産労総合研究所(東京都千代田区、代表 平 盛之)が発行する定期刊行誌「企業と人材」(編集長 伊関久美子)は、「選抜型の経営幹部育成に関する実態」調査を実施した。
本調査でいう選抜型の経営幹部育成とは、社員を能力・資質・試験成績などの評価により比較的若い年齢で選抜し、将来の経営幹部(取締役・執行役員・ 事業部長など)の候補者として特別に育成する制度を指す。
調査要領
【調査対象】本誌調査から任意抽出した 3,200 社
【調査時期】2011年10月下旬~11月上旬
【回答状況】回答のあった106社について集計
調査結果の概要
制度の導入状況 ~導入率は 37.7%、選抜の難しさが課題
まず、今回の調査結果について、制度の導入状況からみてみよう。
制度を「導入している」企業は 37.7%、「導入を予定または検討中」企業の11.3%を併せても約半数にとどまった。
規模別にみると、1,000人以上の大企業 66.7%(導入済み 55.6%+導入予定 11.1%)に対して999人以下の中小企業の 30.7%(導入済み 19.2%+導 入予定 11.5%)と大きな差があり、この制度が大企 業を中心に導入されていることがわかる。
同様に産業別には、製造業の 64.0%(導入済み54.0%+導入予定10.0%)に対し、非製造業は 35.7%(導入済み23.2%+導入予定12.5%)と大きな差がみられた。調査回答企業が、製造業に比べて非製造業は999人以下の中小企業が多いことも一因と考えられるが、製造業の導入率の高さが目立つ。
「導入していない」企業について、その理由をたずねると(複数回答)、「選抜が難しい」40.7%が最も多く、続いて「育成のための適切なプログラムがない」 35.2%、「他の人事制度との連携が難しい」31.5%、「選抜されなかった社員のモチベーション低下」24.1%と続く。一方、「効果について疑問がある」、「導入の必要がない」と考えている企業はそれぞれ11.1%、7.4%とわずかで、制度の有効性を否定する企業は少ない。
図1 制度の導入状況と導入していない理由
選抜する社員の要件は「役職」、過去の一定の評価を重視
次世代経営者として選抜対象となる社員の要件とは、どのようなものだろうか(複数回答)。調査結果をみると、「役職」が78.7%で最も多く、次いで「年齢」と「一定レベルの人事・業績評価をされた者」が38.3%となり、「勤続年数」は12.8%と少ない。
もっとも多い「役職」を要件とする場合の内訳をみると(複数回答)、「課長クラス」62.2%と「次長・部長クラス」54.1%が半数を超え多い。過去に一定の業績評価を得て管理職に昇格していることが1つの要件であるようだ。
図2 選抜対象者の要件
求められる資質・能力 ~「戦略・ビジョン構築力」が第1位
経営幹部に求められる資質・能力とは何だろうか。選択肢のなかか3つまでを選んで回答してもらった。
それによると「戦略・ビジョン構築力」が最も多く79.4%、「経営管理能力」と「決断・実行力」がともに47.6%、「組織統率力」34.9%、「問題発見・解決 能力」22.2%と続く。将来予測が難しい現代にあって 人や組織を引っ張っていくことのできる大きな絵が描けるかどうかを重要視している。
図3 経営幹部に求められる資質・能力
選抜方法 ~「人事部の推薦」が1位
次にこうした資質や能力を備えた人材を見極める選抜方法についてみてみよう(複数回答)。「人事部の推薦」46.5%が最も多く、次いで「上司の推薦」44.2%、「通常の人事・業績評価の結果」37.2%、「経営トップの指名」32.6%と続く。実際にはいくつかを組み合わせて選抜を行うのであろうが、「対象者の要件」の項でも触れたように、過去に一定の評価を得ている社員の中から選ばれていることが、「人事部の推薦」や「上司の推薦」、「通常の人事・業績評価の結果」の割合が高いことに表れている。
図4 選抜方法
育成プログラム ~社内の経営塾で学び、重要ポストを経験
育成方法についてみよう。今回の調査では、教育研修プログラムと教育研修後の実務経験を通じた育成施策に分けて調べた。
まず、教育研修プログラム、つまりどこで学んでいるかについてであるが(複数回答)、「社内の経営塾・スクール・特別講座(コース)での教育」が70.5% と最も多く、次いで「社外の教育研修機関のコース等の受講」47.7%と続く。「国内の大学院・ビジネススクールへの留学」や「海外の大学院・ビジネススクールへの留学」は少数だった。
次に育成プログラムの具体的な内容についてたずねた(複数回答)。最も多かったのが、会計・財務、マーケティングといった「経営に関する知識の習得」 81.8%、「経営課題のアクションラーニング」63.6%、「経営戦略づくり」、「リーダーシップ」61.4%、「論 理的思考演習」50.0%と続く。「経営層との対話」も 38.6%と4割の企業で行われている。経営知識の習得に加えて実際の経営課題に取り組ませる内容(「経営 課題のアクションラーニング」、「経営戦略づくり」、「新規事業プラン・業務改革の取り組み」、「経営層との対話」など)に重きが置かれている。
図5 育成プログラムの具体的内容
経営幹部は研修だけで育てられるわけではない。 研修後の実務経験を通じた育成施策をみてみよう(複数回答)。「社内の重要ポストの経験」62.2%が圧倒的に多く、あとは「子会社・関連会社への出向」、「社内の特定部門の経験」、「海外事業所での勤務」、「新規事業・業務改革など発表プランの実践活動」がそれぞれ2割である。
図6 実務経験を通じた育成施策
1人当たりの年間費用 ~1人当たり平均82.2万円
次世代の経営者を育成するために、企業はどのくらいの費用をかけているのだろうか。人件費を除いた1人当たりの年間費用をたずねた。
それによると、「100万円以上120万円未満」25.0% と最も多く、次いで「10万円以上30万未満」19.4%、「30 万円以上50万円未満」16.7%と続く。50万円未満で約4割を占めるが、150万円以上の企業も 約2割あり、ばらつきが大きい。平均は82.2万円だった。
本誌が行った「教育研修費用の実態調査」によると、2010 年度の1人当たり研修費用の平均は36,797円であり、この額と比較すると約22倍にもなる。
社内への情報公開の状況 ~3社に1社は「すべて非公開」
経営幹部候補者の選抜に関して社内にどの程度情報を公開しているのかをたずねた(複数回答)。「教育・育成プログラムの内容」(41.0%)と「選抜された人の氏名」(30.8%)が比較的多く、「選抜のプロセス、方法」(17.9%)や「選抜基準」(15.4%)などは限定的である。一方、3社に1社が「すべて非公開」(33.3%)であった。
※ 詳細データは「企業と人材」2011年3月号にて掲載しています。