7割弱の企業が賃上げを実施予定
うち「2019年を上回る」とする企業は9.9%
人事労務分野の情報機関である産労総合研究所(代表・平盛之)は、毎年、春季労使交渉に先がけて「春季労使交渉にのぞむ経営側のスタンス調査」を実施しています。このたび2020年の調査結果がまとまりましたので、ご報告いたします。
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主なポイント
(1)2020年の賃金改定の見通し
- 5割弱(47.2%)の企業が、賃上げの世間相場を「2019年と同程度」と予測
- 自社の賃上げ予測について、2020年に「賃上げを実施する予定」の企業は全体で7割弱(68.9%)
(2)2020年の自社の賃上げ率予測
- 自社の賃上げ率を「2019年と同程度」とする企業は63.6%、「2019年を上回る」は前回調査より減少して9.9%
- 自社の賃金改定において、2019年10月の消費税増税を「考慮すると思う」は8.5%、「考慮しないと思う」は67.2%
(3)定期昇給制度の有無と賃金改定に向けた経営側のスタンス
- 「定期昇給制度がある」企業は80.0%で、うち46.3%が「全社員に適用」
- 2020年の賃金改定について「定期昇給のみ実施する予定」の企業は47.9%、「定期昇給もベースアップも実施する予定」の企業は16.0%
(4)2020年の年間賞与の見通しと業績連動型賞与の導入状況
- 2019年と比較した2020年の年間賞与の見通しは「ほぼ同額」が37.0%、「減少する見通し」は前回調査より大きく増加して15.7%
- 業績連動型賞与制度を導入している企業は37.0%、採用している業績指標では「営業利益」が最多
(5)非正社員の雇用・賃金
- 2019年中に非正社員の「賃金を増額した」企業は6割強(60.9%)、「手当を増額した」企業は3.8%
- 正社員と同じ仕事をしている非正社員がいる企業のうち、待遇差の「見直しが完了した」とする企業は7.4%
調査要領
【調査名】 「2020年 春季労使交渉にのぞむ経営側のスタンス調査」
【調査対象】 全国1・2部上場企業と過去に本調査に回答のあった当社会員企業から
任意に抽出した3,000社
【調査時期】 2019年12月
【調査方法】 郵送によるアンケート調査方式
【集計対象】 締切日までに回答のあった235社について集計
●集計企業の内訳
調査結果の概要
(1)2020年の賃金改定の見通し
【賃上げの世間相場予測】「2019年を下回る」は前回調査から増加して20.9%
企業の担当者に賃上げの世間相場予測についてたずねたところ、
「2019年と同程度」が47.2%(前回調査58.9%)、「2019年を上回る」は8.9%(同12.7%)、そして「2019年を下回る」は20.9%(同10.1%)と前回調査から10.8ポイントの増加となった。なお、「現時点(2019年12月)ではわからない」と判断を保留した企業は23.0%(同17.7%)だった。
企業規模別にみると、1,000人以上企業(以下、大企業)では「2019年を下回る」とする企業が3割を超えているのに対し、300~999人企業(以下、中堅企業)と299人以下企業(以下、中小企業)では「2019年を上回るが1割を超えている。
図表1-1 2020年の賃上げの世間相場予測
【自社の賃上げ予定】自社の賃上げ予測は「賃上げを実施する予定」が7割弱
自社の賃上げについては、最も多かったのが「賃上げを実施する予
定(定期昇給を含む)」の68.9%(前回調査72.2%)で、次いで「現時点(2019年12月)ではわからない」25.1%(同23.4%)、「賃上げは実施せず、据え置く予定」4.3%(同3.8%)。「賃下げや賃金カットを考えている」と回答した企業はなかった。
企業規模別にみると、「賃上げを実施する予定」の割合は企業規模が小さくなるほど高くなっている。
図表1-2 2020年の自社の賃上げ予定
(2)2020年の自社の賃上げ率予測
自社の賃上げ率が「2019年を上回る」とした企業は9.9%
2020年に自社の「賃上げを実施する予定」と回答した企業(全体の68.9%)は、前年と比較して自社の賃上げ率をどのように設定する考えでいるのだろうか。
最も多かったのは、「2019年と同程度」とする企業の63.6%(前回調査71.9%)で、平均賃上げ率予測は1.9%(同1.9%)だった。「2019年を上回る」とする企業は9.9%(同11.4%)で、平均賃上げ率予測は2.4%(同2.7%)である。「2019年を下回る」とする企業は18.5%(同10.5%)で、前回調査から8.0ポイントの増加、平均賃上げ率予測は1.6%(同1.8%)であった。
図表2-1 2020年の自社の予想賃上げ率
2019年10月の消費税増税を賃金改定で「考慮する」企業は1割弱
今回の調査では、2019年10月の消費税増税による自社の賃金改定への影響について聞いている。賃金改定において今回の増税を「考慮すると思う」企業は8.5%、「考慮しないと思う」企業は67.2%と、7割弱の企業が消費税増税分を賃上げに反映しないとしている。
企業規模別にみると、「考慮すると思う」企業は大企業で2.1%、中堅企業で12.1%、中小企業で9.0%と、中堅企業で他の規模より高くなっていた。
図表2-2 2019年10月の消費税増税による自社の賃金改定への考慮
(3)定期昇給制度の有無と賃金改定に向けた経営側のスタンス
「定期昇給制度がある」企業は80.0%、うち46.3%が「全社員に適用」
「定期昇給制度がある」企業は80.0%(前回調査85.4%)、「定期昇給制度はない」企業は19.1%(同14.6%)と、前回調査に続いて「定期昇給制度がある」企業が8割台となった。額・率に記入のあった企業の定期昇給の平均額・率は4,682円・1.71%で、前回調査(4,510円、1.70%)からは額・率ともに若干増加している。
定期昇給制度がある企業について、その適用対象をみると、「全社員に適用」する企業が46.3%(同52.6%)で最も多く、「一般社員のみに適用」は28.2%(同27.4%)、「特定層のみに適用」は6.4%(同3.7%)であった。
図表3-1 定期昇給制度の有無
2020年の賃金改定で「定期昇給のみ実施する予定」は47.9%
定期昇給制度のある企業に、2020年の賃金改定がどのような内容になるかたずねたところ、「定期昇給のみ実施する予定」の企業は47.9%(前回調査48.9%)、「定期昇給もベースアップも実施する予定」の企業は 16.0%(同13.3%)と、定期昇給もベースアップも両方実施する予定の企業が前回よりも若干増加している。「現時点(2019年12月)ではわからない」とする企業は3割強で、大企業、中堅企業では4割を超えている。
「定期昇給もベースアップも実施する予定」の割合は、大企業18.9%、中堅企業17.0%、中小企業14.3%と、企業規模が大きくなるほど高くなっている。
図表3-2 2020年の賃金改定について(定期昇給制度がある企業)
(4)2020年の年間賞与の見通しと業績連動型賞与の導入状況
2019年と比較した2020年の年間賞与は「減少する見通し」が増加
2020年の年間賞与について、2019年に比べて「増加する見通し」とした企業は7.2%で、前回調査(13.9%)より6.7ポイントの減少、「ほぼ同額」は37.0%で前回調査(36.1%)とほぼ変わらず、「減少する見通し」は15.7%で、前回調査(5.1%)より10.6ポイントもの増加となった。2019年12月時点における見通しということもあり、「現時点ではわからない」も39.6%と4割ほどあった。
業績連動型賞与制度を導入している企業は37.0%(前回調査31.6%)で、導入していない企業は62.1%(前回調査65.2%)である。導入していない企業の今後の方向性としては、「導入する予定はない」が最も高く76.7%で、「現在検討中」は14.4%だった。
業績連動型賞与制度を導入している企業が採用している業績指標では(複数回答)、「営業利益」(52.9%)が最も高く、そのほかでは「経常利益」(39.1%)、「売上高」(21.8%)などが高かった。
(5)非正社員の雇用・賃金
正社員と同じ仕事をしている非正社員がいる企業で待遇差の「見直しが完了した」とする企業は7.4%
非正社員の処遇について聞いたところ(複数回答)、2019年中に非正社員の「賃金を増額した」企業は60.9%(前回調査55.7%)、「手当を増額した」企業は3.8%(同4.4%)であった。「賃金を増額した」は中堅・中小企業で高くなっている。
同一労働同一賃金への対応をみると、「正社員と同じ仕事をしている非正社員がいる」企業(全体の63.0%)のうち、待遇差の「見直しが完了した」とする企業は7.4%、「見直しに着手した」企業は64.9%で、「見直していない」企業は24.3%だった。企業規模別にみると、今年4月からの法施行で対象となる大企業では19.4%が「見直しが完了した」としている一方で、適用が来年となる中小企業では36.8%が見直していないとしている。
図表4 「同一労働同一賃金」への対応状況
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※ 詳細データは「賃金事情」2020年2月5日号にて掲載しています。
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株式会社産労総合研究所「賃金事情」編集部 担当:片上、伊関
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