人事労務分野の情報機関である産労総合研究所(代表・平盛之)は、このたび「第8回 人事制度等に関する総合調査」を実施しました。
本調査は、3~4年ごとに実施しており(前回調査は2016年)、企業の人事部門に対して、人事制度諸施策の導入状況等を調査しているものです。今回の調査は、コロナ禍により働き方が大きく変わった2020年9月1日現在の実態について尋ねており、働き方に関する項目で、大きな変化がみられました。また、「副業・兼業」あるいは「役割等級制度」の導入率が上がるなど、組織と個人の関係性の変化の兆しもみえてくる結果となっています。
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調査結果のポイント
(1)リモートワークの導入率は、5.1%から70.1%と飛躍的に伸びる
- 「リモートワーク(在宅勤務・モバイルワーク・サテライト勤務など)」の導入率は、前回調査(2016年)の5.1%から70.1%となり、飛躍的な伸びをみせました。また、「サテライトオフィスの活用」(前回調査5.1%、今回調査20.1%)、「フリーアドレス制度」(前回調査4.5%、今回調査16.8%)など、働く場所の柔軟化についての施策の導入率の増加が際立つ結果となっています。さらに、働く場所の柔軟化により必要度が高まったと思われる「社内イントラ・SNS」(前回調査20.7%、今回調査77.2%)の導入率も大きく伸びました。
(2)副業・兼業は、7.5%から20.8%になり、大幅に増加
- 「副業・兼業(認可および届出)」は、前回調査7.5%から今回調査では20.8%となり、大幅に増加しました。「副業・兼業の促進に関するガイドライン」が2018年1月に策定され、2020年9月に改定されており、行政の後押しがあったことに加え、今回のコロナ禍により副業を認める方向に舵を切った企業もあることなどが影響したのではないかと思われます。数年前までは副業を認めないのが当たり前と思われていましたが、いまは5社に1社が副業・兼業を認める時代となっています。
(3)基幹となる処遇制度は、役割等級制度が増加傾向
- 従業員を格付けする等級制度の導入状況をみると、「職能資格制度」は72.0%、「役割等級制度」は59.7%、「職務等級制度」は50.3%となりました。2013年調査を底に、役割等級制度が増加傾向となっています。
(4)採用直結型インターンシップの実施率が大きく伸びて40.1%に
- いわゆる「ジョブ型」が話題となるなか、雇用の入り口となる採用に変化はみられるのでしょうか? 「新卒の通年採用」の実施率は41.8%(前回調査39.6%)であり、近年、多くの企業で実施されているインターンシップについては、「採用直結型インターンシップ」の実施率が前回調査の21.3%から今回調査では40.1%と、大きく伸びる結果となりました。
調査要領
【調査対象】当所の会員企業から一定の方法で抽出した企業3,000社
【調査時期】2020年10~11月
【調査方法】郵送によるアンケート形式
【調査時点】2020年9月1日現在
【集計対象】締切日までに回答のあった184社
調査結果の概要
(1)調査項目について
今回の調査では、以下の1~12のテーマの計215項目について、2020年9月1日現在で、「あり」「なし」「導入予定」の3項目から選択回答してもらいました。加えて、4項目について「13 廃止状況」を尋ね、自由回答で「14 新型コロナウイルス対応」についても尋ねました。
1 経営・組織運営/ 2 リスクマネジメント/ 3 人事制度/ 4 ダイバーシティ推進/ 5 賃金・退職給付制度/ 6 労働時間・休暇制度/ 7 採用/ 8 人材育成/ 9 福利厚生/ 10 健康促進施策等(健保組合含む)/ 11 働き方/ 12 その他の諸施策/ 13 廃止した制度/ 14 新型コロナウイルス対応
回答いただいた企業の概要は、以下のとおりです。
図表1 調査回答企業の概要
(2)前回調査(2016年)と比較すると、リモートワーク等の導入率が飛躍的に伸びる
図表2は、前回調査(2016年調査)における導入率に対して、2020年調査の導入率が何倍になったかを算出して倍率の高い上位20項目を棒グラフで表したものです。
みてわかるとおり、「リモートワーク(在宅勤務・モバイルワーク・サテライト勤務など)」の導入率が、5.1%から70.1%と13.8倍になり、圧倒的な伸びをみせています。次いで、「サテライトオフィスの活用」(5.1%→20.1%、3.9倍)、「フリーアドレス制度」(4.5%→16.8%、3.7倍)と、働く場所の柔軟化についての施策が続きます。さらに、働く場所の柔軟化により必要度が高まったと思われる「社内イントラ・SNS」(20.7%→77.2%、3.7倍)の導入率も増えています。
「副業・兼業(認可および届出)」(7.5%→20.8%、2.8倍)については、「副業・兼業の促進に関するガイドライン」が2018年1月に策定され、2020年9月に改定されており、行政の後押しがあったことに加え、今回のコロナ禍により副業を認める方向に舵を切った企業もなかにはあるのではないかと思われます。「勤務間インターバル」(6.1%→15.8%、2.6倍)についても、労働時間等設定改善法が改正されて努力義務となった制度(2019年4月施行)であり、法改正による影響が大きいと思われます。
また、働く場所の柔軟化に伴って対策が必要となる「クラウドサービス利用ルール」を定める企業は27.1%から52.5%と約2倍に増え、社員の健康維持等のために喫緊の課題となったと思われる「感染症対策マニュアルの整備」も33.7%から64.8%と飛躍的に伸びています。
図表2 導入率が2016年と比べて増加した項目(倍率ランキング)
(3)新たに設けた調査項目では、オンライン対応ツール等で高い導入率
これまでの調査では項目がなかったため前回調査との比較はできないものの、今回新たに調査項目に加えたなかで導入率が高くなったのが図表2にあげた項目です。「人事システム(勤怠・採用な ど)の導入」(75.4%)、「クラウドの活用」(67.8%)、「Web 会社説明会」(67.0%)、「オンラインによる研修(社内・社外)」(65.9%)、「Web 面接」(63.4%)などが6割を超える高い導入率と なっています。コロナ禍により対面での会話が制限される状況が続くなか、離れた場所でも仕事を円滑に進められるように、ITシステムやオンライン・コミュニケーションツールの活用・定着が急速に進んでいるものと思われます。
また、コロナ禍以前から話題になっていた制度として「1on1ミーティング」(34.3%)、「リファラル採用」(28.3%)なども、多くの企業で導入されている様子がうかがえる結果となりました。
図表3 新規調査項目のうち導入率が高い項目
(4)「行動規範」の導入率は上昇傾向
ここからは、注目される調査項目をいくつかピックアップして、その導入率の推移や、規模別データなどをみていきます。
まず、人材の多様化や働き方の柔軟化にともない、組織としての方向性をどう定め、浸透させていくのかが大きな課題となっているなか、経営理念等の制定状況はどうなっているのでしょうか。「経営理念」は98.4%、「企業ビジョン」は86.8%、「行動規範」は86.1%の企業で制定されているという結果になりました。なかでも行動規範の導入率は長期的に上昇傾向がみられ、前回調査の79.3%から6.8%ポイントの上昇となっています。
図表4 「行動規範」の導入率推移
(5)基本となる処遇制度は、「役割等級制度」が増加傾向
従業員を格付けする等級制度の導入状況をみると、「職能資格制度」は72.0%、「役割等級制度」は59.7%、「職務等級制度」は50.3%となっています。「職能資格制度」が安定的に7割前後で推移し、「職務等級制度」は5割前後にとどまる一方、「役割等級制度」は2013年調査を底に増加傾向となり、「職務等級制度」と導入率が逆転する結果となっています。
図表5 基本となる処遇制度の導入率推移
(6)採用直結型インターンシップの導入率は4割
いわゆる「ジョブ型」が話題となるなか、雇用の入り口となる採用に変化はみられるのでしょうか? 「新卒の通年採用」の実施率は41.8%(前回調査39.6%)であり、近年、多くの企業で実施されているインターンシップについては、「採用直結型インターンシップ」の実施率が前回調査の21.3%から今回調査では40.1%と、大きく伸びる結果となりました。また、「Web会社説明会」(67.0%)、「Web面接」(63.4%)などオンラインでの採用活動を実施する企業も非常に多くなっています。
図表6 採用直結型インターンシップの導入率推移
(7)在宅勤務手当の導入率は約1割
今回初めて尋ねた「在宅勤務手当」については、全体で9.3%と約1割の導入率となり、導入予定の企業は6.6%でした。従業員規模別にみると、1000人以上企業では23.1%と高く、300~999人企業は6.5%、299人以下企業は4.9%となりました。製造・非製造では、製造業の導入率が11.1%と比較的高く、労働組合の有無でみると、労働組合のある企業のほうが導入率(12.6%)、導入予定率(10.7%)ともに高くなっています。
図表7 在宅勤務手当の導入率および導入予定率
(8)通勤手当廃止は検討中が2割、配偶者手当は制度なし(2割強)に廃止を検討中を加えると4割弱
今回の調査では、過去5年以内に「廃止した制度」についても、いくつか項目をあげて尋ねました。
「通勤手当」については、「廃止した」1.8%、「検討中」20.1%となりました。リモートワークの導入率が高い大企業を中心に、通勤手当を廃止し、新たな働き方に合った制度・手当へと変えてきている動きがみられます。
「配偶者手当」は「廃止した」8.5%、「検討中」15.9%でした。共働きが一般化し、その意義が問われていますが、「制度なし」13.4%を加えると、配偶者手当がない、あるいは廃止を検討中の企業は4割弱になります。
(左)図表8 通勤手当の廃止 (右)図表9 配偶者手当の廃止
(9)コロナ対応では、各社工夫を凝らす
新型コロナウイルス対応でうかびあがってきたさまざまな課題等について自由記述で尋ねたところ、「テレワーク中の評価基準」「採用のWeb化」「チーム間のコミュニケーション」「リモートワーク中の労務管理」などがあげられました。また、具体的に導入した施策としては、「リモート朝礼」「昼食時間を2班に分ける」「密を避けるためのフリーアドレス」「在籍出向」などがあげられました。
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※詳細データは「人事実務」2021年2月号に掲載しています。
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