷病による休業に対する身分保障制度」(以下、身分保障制度)のある企業は98.6%であった(図1)。従業員規模別にみると、1,000人以上規模企業(以下、大企業)および300~999人以上規模企業(以下、中堅企業)では100%の企業が制度を有しており、299人以下(以下、中小企業)でも96.6%の企業が制度を有している(表1)。
身分保障期間中の休業方法としては、一定の病気欠勤期間満了後に病気休職に移行する企業が9割超。
図1 私傷病休業に対する身分保障制度の有無
表1 私傷病休業に対する身分保障制度の有無と休業方法
(2)勤続年数別にみた身分保障期間
一般疾病による休業の場合、勤続1年で14.5カ月、20年で24.5カ月
勤続年数別に「身分保障期間」をみると、一般疾病については、「勤続1年」が14.5カ月、「10年」が22.9カ月、「20年」が24.5カ月である。これらは、前回2004年調査と比較してもほとんど変わりがない(図2、表2)。
図2 身分保障期間の平均月数(一般疾病)
表2 身分保障期間の平均月数
(3)休業期間経過ごとの所得保障率
休業3カ月までは休業前賃金の8割保障、36カ月でも7割保障
休業期間経過ごとの所得保障率(休業前給与の何割を保障しているか)を、勤続10年のモデルで、給付(保障)主体(会社、健保、共済会)合計でみると、休業3カ月までは休業前給与の約8割(1カ月目80.5%、3カ月目79.7%)で、3年目まで7割台で推移している。休業期間が長くなるほど保障率は下がるが、休業36カ月まで給与の7~8割程度は確保する企業が多いようだ(図3)。
図3 休業期間経過ごとの所得保障率(一般疾病、勤続10年のモデル)
(4)職場復帰訓練(リハビリ・ならし勤務)
復職時に、医師の指示により、職場復帰訓練を実施する企業は7割超
一定程度、症状が回復した段階で、主治医から、職場復帰に向けて通勤訓練やリハビリ勤務・ならし勤務が指示される場合がある。
職場復帰訓練制度の有無にかかわらず、主治医または産業医の指示で何らかの職場復帰のための支援を実施している企業は7割を超えている(71.7%)(表3)。
具体的な支援措置(訓練内容)をみると(訓練あり企業=100)、「勤務時間の調整」(79.8%)、「作業内容の変更」(56.6%)が多い(図4)。
なお、休職者が出たときにそのつど対応するのではなく、あらかじめ就業規則等に復職支援制度の内容を示しておくほうが、社員のモラールやコミットメント(帰属意識)の向上につながると思われる。
表3 医師の指示により行われる職復帰訓練の内容
図4 実施されている職場復帰訓練の内容(訓練あり=100,複数回答)
(5)職場復帰の判断基準
本人の意思(79.5%)と主治医の診断(87.1%)、産業医の判断(65.2%)を重視
職場復帰訓練が順調に進行すると職場復帰することになる。どのような判断基準により復職を認めているのかをみてみると、「主治医の診断(87.1%)」、「本人の意思(79.5%)」、「産業医の判断(65.2%)」の順で多い。「原職復帰が可能な回復(35.6%)」と、勤務上の配慮の必要性がないことを重視する企業もある(図5)。
なお、規模別にみると、大企業では、主治医の診断(81.8%)よりも産業医の判断(87.9%)を重視しているのに対し、中小企業では産業医の判断(46.3%)よりも主治医の診断(88.9%)を重視する傾向がみられる(表4)。
図5 職場復帰の判断基準(複数回答)
表4 職場復帰の判断基準(複数回答)
(6)復職時の処遇
配置については、原則として休業前の職務とする企業が72.8%
復職時の職務についてみると、「原則として休業前の職務(原職復帰)とする企業」が72.8%、次いで「復職時の回復状況をみて決定する企業」が21.3%、「復職時の職場状況によりそのつど決定する企業」が16.2%であった(図6)。
図6 復職時の職務(複数回答)
3社に1社が休職直前の賃金を支給
休職中に昇給やベースアップ(ベア)が行われたとき、復職時の昇給やベアはどのように取り扱われているのだろうか。「休職直前の賃金(次回の昇給時期まで凍結)とする企業」が33.6%とほぼ3分の1あり、次いで「復職時に通常勤務者と同様に昇給・ベアを実施」が24.6%、「復職後の勤務形態に応じて決定」が13.4%であった(図7)。
図7 復職時の昇給・ベアの取り扱い(複数回答)
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※ 詳細データは「人事実務」2012年5月号、6月号にて掲載しています。