定期刊行誌「賃金事情」を刊行するシンクタンク機関の株式会社産労総合研究所(東京都千代田区、代表 平 盛之)では、毎年、春季賃金交渉後の賃金実態を把握し、来期の賃金交渉のための基礎資料とするために、全国の100人以上企業を対象として「モデル賃金・モデル年間賃金調査」を行っている。
このほど、その2011年度調査の結果がまとまったので、その概要を紹介する。
調査要領
調査結果ハイライト
(1)2011年度 モデル賃金
年齢ポイント別にみたモデル賃金の上昇率
「大学卒・総合職・所定内賃金」の上昇率をみると、今回も全年齢ポイントで上昇率が1%未満となっている。これは1998年度調査以降、長期にわたって続いている傾向であるが、とくに前回は、25歳ポイントが0.3%だったほかはすべて0.1~0.2%にとどまっていた。2011年度は前回からはわずかに上向いたものの、実質的には「ほぼベアゼロ」状態が続いている。
モデル所定内賃金、基本賃金の年齢間格差
モデル賃金の年齢間格差は非常に長く縮小傾向が続いており、上昇率の低迷とともに、モデル賃金調査における長期トレンドとなっている。
まず、おおよそこの25年間で、大学卒・総合職の年齢間格差がどう推移してきたかを、全体計の30・35・45・55歳ポイントでみてみよう。
30歳 | 35歳 | 45歳 | 55歳 | |
[1985年度] | 157.6 | 196.1 | 280.2 | 337.6 |
[1990年度] | 150.9 | 186.8 | 265.7 | 317.4 |
[1995年度] | 148.3 | 180.7 | 250.3 | 305.5 |
[2000年度] | 148.8 | 180.8 | 249.2 | 294.8 |
[2005年度] | 143.8 | 173.1 | 235.0 | 276.8 |
[2010年度] | 143.9 | 171.7 | 231.5 | 267.0 |
[2011年度] | 143.2 | 171.4 | 231.0 | 270.6 |
55歳の平均所定内賃金は15年位前までは22歳時の3倍以上あったのだが、それが2011年度には2.7倍まで縮まってきていることになる。85年度以降で考えれば約20%の縮小である。
表1は、このモデル賃金の年齢間格差を、すべての年齢ポイントに回答があり、かつ最高役職位まで昇進・昇格するよう設定・回答している企業を抽出して、集計を行ったものである。モデル賃金本来の「銘柄別の個別賃金」という意味では、「全従業員対象の理論モデル」が理想的だが、表1はこれに近く、モデル賃金としての全体のピッチはより正確に表れているといえる。
なお、年齢と対応する役職位の目安は、30歳[主任クラス]、35歳[係長クラス]、45歳[課長クラス]、50歳[次長クラス]、55歳[部長クラス]である。
そこで、表1で所定内賃金の年齢間格差をみると、30歳140.7、35歳169.1、45歳236.9、55歳283.9などとなっていて、上記の全体集計の数値でみるより格差が大きい。
一方、基本賃金の年齢間格差は、所定内賃金よりは小さい。基本賃金の1歳あたりの昇給ピッチは、30歳から50歳の間は10,030円、50歳から55歳の間は7,375円となっている。
表1 全年齢記入企業におけるモデル賃金と年齢間格差(大学卒・総合職,22歳=100)
諸手当
諸手当に関しては、今年度は役付手当および家族手当についてのみ調査した。
職位と手当額が明瞭な役付手当を集計した結果は、以下のとおりである。
[主任手当] 13,236円(前回14,042円)
[係長手当] 22,115円( 〃23,115円)
[課長手当] 53,643円( 〃53,412円)
[次長手当] 70,559円( 〃65,983円)
[部長手当] 84,779円( 〃82,977円)
表2 役付手当制度の有無および平均支給額
表3 家族手当制度の有無および平均支給額
(2)2011年度 モデル年間賃金
2011年度の賞与・一時金の支給状況
回答企業の賞与・一時金の支給状況についてみると、表4のような結果となった。前回調査と単純に比較すると、年末は6,049円、0.02カ月の、夏季は21,620円、0.03カ月の増加となっている。
表4 賞与・一時金の平均支給額、月数
また本調査では、毎年、前年度比の増減率について回答があったところだけを抽出して集計しているが、その直近5年間の推移は以下のとおりである。
(前年)年末 | 夏季 | |
[2007年度調査] | 4.0% | 2.2% |
[2008年度調査] | 1.9% | 0.7% |
[2009年度調査] | △2.5% | △12.8% |
[2010年度調査] | △9.6% | 2.4% |
[2011年度調査] | 5.5% | 4.1% |
2009年夏季から同年年末にかけて、賞与・一時金の増減率は大きく落ち込んでいる。これは賃上げ実施企業の割合と同じ傾向であるが、減少幅は賞与・一時金のほうが大きい。
モデル年間賃金の金額および上昇率
2011年度のモデル年間賃金集計結果のうち、大学卒・総合職の年間賃金を、主な年齢ポイントで前回調査と見比べてみると、
25歳 | 35歳 | 45歳 | 55歳 | |
[2011年度調査] | 364.3 | 561.0 | 762.9 | 898.1 |
[前回調査] | 358.2 | 554.9 | 749.8 | 863.3 |
などとなっている(単位:万円)。
モデル年間賃金の上昇率は2009年度調査から2年続けて、ほぼ全年齢ポイントでマイナスとなる傾向にあったが、今回調査ではそれがプラスに転じた。ただし、回復基調は緩やかなものであり、震災、円高等の影響により再びマイナスに転じる可能性もある。2012年春闘の動向が注目されるところである。
調査結果ハイライト
資格等級制度がある企業は8割強
まず、今回調査の回答企業における資格等級制度の導入状況をみてみると、制度の有無に回答のあった189社のうち、「資格等級制度あり」が161社、「資格等級制度なし」が28社で、導入率は85.2%となっている。
資格等級数の平均は「9.8等級」
資格等級制度を導入している企業の等級数をみると、最も多いのが「10等級」の19.7%、次いで「8等級」と「9等級」がそれぞれ14.3%、「7等級」が10.9%と続いているが、いずれも2割未満であり、ばらつきの大きい結果になった(前回2007年の調査では、「9等級」27.3%、「6等級」15.1%、「10等級」12.2%の順)。
平均等級数は「9.8等級」となっている。
表5 資格等級数の分布状況と平均等級数
※ 詳細データは「賃金事情」2011年10月20日号、11月5日号にて掲載しています。