産労総合研究所(東京都千代田区、代表平盛之)が発行する定期刊行誌「賃金事情」(編集長 吉田貴子)は、「2012年春季労使交渉(春闘)にのぞむ経営側のスタンスと人事賃金管理の方向」に関する調査を行った。
調査要領
【調査対象】全国1・2部上場企業と過去に本調査に回答のあった当社会員企業
企業から任意に抽出した3,000社
【調査時期】2011年11月中旬~12月下旬
【回答状況】回答のあった174社について集計
2012年の春闘
産労総合研究所では毎年、賃金交渉にさきがけて「春季労使交渉にのぞむ経営側のスタンス調査」を実施し、世間相場の動向と自社の賃上げ予測等を明らかにするとともに、2011年からは企業が直面する人事・賃金の課題 を通じて、これからの人事賃金管理の方向を探っている。
今回も、先行きが見えない経営環境を反映し、経営者側の慎重な姿勢がうかがわれる結果となっている。
7割近くが「賃上げを実施予定」で、前年より約10%ポイントのアップ
自社の賃上げについて、どのようなスタンスでのぞもうとしているのかをみると、「賃上げを実施する予定」と回答した企業は、前年の58.2%から67.8%へ、約10%ポイントもの大幅増加となった。
さらに、「賃上げは実施せず、賃金を据え置く予定」の企業も、前年の7.3%からわずかに減少して5.7%となったが、他方、昨年は1社もなかった「賃下げや賃金カットを考えている」企業は、本年は1.1%(2社)となっており、 賃上げに関するスタンスも明暗を分ける結果になった。
「現時点ではわからない」と回答した企業は、前年の31.6%から23.6%へ減少している。その分、「賃上げ実施予 定」が増加したと考えられるが、後でみるように定昇制度のある企業は定昇程度の賃上げを考えており、例年に なく、12月の時点で定昇は実施するという判断を固めた企業が多かったのではないかと考えられる。
図1 2012年の賃上げ予定(%)
世間相場は半数が「2011年と同程度」と予測、「2011年を下回る」も2割強
まず、2012年の賃上げ相場が2011年と比べてどうなるかを予測してもらったところ、震災後の状況を反映してか、一昨年の状態に戻ったような結果になった。「前年と同程度」が47.7%(前回調査50.3%)と最も多いことに変わ りはないが、「前年を下回る」が24.1%(同19.2%)で前年より増加し、「前年を上回る」と回答した企業は6.3%(同1 0.2%)に減少した。
他方、先行きの不透明感が払拭されないなか、「現時点 (2011年12月)ではわからない」と判断を留保した企業 は、前回の20.3%とほぼ同水準の21.8%となった。
景気回復期には世間相場に対する担当者の見方も、「前年を上回る」が毎年一定の割合を保ちつつ推移してきた が(2005年26.2%→2006年33.3%→2007年35.8%→ 2008年24.2%)、金融危機以降は、2009年0.6%、2010年0.5%と激減。 2010年は10.2%へ回復したのもつかのま、今回は6.3%に低下している。
また、「前年と同程度」と予測する担当者が昨年同様半数を占めており、大方は本年も”定昇程度”の賃上げにな ると予測していることの現れであろう。
図2 2012年賃上げ予測(世間相場)(%)
定昇制度のある企業は71.3%、うち賃上げは「定昇のみ実施予定」が66.1%
まず定期昇給制度の有無をみると、今回の回答企業においては「ある」が71.3%(前回調査75.1%)、「ない」が24.7%(同20.9%)で、「ない」企業が若干増加している。規模別に「定昇制度がある」企業をみると、1,000人以上の大 企業が67.4%(同73.3%),300~999人の中堅企業が79.6%(同74.5%)。299人以下の中小企業が67.5%(同76.6%)となり、 本年は中堅企業以外で減少する結果となっている。
このように、定期昇給制度は広く浸透しているが、その適用対象をみると、「全社員に適用」する企業が44.4% (同38.3%)、「一般社員のみに適用」する企業が30.6%(同30.1%)、「特定層のみに適用」する企業が1.6%(同6.8%) など。「全社員に適用」する企業は減少傾向にあったが、本年は若干増加した(2009年46.5%→2010年42.1%→ 2011 年38.3%。
定期昇給制度のある企業が2012年の賃金改定にどのようなスタンスでのぞむのかをみると、「定昇のみ実施する 予定」と回答した企業が例年同様最も多く66.1%(前年調査66.2%)。次いで「現時点(2011年12月)ではわからない」 が29.0%(同29.3%)、「定昇もベアも実施する予定」と回答した企業は、前年の3.8%から若干アップして4.0%(5社) となった。
連合および春闘相場をリードする金属労協は、本年も”賃金カーブ維持分(いわゆる定昇)”を必ず確保すること を賃金要求方針に掲げており,いずれにしても定昇中心の展開となりそうである。
図3 定期昇給制度の有無と賃金改正の予定(%)
非正社員の賃金「見直す予定なし」は45.4%、「増額する予定」の企業は15.5%
2011年の非正社員の処遇改善の見直し状況をみると、厳しい経営環境を反映して、前年の68.4%よりは少ないものの、63.2%が「見直していない」と回答している。それでも、「賃金を増額した」企業が前年の22.0%から25.3%に増加したほか、「手当を増額した」企業も、前年と同じく1.7%(3社)ある。
では、本年はどのような見通しをもっているかをみると、前年同様、「見直す予定はない」が45.4%(同48.6%)と最も多く、「現時点ではわからない」の35.1%(同32.8%)を上回っている。一方、「賃金を増額する予定」の 企業は15.5%(同14.1%)へわずかではあるが増加しており、なかでも300~999人の中堅企業で、今年も22.2% が増額予定と回答しているのが注目される。
図4 非正社員賃金の見直し状況と2012年の見通し
その他、調査結果のポイント
・2011年は84.5%の企業が賃上げを実施、平均4,975円・1.7%で額・率とも2010年を下回る
・2012年の年間賞与額の見通しは、2011年に比べて「増加」は7.5%のみ
・業績連動型賞与の導入率は31.6%、うち最低保障ありは25.5%
・現行の賃金制度について、運用面で問題や課題を抱えている企業は32.2%
※ 詳細データは※ 詳細データは「賃金事情」2012年2/5号にて、11ページに渡って掲載しています。