グローバル対応や技能伝承など、企業の「人材育成強化」が大きくクローズアップされるなか、企業の人材開発部門はどのような育成理念を掲げ、どのような業務に取り組んでいるのでしょうか。こうした問題について、民間のシンクタンクである産労総合研究所(代表・平盛之)では、2007年以来5年ぶりに「2012年 人材開発部門の実態と育成理念に関する調査」を実施しました。このほど、その調査結果がまとまりましたのでご報告いたします。
※なお、本調査では、企業規模別の集計を「1,000人以上」と「999人以下」の2つに大別して行っており、便宜的に、1,000人以上を「大企業」、999人以下を「中堅中小企業」と表記しています。
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調査結果のポイント
(1)人材開発部門の現状
- スタッフの人数は平均5.8人、うち女性は2.3人
- 約8割が人材開発以外の業務を兼務。兼務内容は「採用」、「人事制度運用」、「人事企画」など
(2)人材開発スタッフ育成の取り組み状況
- スタッフの育成に取り組んでいる企業は約半分で、「外部研修機関への派遣」が主流
(3)社内講師等の活用・育成状況
- 約9割の企業が社内講師を活用、ただし講師役を務める従業員に対する育成施策は4割強にとどまる
(4)外部講師・外部研修団体の活用状況
- 集合研修の年間延べ実施日数は平均95.5日、外部の活用率は実施日数の「1~3割程度」が主流
(5)人材開発部門の現在の問題点
- 問題点は、1位が「研修効果の測定」、2位が「人員不足」
(6)人材開発部門の今後の取り組み課題
- 今後の課題は、1位が「経営戦略との連動強化」、2位が「成果につながる研修企画」
(7)人材育成ビジョンのキーワード
- 各社が掲げる人材育成ビジョンのキーワードは、 「挑戦」、「自律・自立」、「創造」、「倫理観」、「プロフェッショナル」、「成長」など
調査要領
【調査対象】本誌読者から任意抽出した約2,300社
【調査時期】2012年10月中旬~11月下旬
【調査方法】郵送によるアンケート方式
【回答状況】回答は140社。
うち集計締切までに回答のあった139社について集計。集計企業の内訳は別表のとおり。
【集計方法】集計にあたっては、無回答を除いて集計している。
そのため、集計表ごとに集計社数が異なっていることに留意されたい。
調査結果の概要
(1)-1 人材開発部門のスタッフの現状
スタッフの人数は平均5.8人、うち女性は2.3人
人材開発スタッフの人数は、全体平均で5.8人である。うち女性は2.3人で、全体の約4割(39.7%)を占めている。 規模別では、大企業7.4人、中堅中小企業4.1人。
なお、現在の正社員スタッフの平均在籍年数は4.6年。規模別では、大企業の3.7年に対し、中堅中小企業は5.6年と少し長めである(ただし、在籍年数が16年以上は平均の集計から除外)。
表1 人材開発スタッフの人数とその構成
(1)-2 人材開発部門の業務内容
約8割が人材開発以外の業務を兼務。兼務内容は「採用」、「人事制度運用」、「人事企画」など
人材開発部門の実際の業務内容としては、「人材開発業務のみを行っている」は2割弱のみで、あとの8割強(82.4%)は「一部、他の業務を兼務している」と答えている。兼務状況は、企業規模によって大きな違いがみられる。
他の業務を兼務している企業について、兼務業務を多い順に並べると、「採用」が圧倒的に多く、次いで「人事制度運用」、「人事企画」、「給与計算」など、多岐にわたっている。
表2 人材開発部門の兼務状況
(2)人材開発スタッフ育成の取り組み状況
スタッフの育成に取り組んでいる企業は約半分で、「外部研修機関への派遣」が主流
人材開発部門は、全社の教育研修を実施・運営する機能と役割をもっているが、それを推進していくスタッフの育成にはどう取り組んでいるのだろうか。育成への取り組み状況や育成施策の内容等についてみてみよう。
まず、人材開発スタッフの育成に「取り組んでいる」企業は48.6%、「取り組んでいない」が44.9%、「現在、育成計画を作成中」が6.5%という結果であった。
大企業の60.6%が「取り組んでいる」と答えているのに対し、中堅中小企業では、「取り組んでいる」と「現在、育成計画を作成中」とを合わせてようやく4割程度になっている。中堅中小企業では、スタッフの育成まで手が回らないのが実情のようだ。
育成に取り組んでいる企業の具体的な育成・支援施策としては、「外部研修機関への派遣」が63.9%と最も多く、これに「自己啓発への支援」(51.4%)、「OJT計画の作成・実施」(40.3%)などが続いている。
表3 人材開発スタッフ育成の取り組みの有無と具体的な育成・支援の方法
(3)社内講師等の活用・育成状況
約9割の企業が社内講師を活用、ただし講師役を務める従業員に対する育成施策は4割強にとどまる
研修費用のコストダウンだけではなく、社員自身の成長とスキルアップ、キャリア開発を促すといった観点からも、社内講師や社内インストラクターの活用には、これまでも大きな期待が寄せられてきた。
本調査によれば、社内講師等を活用している企業は全体の9割近く、「現在、検討中」や「活用していない」企業はわずかである。
しかし、社内講師を育成するために具体的な施策を講じている企業はそれほど多くはない。4割強は「特別な施策は、とくに実施していない」と回答しており、社内講師となる従業員に「お任せ」になってしまっている企業も少なくないようだ。
社内講師の育成施策としては、「外部研修機関への派遣」が最も多く実施されている。
表4 社内講師の活用の有無と社内講師を育成するために実施している施策
(4)外部講師・外部研修団体の活用状況
集合研修の年間延べ実施日数は平均95.5日、外部の活用率は「1~3割程度」が主流
自社研修に外部講師を招いたり、外部研修団体のプログラムを導入したりしている企業は、全体の92.1%。活用していないとした企業はわずか7.9%である。
実際にどのくらいの割合で外部活用がなされているのかをみるために、ここでは研修の延べ実施日数とその中での活用比率をたずねてみた。調査結果によると、集合研修の年間延べ実施日数は、平均で95.5日となった。
そして、この延べ実施日数に対する外部講師・外部研修団体の活用比率を“おおよその見当”で回答してもらったところ、「1割程度」から「全面的に活用」まで広く分布する結果となった。少し大括りにしてみると、「1割~3割程度」が46.0%、「4割~6割程度」が20.2%、「7割~9割程度」が24.3%、そして「全面的に活用」も1割近い9.7%となる。外部研修団体等の活用は、日数(時間)という量の面でも相当進んでいるのが実態のようだ。
表5 集合研修(Off-JT)」の年間延べ実施日数
表6 集合研修の年間延べ研修実施日数に対する外部講師・外部研修団体の活用比率
(5)人材開発部門の現在の問題点
問題点は、1位が「研修効果の測定」、2位が「人員不足」
本調査では、20項目の選択肢をあげ、そのなかから現在人材開発部門が抱えている問題点を選んでもらった。最も多かった問題点は「研修効果の測定が不十分」(66.7%)であった(複数回答)。規模別にみると、大企業の76.8%(中堅中小企業は56.1%)がこの問題点をあげており、いわゆる費用対効果を厳しく問われている現状が浮かび上がっている。
次いで、二番目に多かったのが「人員不足のため業務が多忙である」(60.7%)である。このほか、比較的多かった問題点をみると、「前例踏襲型の研修になってしまう」(43.0%)、「現場の教育ニーズ把握が不十分」(37.8%)、「スタッフの能力開発が不十分」(40.7%)などとなっている。
表7 人材開発部門の現在の問題点(複数回答)
(6)人材開発部門の今後の取り組み課題
今後の課題は、1位が「経営戦略との連動強化」、2位が「成果につながる研修企画」
人材開発部門の今後の取り組み課題について、本調査では、前述の問題点と同様、予想される20項目の選択肢を設け、そのなかから選んでもらった。
最も多かったのは「経営戦略との連動強化」(67.9%)である(複数回答)。次が「成果につながる研修企画の強化」(67.2%)で、いずれも規模別では、中堅中小企業よりも大企業のほうが高くなっている。
6割以上の企業があげた課題は上記の2つのみであるが、これに続くものをみると、「人材開発スタッフの能力開発の強化」、「OJTの強化」、「OJTとOff-JTの連携強化」などがあがっている。
表8 人材開発部門の今後の取り組み課題(複数回答)
(7)人材育成ビジョンの代表的なキーワード
各社が掲げる人材育成ビジョンのキーワードは、「挑戦」、「自律・自立」、「創造」、「倫理観」、「プロフェッショナル」、「成長」
最後に、各社の人材開発部門が掲げる人材育成ビジョンをみておこう。各社のビジョンの表現はじつに多彩であるが、あえてキーワードを抽出すると、次のとおりである。それぞれについて実例を交えて紹介したい(「です・ます調」を「である調」にするなど、一部表現を整理をした)。
【1】挑戦
・「常に挑戦者である」人材を育成する(製造業・大企業)
・堅実志向からチャレンジ志向の社員像へ(非製造業・大企業)
【2】自律・自立
・真に「自立」し、お互いに成長を促す「相互支援」ができる人材を育成する(製造業・大企業)
・グループ企業理念や経営方針を理解し、自らの判断で行動できる人材を育成する(非製造業・大企業)
【3】創造
・お客様の期待に応え得る主体的で創造性豊かな人材の育成(非製造業・大企業)
・社員の「構想力」を育む/粒ぞろいより粒ちがい(非製造業・大企業)
【4】倫理観
・仕事力だけではない、人間力の向上(製造業・中堅中小企業)
・Moral(社会人の良識)、Motivation(強いやる気)、Mission(やり抜く使命感)の3Mを併せ持つ社員を採用・育成する(非製造業・大企業)
【5】プロフェッショナル
・環境の変化に対応しうる市場価値の高い人材の育成(製造業・中堅中小企業)
・技術と洞察力に秀でたプロフェッショナルを目指す(非製造業・中堅中小企業)
【6】成長
・私たちは多能工を目指し、専門性を拡大します(製造業・中堅中小企業)
・社員は常に目標を掲げ、日々チャレンジすることで自己を成長させ、会社の成長を促進し、また会社の成長が社員個人の成長をひきだすという「成長の連環」の実現を目指す(非製造業・中堅中小企業)
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※ 詳細データは「企業と人材」2013年2月号にて掲載しています。
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株式会社産労総合研究所「企業と人材」編集部 担当:伊関
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