人事労務分野の情報機関である産労総合研究所(代表・平盛之)は、このたび「有期契約社員の雇用管理と法改正への対応に関する調査」を実施しました。
調査結果のポイント
(1)有期契約社員の職務
- 短時間勤務型は「正社員より軽易」68.7%
- フルタイム勤務型は「正社員より軽易」47.2%,「正社員と同一職務で同等の難易度」42.5%
(2)適用される就業規則
- 「正社員とは別」が短時間勤務型69.7%,フルタイム勤務型76.4%
(3)正社員と比べた基本給の水準
- 短時間勤務型は「6割以上8割未満」27.3%,「4割以上6割未満」25.3%
- フルタイム勤務型は「6割以上8割未満」38.7%,「8割以上10割未満」22.6%
(4)適用される福利厚生
- 短時間勤務型は,「休憩室・更衣室」68.7%,「社内行事」61.6%,「慶弔休暇」54.5%,「慶弔見舞金」52.5%,「食堂」47.5%
- フルタイム勤務型は「休憩室・更衣室」80.2%,「社内行事」77.4%,「慶弔休暇」75.5%,「慶弔見舞金」71.7%,「食堂」52.8% など(複数回答)
(5)改正労働契約法による無期転換ルールへの対応
- 「通算5年を超えた社員から申込みがあった時点で無期契約に転換」が43.5%,「通算5年を超えないように更新する」が25.9%。無期転換後の処遇は「労働条件は従来どおり」が44.4%(複数回答)
(6)改正パートタイム労働法による「不合理な待遇の差異の禁止」への対応
- 法改正を受けて労働条件改善に取り組んだ企業は12.0%
- 本調査においては,「有期契約社員」を以下の2とおりに区分して,定義づけている。
- A 短時間勤務型:
契約社員,パートタイマー,アルバイトなど名称にかかわらず,雇用期間の定めがあり,正社員より1日の所定労働時間が短いか,1週の所定労働日数が少ない社員
B フルタイム勤務型:
契約社員,パートタイマー,アルバイトなど名称にかかわらず,雇用期間の定めがあり,1日の所定労働時間および1週の所定労働日数が正社員とほぼ同じ社員
調査要領
【調査対象】 当社会員企業から任意に抽出した約3,000社
【調査時期】 2014年11〜12月
【調査方法】 郵送によるアンケート調査方式
【集計対象】 締切日までに回答のあった115社について集計
調査結果の概要
(1)担当業務、職務の難易度
各社で有期契約社員が担当している業務について,多いものをみると,短時間勤務型は「事務的業務」61.6%,「生産・製造業務」25.3%,「専門・技術的業務」20.2%,「販売・営業業務」20.2%となった。
フルタイム勤務型も「事務的業務」が76.4%と最も多く,次いで「専門・技術的業務」が50.9%となっている。
担当している業務を実際の職務の難易度をみると,短時間勤務型については,「正社員より軽易職務である」が68.7%を占め,続いて「正社員と同一職務で同等の難易度である」17.2%,「正社員とは別職務で同等の難易度である」は6.1%。「正社員より高度の専門的職務である」は1.0%とわずかである。
フルタイム勤務型については,「正社員より軽易職務である」が47.2%であるが,「正社員と同一職務で同等の難易度である」も42.5%。続いて「正社員とは別職務で同等の難易度である」17.0%,「正社員より高度の専門的職務である」8.5%などとなっている。
表1 担当業務、職務の難易度
(2)労働条件
1. 適用される就業規則
有期契約社員に適用される就業規則については,いずれも「正社員と別の就業規則を作成している」が最も多く,短時間勤務型は69.7%,フルタイム勤務型は76.4%。続いて,「雇用契約書の内容が労働条件となっている」がそれぞれ13.1%,11.3%と続く。
フルタイム勤務型については,「正社員と同じ就業規則の規定を適用している」「正社員の就業規則に有期社員の規定を盛り込んでいる」とする企業もそれぞれ8.5%であった。
表2 適用される就業規則
2. 賃金
①基本給の水準(1時間あたりの時給換算でみた場合)
有期契約社員の基本給の水準を1時間あたりの時給換算でみると,短時間勤務型は,同等の正社員と比べて「6割以上8割未満」27.3%,「4割以上6割未満」25.3%,「8割以上10割未満」14.1%などとなっている。
フルタイム勤務型は,同等の正社員と比べて「6以上8割未満」38.7%,「8割以上10割未満」22.6%,「同額程度」19.8%,「4割以上6割未満」17.0%などである。
②基本給以外に支給される賃金等
基本給以外に支給される賃金等を多いものからみると,短時間勤務型には「通勤手当」75.8%,「賞与」35.4%,「食事手当」8.1%など,フルタイム勤務型には「通勤手当」91.5%,「賞与」54.7%,「食事手当」11.3%などが支給されている。
③昇給の有無と方法
昇給については,「毎年,人事評価で昇給する」が短時間勤務型で36.4%,フルタイム勤務型で46.2%。「昇給はない」とする企業は短時間勤務型で33.3%,フルタイム勤務型で35.8%となっている。
表3 賃金
3. 教育訓練、福利厚生
教育訓練の機会については,「担当業務に関する教育訓練のみ正社員と同等である」「特別な教育訓練は行っていない」が短時間勤務型・フルタイム勤務型とも3割程度となっている。「全体的に正社員と同等である」とする企業は,短時間勤務型で19.2%,フルタイム勤務型で31.1%である。
適用される福利厚生(社会保険を除く)について,多い順に5つをみると,短時間勤務型は,「休憩室・更衣室」68.7%,「社内行事」61.6%,「慶弔休暇」54.5%,「慶弔見舞金」52.5%,「食堂」47.5%。フルタイム勤務型は「休憩室・更衣室」80.2%,「社内行事」77.4%,「慶弔休暇」75.5%,「慶弔見舞金」71.7%,「食堂」52.8%となっている。
表4 教育訓練、福利厚生
(3)改正労働契約法への対応
改正労働契約法(2013年4月施行)では,有期契約を反復更新して通算5年を超えた場合に,労働者の申込みに基づき,期間の定めのない労働契約(無期契約)に転換できることになった(無期転換ルール)。施行日である2013年4月以降の雇用契約が対象となる。
1. 無期転換ルールへの対応
無期転換ルールへの対応を聞いたところ,「通算5年を超えた社員から申込みがあった時点で無期契約に転換する」が最も多く43.5%,次いで「通算5年を超えないように更新する」が25.9%,「通算5年を超える前に無期転換とする」が11.1%となっている。
表5 無期転換ルールへの対応
2. 通算5年を超えないようにする方法
上記で「通算5年を超えないようにする」と回答した企業に,その方法を聞いたところ、「勤続年数・更新回数の上限を5年にする」が最も多く67.9%,続いて「5年を超える前に能力試験を実施し,不合格者は雇止めとする」が14.3%である。
表6 通算5年を超えないようにする方法
3. 契約期間の上限
改正労働契約法の成立を受けて有期契約の上限を設定した企業は16.7%。平均年数は4.9年である。
有期契約の上限を改正労働契約法以前に設定していた企業は45.4%で,平均年数は2.9年であるが,そのなかで改正労働契約法の成立後も上限を変えていない企業が87.8%である。
表7 契約期間の上限
4. 無期転換後の処遇
無期転換後の処遇については,「無期契約で労働条件は従来どおりとする」が最も多く44.4%。次いで,「無期転換後の労働条件を別途設定」が12.0%だが,「未定」とする企業も27.8%を占めている。
「無期転換後は正社員とし,労働条件も正社員と同じにする」とする企業は2.8%と少ない。
表8 無期転換後の処遇
(4)改正パートタイム労働法への対応
1. 「通常の労働者と同視すべき短時間労働者」の範囲拡大への対応
改正パートタイム労働法(2015年4月施行)では,正社員との差別が禁止される「通常の労働者と同視すべき短時間労働者」の範囲が拡大され,①職務の内容が通常の労働者と同一,②人材活用の仕組みが通常の労働者と同一であれば,「通常の労働者と同視すべき短時間労働者」に該当するものとされるとともに,短時間労働者であることを理由とする不合理な待遇の差異が禁止されることになった。
「通常の労働者と同視すべき短時間労働者」が「いる」とした企業は19.4%。そのうち短時間労働者が担当する業務としては,「事務的業務」が最も多く,81.0%,続いて「専門・技術的業務」23.8%,「生産・製造業務」19.0%である。
「通常の労働者と同視すべき短時間労働者」が「いる」場合に,労働条件の改善に取り組んだ企業は38.1%。具体的に改善した項目は,「教育訓練」62.5%,「福利厚生」62.5%,「賃金水準」50.0%,「休暇・休日」50.0%などとなっている。
同時に,「改善が必要な労働条件はない」とする企業は28.6%,「改善の必要性についてまだわからない」とする企業も33.3%を占めている。
表9 「通常の労働者と同視すべき短時間労働者」の有無
表10 「通常の労働者と同視すべき短時間労働者」の労働条件改善
2. 不合理な待遇の差異の禁止への対応
また,改正パートタイム労働法では,すべての短時間労働者について,正社員の待遇との差異は,職務の内容,人材活用の仕組み,その他の事情を考慮して,不合理なものであってはならないとする,待遇の原則規定が創設された。
短時間労働者の労働条件の改善に取り組んだ企業は12.0%である。具体的に改善した項目は,「賃金水準」が最も多く61.5%,続いて「福利厚生」30.8%,「休暇・休日」30.8%,「教育訓練」23.1%である。「改善が必要な労働条件はない」とする企業は51.9%で,「改善の必要性について,まだわからない」とする企業も27.8%であった。
表11 不合理な差異の禁止を受けた労働条件改善の取組み
※ 詳細データは「労務事情」2015年3/1号に掲載しています。
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