7割超の企業で賃上げを実施予定
うち約6割が賃上げ率は2017年と「同程度」と予測
人事労務分野の情報機関である産労総合研究所(代表・平盛之)は、毎年、春季労使交渉に先がけ「春季労使交渉にのぞむ経営側のスタンス調査」を実施しています。このたび2018年の調査結果がまとまりましたので、ご報告いたします。
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主なポイント
(1)2018年の賃上げ見通し
- 賃上げの世間相場は「2017年と同程度」が約半数を占めるも、「2017年を上回る」も約2割
- 自社の賃上げ予測は、「賃上げを実施する予定」が7割を超え、前年を上回る
(2)2018年の自社の賃上げ率予測
- 自社の賃上げ率は「2017年と同程度」63.9%、「2016年を上回る」14.3%
(3)定期昇給制度の有無と賃金改定に向けた経営側のスタンス
- 「定期昇給制度がある」企業は77.4%、うち47.2%が全社員に適用
- 賃上げは「定期昇給のみ」が51.2%、「定期昇給もベアも実施」15.4%
(4)業績が向上した場合の配分
- 業績向上分は「賞与にまわしたい」56.6%、「賃上げ(月例給の引上げ)と賞与にバランスよく配分したい」30.2%
(5)2018年の年間賞与の見通し
- 2017年と比較した2018年の年間賞与の見通しは「ほぼ同額」が28.9%
(6)非正社員の処遇改善状況と2018年の見通し
- 2017年に非正社員の賃金を「増額した」企業は48.4%、2018年に賃金を「増額する予定」31.4%
(7)最低賃金の引上げと非正社員の賃金改定
- 最低賃金の引上げが「非正社員の賃金に影響があった」企業は51.6%
(8)有期雇用の無期転換ルールへの対応状況
- 「通算5年を超えた社員から申込みで無期契約に転換」が最多の60.4%
(9)働き方改革関連法案による企業への影響
- 影響ありは、「不合理な待遇差を解消するための規定の整備(同一労働同一賃金)」が最多の51.6%
(10)同一労働同一賃金に関する企業の施策
- 同一労働同一賃金に関する企業の施策は、「再雇用者の処遇改善」が最多の35.2%
調査要領
【調査名】 「2018年 春季労使交渉にのぞむ経営側のスタンス調査」
【調査対象】 全国1・2部上場企業と過去に本調査に回答のあった当社会員企業から
任意に抽出した3,000社
【調査時期】 2017年12月
【調査方法】 郵送によるアンケート調査方式
【集計対象】 締切日までに回答のあった159社について集計
●集計企業の内訳
調査結果の概要
(1)2018年の賃上げ見通し
【賃上げ世間相場予測】「2017年と同程度」が約半数を占めるも、「2017年を上回る」も約2割
企業の担当者に賃上げの世間相場の予測についてたずねたところ、「2017年と同程度」が54.1%(前回調査49.1%)、「2017年を下回る」は5.7%(同21.0%)、「2017年を上回る」は22.6%(同6.6%)だった。なお、「現時点(2017年12月)ではわからない」と判断を保留した企業は、17.6%(同22.8%)となった。
5年ぶりにベア要求が復活した2014年の調査結果では、リーマンショック以降激減していた「前年を上回る」予測が47.8%と大幅な上昇をみせた。その後、2015年12.9%→2016年11.6%→2017年6.6%と下降傾向にあったが、2018年は22.6%と、「上回る」予測が反転上昇した。
図表1-1 2018年の賃上げ世間相場の予測
【自社の賃上げ予測】自社の賃上げ予測は、「賃上げを実施する予定」が7割を超え、前年を上回る
自社の賃上げについてはどのような姿勢でのぞもうとしているのだろうか。最も多かったのが「賃上げを実施する予定(定期昇給を含む)」の74.8%(前回調査62.9%)、次いで「現時点ではわからない」20.8%(同30.5%)、「賃上げは実施せず、据え置く予定」3.8%(同6.0%)、「賃下げや賃金カットを考えている」と回答した企業はなかった。
図表1-2 2017年の自社の賃上げ予定
(2)2018年の自社の賃上げ率予測
自社の賃上げ率は「2017年と同程度」63.9%、「2017年を上回る」14.3%
「賃上げを実施する予定」と回答した企業(全体の74.8%)が、自社の賃上げ率を前年と比較してどのように設定する考えでいるのだろうか。
世間相場の賃上げ予測と同様に、最も多かったのが、「2017年と同程度」の63.9%で前回調査を8.5ポイント下回った。賃上げ率予測は2.0%(前回1.9%)。次いで多かったのは「2017年を上回る」の14.3%で、前回調査を4.8ポイント上回った。賃上げ率予測は2.6%(同2.1%)。最も少なかった「2017年を下回る」は6.7%(同15.2%)で、賃上げ率予測は2.0%(同1.7%)であった。
図表2 2018年の自社の予想賃上げ率
政府の賃上げ要請は、自社の賃金改定に影響しない42.8%
本調査では、昨年に引き続き、政府による賃上げ要請が自社の賃金改定に影響を及ぼすか、企業の担当者にたずねた。調査結果をみると、「影響しないと思う」42.8%(前回53.9%)、「影響すると思う」32.1%(同26.3%)と、「影響しない」が「影響する」を上回ったものの、前回調査と比較すると、「影響する」が5.8ポイント増加している。本項目を調査した2014年、2016年、2017年の「影響する」の結果をみると、2014年25.2%、2016年33.6%、2017年26.3%となっている。
規模別にみると、「影響しない」は企業規模が小さいほど割合が高く、中小企業(299人以下)の約5割は「影響しない」と回答している。
(3)定期昇給制度の有無と賃金改定に向けた経営側のスタンス
「定期昇給制度がある」企業は77.4%、うち47.2%が全社員に適用
定期昇給制度に関して、その有無、適用対象をみていく。定期昇給制度の有無をみると、「定期昇給制度がある」77.4%、「定期昇給制度はない」22.0%と、前回調査からは「定期昇給制度がある」は増加したものの、2012年以降8割程度で推移していた「定期昇給制度がある」企業は減少傾向にある。具体的に記入のあった企業の定期昇給の平均額・率をみると、5,022円、1.8%と前回(4,641円、1.6%)から増加した。定期昇給制度の適用対象は「全社員に適用」する企業が最も多く、約半数の47.2%(前回50.4%)、「一般社員のみに適用」28.5%(同29.6%)、「特定層のみに適用」4.9%(同8.0%)であった。
図表3 定期昇給制度の有無
賃上げは「定期昇給のみ」が51.2%、「定期昇給もベアも実施」15.4%
定期昇給制度のある企業に、2018年の賃金改定がどのような内容になるかたずねたところ、「定期昇給のみ実施する予定」が51.2%と、過半数を超えた。「定期昇給もベアも実施する予定」は15.4%で、前回調査(8.8%)から6.6ポイント増加、ベア率も0.9%(前回0.8%)と、0.1ポイント増加している。また,3割の企業は「現時点ではわからない」と回答している。企業規模別にみると、大企業の5割は「現時点ではわからない」と回答しており、調査時点(2017年12月)では態度を保留した企業が多い。
(4)業績が向上した場合の配分
業績向上分は「賞与にまわしたい」56.6%、「賃上げ(月例給の引上げ)と賞与にバランスよく配分したい」30.2%
企業業績が向上した場合の成果配分についてたずねたところ、最も多かったのが「賞与にまわしたい」56.6%、次いで「賃上げと賞与にバランスよく配分したい」30.2%が続く。「賃上げにまわしたい」は3.8%と、前回調査と同様の結果であった。
図表4 企業業績が向上した場合の配分
(5)2018年の年間賞与の見通し
2017年と比較した2018年の年間賞与の見通しは「ほぼ同額」が28.9%
2018年の年間賞与は、2017年に比べて「増加する見通し」15.7%(前回10.2%)、「ほぼ同額」28.9%(同35.3%)、「減少する見通し」8.8%(同12.6%)であった。2017年と比べて、「増加する」が増え、「ほぼ同額」「減少する」が減った。なお,44.0%の企業が「現時点ではわからない」との回答だったが、2017年12月時点における見通しということもあり、例年同様の傾向である。
図表5 2018年の年間賞与の見通し
(6)非正社員の処遇改善状況と2018年の見通し
2017年に非正社員の賃金を「増額した」企業は48.4%、2018年に賃金を「増額する予定」31.4%
正社員と非正規労働者の均等・均衡待遇や、最低賃金の引き上げなど、非正社員の処遇改善が社会的に大きな課題となっている。ここでは、非正社員の賃金改定についてみていく。
2017年の見直し状況をみると、「賃金を増額した」は48.4%と、前回調査から1.7ポイント増加した。経年でみると、2013年25.2%、2014年41.7%、2015年53.4%、2016年46.7%と増加傾向にある。では、本年はどのような見通しとなっているのか。「現時点ではわからない」(40.3%)が最も多かったものの、「賃金を増額する予定」31.4%、「見直す予定はない」は23.9%と、「増額」が「見直す予定はない」を上回った。
(7)最低賃金の引上げと非正社員の賃金改定
最低賃金の引上げが「非正社員の賃金に影響があった」企業は51.6%
2017年の最低賃金は、全国加重平均で848円となり、2016年から25円の増額となった。政府は「働き方改革実行計画」で「経済の好循環を確実にするため(最賃の)全国平均1,000円を目指す」と定めているが、企業の対応はどのようになっているのか。最低賃金の引き上げの「影響があった」企業は51.6%(前回46.1%)、「影響がなかった」は47.8%(同51.5%)で、「影響があった」が半数を超えた。企業規模別にみると、企業規模が小さいほど「影響があった」の割合が高い。
(8)無期転換ルールへの対応状況
無期転換ルールへの対応、「通算5年を超えた社員から申込みで無期契約に転換」が最多の60.4%
改正労働契約法(2013年4月施行)では、有期契約を反復更新して通算5年を超えた場合に、労働者の申込みに基づき、期間の定めのない労働契約(無期契約)に転換できることになった(無期転換ルール)。施行日である2013年4月以降の雇用契約が対象となるため、本格的に無期転換の対象者が発生するのは、2018年4月からである。今回の調査では、この無期転換ルールへの対応についてたずねた(複数回答)。
最も多かったのが「通算5年を超えた社員から申込みがあった時点で無期契約に転換する」の60.4%、次いで「正社員登用を積極的に進めた」13.8%、「通算5年を超えないように更新する」11.9%で、「未定」も13.2%あった。
(9)働き方改革関連法案による企業への影響
影響ありは、「不合理な待遇差を解消するための規定の整備(同一労働同一賃金)」が最多の51.6%
2017年9月、労働政策審議会のおおむね妥当との答申を得た「働き方改革を推進するための関係法律の整備に関する法律案要綱」について、関係法律が成立し施行された場合、回答企業の経営に影響があるかどうかをたずねた。
調査結果をみると、「影響がある」が最も多かったのは「不合理な待遇差を解消するための規定の整備(同一労働同一賃金)」の51.6%であった。法律改正の趣旨は正社員と非正社員の均等・均衡待遇を図ることにあり、同一労働同一賃金ガイドライン案の実効性を担保することが目的である。
一方、「影響がない」が最も多かったのは「特定高度専門業務・成果型労働制(高度プロフェッショナル制度)の創設」の67.9%であった。以前は「ホワイトカラーエグゼンプション」と呼ばれていた改正案であり、対象条件に合致するホワイトカラーについて、多様で柔軟な働き方を認める必要があるなどの理由から、1日8時間などの法定労働時間ならびに割増賃金などの適用除外を目的に、労働基準法を改正するものである。
(10)同一労働同一賃金に関する企業の施策
同一労働同一賃金に関する企業の施策は、「再雇用者の処遇改善」が最多の35.2%
働き方改革関連法の改正で最も経営に影響があると回答のあった「不合理な待遇差を解消するための規定の整備」だが、企業は実際にどのような取組みを考えているのだろうか。 最も多かったのが「再雇用者の処遇の改善」35.2%、次いで「非正社員の賃金改定」32.7%、「各種手当の支給要件の見直し」25.2%と続く。
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※ 詳細データは「賃金事情」2018年2月5日号にて掲載しています。
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