民間のシンクタンクである株式会社産労総合研究所(代表取締役社長 平 盛之)が病院を対 象に実施した「人事考課制度導入に関する実態調査」において、人事考課制度導入の実態、目的、 効果、賃金制度との連動について明らかにしました。
実際に支払われている賃金等に関する調査等に比べ、人事考課制度の導入実態に関する調査は 少なく、今後の病院運営上の参考資料になるものと考えられます。
このほど、調査結果がまとまりましたので、ご報告いたします。
なお、本調査に関する詳細は、産労総合研究所が発行する月刊誌『医療アドミニストレータ(注:現「病院羅針盤」)』 10 月号に、日本賃金研究センターの篠塚功主任研究員の解説とともに、掲載しています。
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調査結果のポイント
(1)人事考課制度導入の有無と未導入病院の導入予定
- 人事考課制度導入病院は76.1%(124病院)、未導入病院は23.9%(39病院)
- 人事考課制度導入職種は事務職、コメディカルの比率が高く、医師は低い傾向
- 導入しない理由は考課制度の構築の難しさや効果への疑問
(2)人事考課制度導入の目的と効果
- 人事考課制度の導入目的は人材育成、職員の意識改革
- 人事考課制度導入により実感している効果は「職員の意識改革」
(3)人事考課制度と賃金制度との連動
- 人事考課制度と賃金制度が連動している病院は 75.8%
(4)人事考課制度の処遇への反映
- 人事考課結果は「賞与」で反映
調査要領
【調査対象】 過去に当社各種調査に回答のあった当社会員病院
【調査時期】 2014年6月
【調査時期】 郵送によるアンケート調査方式
【回答状況】 有効回答 163 病院について集計
「公立」:国立病院機構、労働者健康福祉機構、国立大学法人、都道府県、市町村、地方独立 行政法人、公立大学法人など
「公的」:日赤、済生会、厚生連、国民健康保険、厚生年金、社会保険、北海道社会事業協会、 公益法人など
「私的」:公立、公的以外
調査結果の概要
(1)人事考課制度導入の有無と未導入病院の導入予定
人事考課制度導入病院は76.1%(124病院)、未導入病院は23.9%(39病院)
人事考課制度は、163 病院のうち 76.1%(124 病院)が「導入している」と回答した。
病床規模でみると「200~300 床」規模における導入割合が他の規模に比べると低い傾向が見られた。
設立主体別では、導入割合にほとんど差はなかった。
図表1 人事考課制度を導入している病院数(n=163)
人事考課制度導入職種は事務職、コメディカルの比率が高く、医師は低い傾向
職種別の人事考課制度導入状況は、事務職、コメディカル、看護師、医師の順となった。特に医師に対する導入割合は、人事考課制度を導入している 124 病院のうち、半数以下の46.0%(57 病院) にとどまった。
図表2 人事考課制度の導入対象職種(n=124、複数回答)
「その他」は、栄養士、看護助手、労務員、研究職、介護、 調理師、運転士等
導入しない理由は考課制度の構築の難しさや効果への疑問
人事考課制度を導入していない病院(39 病院)に導入しない理由を聞いたところ、人事考課制度の難しさや効果を疑問視する意見が目立った。
▼ 主な人事考課を導入しない理由
・ 公平な人事考課制度の構築が難しい。
・ 医療業で人事考課を導入して組織活性化につながった良い事例をあまり聞かないため、慎重に検討したい。
・ 判断基準の設定が難しいため。
・ 労組との合意が得られない。
・ 労働組合の反対があるため。
・ 現在、目標管理制度導入中。
・ 県立病院であり、人事は病院長の権限ではないため。
・ 効果が期待できない。
・ 考課者の教育や人事考課表の基準決定等が難しいため。
・ 主力である看護管理者から業務負担の申し出。欠勤/夜勤など客観的事実を賞与に反映している。
・ 制度を運用するレベルにない。
・ 設立7年目で組織固めを行っている段階であり、その後、導入について検討する。
・ 昨年度まで処遇に反映させない人事考課を導入していたが、考課者の負担が大きいため、
平成 26 年度については目標管理のみ行い、考課を実施しないこととした。
・ 人事考課に対する意識をしっかり理解できていない。
以前、人事考課導入に向けて動いてみたが、当院の風土と合わず断念した。
(2)人事考課制度導入の目的と効果
人事考課制度の導入目的は人材育成、職員の意識改革
人事考課制度を導入した目的は、「人材の育成」「職員の意識改革」「収益改善」「組織の活性化」 の順だった。
一方、「収益改善」をあげたのは 124 病院のうち 11 病院、8.9%にとどまった。
図表3 人事考課制度の導入目的(n=124、複数回答)
「その他」は、方針の具現化、患者満足、業務能率の増進
人事考課制度導入により実感している効果は「職員の意識改革」
人事考課制度の導入により実感した効果は、「職員の意識改革」(59.6%、74 病院)となった。一方、「効果なし」も2病院あった。
図表4 人事考課制度導入後の効果(n=124、複数回答)
「その他」は、目標達成への動機づけ、効果は薄い、導入したばかりのため検証中、内容の見直し中 なと
(3)人事考課制度と賃金制度との連動
人事考課制度と賃金制度が連動している病院は 75.8%
人事考課制度導が賃金制度と連動している病院は 75.8%(94 病院)、連動していない病院は 24.2% (30 病院)だった。
連動してない病院のうち、今後の予定について聞いたところ、「連動予定あり」が 20%(6病院)、 「連動予定なし」は 43.3%(13 病院)、「検討予定」は 30.0%(9病院)、「その他」は 6.7%(2病院)となった。
人事考課制度と賃金制度を連動させない理由については、考課基準の未整備、評価基準が曖昧、 公平さ・公正さが不十分などの意見があった。
▼ 人事考課制度と賃金制度を連動させない理由
・ 評価基準が曖昧なため。
・ 結果の公平さ、公正さが不十分である。
・ 人事考課の評価の公平な評価に課題がある。まずは人材育成が必要。
・ 人事制度の本来の目的は人材育成であり、モチベーションアップである。
・ 人材育成を目的としているため。
・ 現在は人材育成と組織活性化を目的とした運用に限定している。
今後、評価の公平性を確保するための仕組みづくりを行い、そのうえで賃金と連動する制度を目指したい。
・ 人事考課制度が未成熟であり、評価の平準化の強化を図っている。給与に直接結びつけず、人材育成に利用。
・ 評価者の均一的な評価能力の育成が必要。
・ 公平な処遇として反映させるために、現時点で対応できていないため。
・ 賃金制度に反映させるには評価項目、評価方法等が十分ではない。
将来的に昇給/賞与への反映を目指しているが、実現していない。
・ 評価が低い者に対する処遇方法が困難。評価は絶対評価としているが、
仮に賃金に連動した場合に相対考課となることが予想され線引きが困難。
・ 医師に対して導入していないため、一律的な対応が困難。
・ 労働組合との協議が必要。
・ 公立病院であり、自治体の給与への考え方と連携して考えることになる。
・ 当院は自治体病院であり、地方公営企業法全部適用となっているが、
市全体で人事考課結果と賃金制度を連動させていないため。
・ 自治体病院である当院の人事考課は市の制度によるものであり、直接的に賃金に連動しているものではない。
・ 考課結果によって賃金が変動する制度は、組織力/チーム力の向上につながらないため。
(4)人事考課制度の処遇への反映
人事考課結果は「賞与」で反映
人事考課制度を導入し、賃金制度と連動させている病院のうち、処遇への反映についいて、「賞与 で反映」が 87.2%(82 病院、複数回答)で最も多く、続いて「昇給で反映」が 74.5%(70 病院、 複数回答)だった。
図表5 人事考課結果の処遇への反映(n=94、複数回答)
「その他」は、医師は昇給・その他の職種は賞与、 定年再雇用時に再雇用基準として活用、なと
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※詳細データは「医療アドミニストレーター」2014年10月号に掲載しています。
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株式会社産労総合研究所 「医療アドミニストレーター」編集部 担当:小林
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