2019年度教育研修費は1人当たり3万5,628円
今後の見通しは「減少見込み」が増加
人事労務分野の情報機関である産労総合研究所(代表・平盛之)は、このたび「2020年度(第44回)教育研修費用の実態調査」を実施しました。本調査は1976(昭和51)年より実施しており、今回で44回目となります。
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調査回答企業における教育研修費用総額は、2019年度の予算額7,737万円、実績額6,599万円、2020年度の予算額が7,370万円で、前回の2019年度調査と比較するといずれも増加した。従業員1人当たりの教育研修費用では、2019年度実績額が35,628円となり、前回調査に比べて1,021円、率にして3.0%増加した。
さらに、定例の調査項目に加えて実施した「管理職研修」に関する調査では、役職別にみた実施率は、係長研修65.9%、課長研修85.4%、部長研修52.8%であった。
主なポイント
(1)教育研修費用総額と従業員1人当たりの教育研修費用
- 教育研修費用総額の2019年度の予算額は7,737万円、実績額は6,599万円、2020年度の予算額は7,370万円で、前回調査と比較すると、いずれも増加している。
- 従業員1人当たりの2019年度実績額は35,628円で、前回調査より1,021円アップ。2020年度予算額は39,860円。
(2)教育予算の増減状況と今後1〜3年の方向性
- 2019/2020年度で予算額を比較した場合に、「増加」41.9%、「減少し」45.7%で、前回に続き減少が増加を上回る。
- 教育研修費用総額の今後1〜3年の見込みは、「やや減少」、「かなり減少」が増加し、コロナ禍の影響を感じさせる。
(3)管理職研修の実施状況
- 役職別にみた管理職研修の実施率は、係長研修65.9%、課長研修85.4%、部長研修52.8%。
- 管理職研修を実施するタイミングは、係長研修、課長研修、部長研修とも「新任時」が最多。
(4)管理職研修(課長研修)で取り上げるテーマ
- 管理職研修で取り上げるテーマについて、とくに実施率が高い課長研修をみてみると、「部下育成・管理」が最多の87.4%。次いで、「組織管理」64.0%、「メンタルヘルス」57.7%などと続く。
(5)入社から役職につくまでの平均年数
- 新規学卒者が入社から役職につくまでの平均年数は、係長10.3年、課長17.6年、部長25.1年で、2007年調査時と変わらず。
調査要領
上場企業および当社会員企業から任意に抽出した約3,000社に対して、2020年6月に調査票を郵送で依頼し、151社の回答を得た。
用語の定義について
本調査でいう「教育研修費用(総額)」とは、次に掲げる各費用の合計額である。
②外部講師費
③教材費
④外部教育機関への研修委託費およびセミナー・講座参加費
⑤eラーニング・通信教育費
⑥公的資格取得援助費
⑦研修受講者・社内講師の日当・手当・交通費
⑧事務局費
⑨その他これら以外の教育研修に必要な費用
(ただし、研修受講者・教育スタッフの人件費は含まない)
なお、厚生労働省が実施する「能力開発基本調査(企業調査)」では、「教育訓練に支出した労働者1人当たり平均額」として、正社員と正社員以外を合わせた「OFF-JTに支出した費用の1人当たり額」と「自己啓発支援に支出した費用の1人当たり額」が算出されており、2019年度調査はそれぞれ 1.9万円、0.3万円となっている。
※本調査の詳細データは、弊社発行の『企業と人材』2020年10月号(No1092)に掲載しています。
教育研修費用の実態調査 結果概要
[1]教育研修費用総額と従業員1人当たりの教育研修費用
(1)1社当たりの教育研修費用総額
1社当たりの教育研修費用総額は、2019年度は予算額7,737万円(前回調査7,115万円)、同実績額6,599万円 (同6,221万円)であり、2020年度は予算額7,370万円(同7,086万円)である。調査対象が異なるため、前回調査と厳密な比較はできないが、いずれも前年度より増加しており、積極的な教育投資が継続されていることを示す結果となった(図表1)。
(2)従業員1人当たりの教育研修費用
従業員1人当たりの教育研修費用は、2019年度の予算額40,636円(前回調査40,297円)、同実績額35,628円 (同34,607円)、2020年度予算額39,860円(同39,841円)で、予算、実績ともに前回調査を若干上回った。
2019年度実績額を規模別にみると、大企業(1,000人以上) 31,397円(同31,770円)、中堅企業(300〜999人) 41,278円(同37,116円)、中小企業(299人以下) 40,588円(同38,250円)となり、大企業はほぼ変わらないが、中堅・中小企業で増加したことから、全体としてはプラスになっている(図表1)。
図表1 教育研修費用総額と従業員1人当たりの額(実績と予算)
(注)
1.2019年度予算/実績と2020年度予算のすべてに回答があった企業について集計。ただし、総額が10億円以上および従業員1人当たりの額が3,000円以下と20万円以上の企業を除く。
2.本社のみ、あるいは事業所単位での回答企業については、その従業員の規模として集計。以下同じ。
3.無回答は集計から除いているため、以下の各図表で集計社数が異なることがある。
[2]教育予算の増減状況と今後1〜3年の方向性
(1)2019年度/2020年度予算額の増減状況
各回答企業の2019年度と2020年度予算を比較してみると、予算が増加した企業は41.9%(前回調査39.1%)、減少した企業は45.7%(同40.4%)、増減なしの企業は12.4%(20.5%)と、2年連続で「減少」企業が「増加」企業を上回った(図表2)。
(2)教育研修費用の今後の方向性
教育研修費用総額の今後1〜3年の見通しについては、「かなり増加」が4.0%(前回5.9%)、「やや増加」が24.8%(同39.2%)に対し、「現状維持」が45.0%(同47.3%)、「やや減少」16.8%(同6.5%)、「かなり減少」9.4%(同1.1%)となっている(図表3)。
これを「増加計」(「かなり増加」+「やや増加」)、「減少計」(「かなり減少」+「やや減少」)、「現状維持」の3項目にまとめたうえで前回調査を比較すると、増加計28.8%(同45.1%)、減少計26.2%(同7.6%)、現状維持45.0%(同47.3%)となり、現在のコロナ禍の状況下で、研修費用を減らす方向で見通しを立てる企業が増えていることがわかる。
図表2 2020年度教育予算の対前年度の増減状況
(注)
1.2019年度予算/実績および2020年度予算のすべてに回答があった企業のみで集計。
2.教育研修費用総額における2019年度予算と2020年度予算の比較である。
図表3 教育研修費用総額の今後(1〜3年)の方向性
[3]管理職研修の実施状況
今回の調査では、管理職研修の実施状況や研修で取り上げるテーマ、入社してから役職につくまでの平均日数などについても聞いた。設問の多くは、2007年度に本誌が実施した「管理者の育成・研修に関する調査」を引き継いでおり、「2007年度調査」として、今回の調査結果と比較している。
(1)係長研修、(2)課長研修、(3)部長研修の3つについて、それぞれの実施状況をみてみると、(1)係長研修を実施している企業は、65.9%(前回調査68.4%)。(2)課長研修は他の役職に比べて実施率が高く、85.4%(同89.5%)。(3)部長研修の実施率は52.8%(同66.2%)で、3つの役職のなかで最も低く、大企業でも6割を切っている。
図表4-1 管理職研修を実施している企業の割合
図表4-2 管理職研修を実施している企業の割合
[4]管理職研修(課長研修)で取り上げるテーマ
管理職研修で取り上げるテーマについて、とくに実施率が高い課長研修をみてみると、「部下育成・管理」が最も高く87.4%(2007年度調査78.0%)。次いで、「組織管理」64.0%(同45.8%)、「メンタルヘルス」57.7% (同44.9%)、「コミュニケーション」55.0%(同47.5%)などと続く。2007年度調査との比較では、「組織管理」の実施率が高くなっており、重点課題となっていることがわかる(図表5)。
図表5 管理職研修(課長研修)で取り上げるテーマ (複数回答、上位10項目)
[5]入社から役職につくまでの平均年数
新規学卒者が、入社から役職につくまでにかかる平均年数は、係長10.3年、課長17.6年、部長25.1年であった。全体の傾向としては、役職につくまでの平均年数は、2007年度調査時と比べてほとんど変わっていない。課長クラス、部長クラスに関していえば、役職につくまでの平均年数は少し延びており、着任時の年齢が以前より上のケースが増えているといえる(図表6)。
規模別にみると、とくに300〜999人企業で長期になっていることがわかる。また、概して製造業のほうが非製造業よりも長い。
図表6 入社から役職につくまでの平均年数
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※ 詳細データは 「企業と人材」2020年10月号(No1092)にて掲載しています。
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