産労総合研究所(代表 高橋邦明)が発行する定期刊行誌「賃金事情」(編集長 堀之内長一)は、2011年春季労使交渉(春闘)にのぞむスタンスと人事賃金管理の方向に関する調査を行った。
調査要領
【調査対象】全国1・2部上場企業と過去に本調査に回答のあった当社会員企業
企業から任意に抽出した3,000社
【調査時期】2010年11月中旬~12月下旬
【回答状況】回答のあった177社について集計
2011年の春闘
昨年に引き続き、先行きの不透明感が払拭できないなか、2011年の春季労使交渉がスタートした。
連合は、低下し続ける「労働条件の復元」と「非正規労働者の処遇改善」を重点課題にあげている。ただし賃上げについては、春闘をリードする自動車や電機などの組合が、すでにベア要求をしない旨を表明。経営側も定昇の実施については”やむなし”との態度を早々に示すなど、本年も、「定昇確保(賃金カーブの維持)」をめぐる攻防になりそうだ。
産労総合研究所では毎年、賃金交渉にさきがけて「春季労使交渉にのぞむ経営側のスタンス調査」を実施し、世間相場の動向と自社の賃上げ予測等を明らかにしている。今回はそれに加えて、企業が直面する人事・賃金の課題を通じて、これからの人事賃金管理の方向を探ってみた。
調査結果は、徐々に改善の兆しは見えつつも、やはり、先行きが見えないことから、経営者側の慎重な姿勢がうかがわれる結果となっている。
世間相場は半数が「2010年と同程度」と予測、「2010年を上回る」も約1割
まず、2011年の賃上げ相場が2010年と比べてどうなるかを予測してもらったところ、業績回復基調を反映して、前年とは異なる結果になった。最も多いのが「前年と同程度」の50.3%(前回調査28.2%)、次いで「前年を下回る」が19.2%(同54.3%)、「前年を上回る」と回答した企業も10.2%(同0.5%)に増加している。
他方、先行きの不透明感がまだ払拭されないためか、「現時点(2010年12月)ではわからない」と判断を留保した企業は、前回の 17.0%からわずかに増えて20.3% となった。
景気回復期には、世間相場に対する担当者の見方も、「前年を上回る」が毎年一定の割合を保ちつつ推移してきたが(2005年26.2%→2006年33.3%→2007年35.8%→ 2008年24.2%)、金融危機以降は、2009年0.6%、2010年0.5%と激減した。今回は、わずかながら、ようやく回復の兆しが見えてきたといったところかもしれない。
図2_2 世間相場と自社の賃上げ率予測
「賃上げを実施予定」は58.2%、他方「現時点ではわからない」も31.6%
自社の賃上げについて、どのようなス タンスでのぞもうとしているのかをみると、「賃上げを実施する予定」と回答した企業は、前年の57.4%とほぼ同じ58.2%。同様に、「現時点ではわからない」と回答した企業も前年の30.9%とほぼ同じ31.6%である。 また、「賃上げは実施せず、賃金を据え置く予定」の企業は、前年の8.5%からわずかに減少して7.3%となり、幸いにもというべきか、「賃下げや賃金カットを考えている」企業は、回答企業に関するかぎり、本年は1社もないという結果になった(昨年は2.1%)。
「賃上げを実施する予定」と回答した企業は、2005年 79.6%→2006年70.2%→2007年76.4%→2008年85.5%→ 2009年61.9%、2010年57.4%と推移してきたが、本年はようやく下げ止まったようである。
図1 2011年の自社の賃上げ予定
賃上げ率は「2010年と同程度」が75.7%、「2010年を上 回る」も13.6%
賃上げを実施すると回答した企業は、2011年の自社の賃上げ率をどの程度と予想しているのだろうか。 「2010年と同程度」が75.7%(前回調査83.3%)と圧倒的多数を占め、予想賃上げ率は平均1.8%(前年調査1.7%)。
図2_1 世間相場と自社の賃上げ率予測
その他の調査ポイント
◆「定昇制度あり」は75.1%、うち賃上げは「定昇のみ実施予定」が66.2%
◆2010年は87.0%の企業が賃上げを実施、平均5,021円・1.8%で額・率とも2009年を上回る
◆2011年の年間賞与額の見通しは、2010年に比べて「増加」が15.3%、「ほぼ同額」が31.6%
◆全社員に占める非正社員の割合は平均18.7%(前年は24.3%),派遣社員を含め非正規社員の減少傾向続く
◆“有期労働契約のルールづくりに関心あり”は33.3%、なかでも最も関心が高いのは“正社員への転換措置の義務づけ”
◆メンタルヘルス対策を実施している企業は66.1%、“職場復帰プログラムあり”は28.2%
【2011年の労使交渉のためのガイドブック】
「2011年版 賃金・労働条件総覧」には、春闘における賃金・処遇決定のためのあらゆる業種別データが満載です。必要に応じてデータを加工することで、より実証的、説得的な情報を得ることができます。
※ 詳細データは「賃金事情」2011年2/5号にて、22ページに渡って掲載しています。