教育予算、実績額が3年連続で増加
近年では高い水準に
人事労務分野の情報機関である産労総合研究所(代表・平盛之)は、このたび「2018年度(第42回)教育研修費用の実態調査」を実施しました。本調査は1976(昭和51)年より実施しており、今回で42回目となります。
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調査回答企業における教育研修費用総額は、2017年度の予算額および実績額、2018年度の予算額が、前回調査と比較すると、いずれも3年連続で増加した。従業員1人当たり額も、前回を上回っている。
また、今回初めて「女性社員教育における出産・育児期の配慮」について調査した。出産・育児期の女性社員に対して、教育研修を受講しやすくなるような施策を行っているかについてたずねたところ、「制度として取り組んでいる」企業9.4%、「個別に対応している」企業46.8%で、何かしらの配慮をしている企業は5割を超える結果となった。
そのほか、「研修内製化への取組状況」についても、2015年度以来3年ぶりに調査した。
主なポイント
(1)教育研修費用総額と従業員1人当たりの教育研修費用
- 教育研修費用総額の2017年度の予算額は7,703万円、実績額は6,733万円、2018年度の予算額は8,017万円で、前回調査と比較すると、いずれも3年連続で増加。
- 従業員1人当たりの2017年度実績額は38,752円で、前回調査より1,575円アップ。2018年度予算額は47,138円。
(2)教育予算の増減状況
- 教育予算の対前年度比をみると、「増加」した企業が53.0%で前回よりも2.6ポイント増加。平均増加率は24.4%。
(3)各種教育研修の実施状況
- 「階層別研修」での実施率は、例年どおり「新入社員教育」が最も高く、91.4%。「職種別・目的別研修」では、「OJT指導員教育」の実施率が最多で47.5%。
(4)女性社員教育における出産・育児期の配慮
- 出産・育児期の女性社員が研修受講する際の配慮の状況は、「制度として取り組んでいる」企業9.4%、「個別に対応している」企業46.8%、「特にしていない」企業43.9%。
(5)研修内製化への取組状況
- 「内製化に取り組んでいる」企業は69.3%でやや増加。内製化の課題としては、「社内講師となる人材の不足」66.4%、「人材開発部のマンパワー不足」41.4%、「内製化のノウハウ不足」39.8%などがあげられた。
調査要領
上場企業および当社会員企業から任意に抽出した約3,000社に対して、2018年6月に調査票を郵送で依頼し 142社の回答を得た。
用語の定義について
本調査でいう「教育研修費用(総額)」とは、次に掲げる各費用の合計額である。
[1]正社員を対象とした自社主催研修の会場費・宿泊費・飲食費
[2]外部講師費
[3]教材費
[4]外部教育機関への研修委託費およびセミナー・講座参加費
[5]eラーニング・通信教育受講費
[6]公的資格取得援助費
[7]研修受講者・社内講師の日当・手当・交通費
[8]事務局費
[9]その他これら以外の教育研修に必要な費用
(ただし、研修受講者・教育スタッフの人件費は含まない)
なお、厚生労働省が実施する「能力開発基本調査(企業調査)」では「教育訓練に支出した労働者1人当たり平均額」とし て、「Off-JT に支出した費用の1人当たり額」と「自己啓発支援に支出した費用の1人当たり額」が算出されており、2017 年度調査はそれぞれ 1.7 万円、0.4 万円となっている。
教育研修費用の実態調査 結果概要
[1]教育研修費用総額と従業員1人当たりの教育研修費用
(1)1社当たりの教育研修費用総額
1社当たりの教育研修費用総額は、2017年度は予算額7,703万円(前回調査6,014万円)、同実績額6,733万円(同5,273万円)であり、2018年度は予算額8,017万円(同6,177万円)である。回答企業が毎回異なるため、前回調査と厳密な比較はできないが、いずれも3年連続で増加している(図表1)。
なお、2017年度の実績額を自社研修施設の保有状況別にみると、施設の有無によって金額が大きく異なり、「施設あり」企業10,617万円、「施設なし」企業3,092万円と、3倍以上の開きがあった。
(2)従業員1人当たりの教育研修費用
従業員1人当たりの教育研修費用は、2017年度の予算額45,917円(前回調査43,805円)、同実績額38,752円(同37,177円)、2018年度予算額47,138円(同45,310円)で、予算、実績ともに前回調査を上回った(図表1)。
2017年度の実績額を自社研修施設の保有状況別にみると、「施設あり」企業44,887円、「施設なし」企業33,309円となり、施設ありが約1万円ほど上回る結果となった。
図表1 教育研修費用総額と従業員1人当たりの額(実績と予算)
(注)
1.2017年度予算/実績と2018年度予算のすべてに回答があった企業について集計。ただし、総額が10億円以上および従業員1人当たりの額が3,000円以下と20万円以上の企業を除く。
2.本社のみ、あるいは事業所単位での回答企業については、その従業員の規模として集計。以下同じ。
3.「実績対予算の倍率」は、「2018年度予算÷2017年度実績」で算出。[ ]内は前回の倍率。
4.無回答は集計から除いているため、以下の各表で集計社数が異なることがある。
[2]教育予算の増減状況
各回答企業の2017年度と2018年度予算額を比較した場合の増減状況についてみると、予算額が「増加」した企業は53.0%(前回調査50.4%)、「減少」した企業は29.9%(同29.6%)、「増減なし」の企業は17.1%(20.0%)と、増加した企業が前回よりも2.6ポイント増であった(図表2)。
図表2 2018年度教育予算の対前年度の増減状況
(注)
1.2017年度予算/実績および2018年度予算のすべてに回答があった企業のみで集計。
2.教育研修費用総額における2017年度予算と2018年度予算の比較である。
[3]各種教育研修の実施状況
2018年度の予算で実施予定の教育研修についてみると、階層別教育においては、前回と同様「新入社員教育」の実施率が最も高く、91.4%であった。次いで、「新入社員フォロー教育」82.0%、「初級管理者教育」81.3%、中堅社員教育」71.2%とつづく。いずれも、これまでと同様の順位であり、実施率も同水準といえる(図表3、複数回答)。
職種別・目的別教育では、前回と同様「OJT指導員教育」が最多の47.5%。次いで、「メンタルヘルス・ハラスメント教育」43.9%、「中途採用者教育」39.6%、「選抜型幹部候補者教育」38.1%などとなっている(図表4、複数回答)。
図表3 2018年度に実施する階層別教育(複数回答)
図表4 2018年度に実施する職種・目的別教育(上位10項目・複数回答)
[4]女性社員教育における出産・育児期の配慮
今回の調査では、「女性社員教育における出産・育児期の配慮」についても聞いた。このテーマでの調査は、今回が初めてである。
女性社員は、出産、育児といったライフイベントを迎えたとき、産休・育休を取得したり、復帰後も子育てのため短時間勤務になるなどして、教育研修に参加できないこともある。そうした出産・育児期(妊娠中、産前産後・育児休業中、育児休業復帰)の女性社員に対して、教育研修を受講しやすくなるような施策や配慮をしているかについてたずねたところ、「制度として取り組んでいる」企業9.4%、「個別に対応している」46.8%、「特にしていない」43.9%となった(図表5)。
企業の規模別にみると、大企業および中堅企業は「個別に対応している」の割合が高く、それぞれ57.1%、52.2%と5割を超えている。一方、中小企業は「特にしていない」が83.3%と8割を占め、規模の大きい企業のほうが何かしらの配慮をしているといえる。
図表5 出産・育児期の女性社員が研修を受講する際の配慮
[5]研修内製化への取組状況
(1)研修内製化の取組実態
今回は、3年ぶりに「研修内製化への取組状況」についても調査している。内製化に「取り組んでいる」企業は69.3%(前回調査67.4%)、「取り組んでいない」企業は30.7%(同32.6%)である(図表6)。
図表6 研修内製化への取組状況
(2)内製化に取り組む中での課題、内製化に取り組まない理由(複数回答)
内製化に取り組んでいる企業には課題を、取り組んでいない企業には取り組まない理由について聞いたところ、全体として最も多かったのは「(社内に)講師になれる人材が不足している」66.4%。次いで、「(人材開発部門の)マンパワー不足で手が回らない」41.4%となっている(図表7)。
図表7 内製化に取り組むなかでの課題、内製化に取り組まない理由(複数回答)
(注)
「その他」は省略した。
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※ 詳細データは 「企業と人材」2018年10月号(No1068)にて掲載しています。
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株式会社産労総合研究所「企業と人材」編集部 担当:石田、黒田、綿貫
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