看護のチカラ この人に聞いてみた 第8回 会話で世の中を豊かにする

編集部が今、一番会ってみたい人に「コミュニケーション」についてインタビューするコーナー。
看護業界以外で活躍している人のコミュニケーション方法がお仕事のヒントになるかもしれません。
今回の“この人”は 株式会社御用聞き・代表取締役社長の古市盛久さんです。
5分100円の家事代行―。その名も「御用聞き」。失敗して失敗して失敗して残ったものに必然性があった!

●古市盛久(ふるいち・もりひさ)

古市盛久(ふるいち・もりひさ)
多摩大学経営情報学部卒。大学卒業後、大手不動産会社に入社。不動産管理業務に従事。同年年末に起業。9年間の不動産事業の後、地域支援の領域に御用聞き事業を起ち上げる。6,000件の独自の事例の中から体系化された手法は多くのメディアで取り上げられる。

株式会社御用聞き 概要

住 所: 〒175-0082 東京都板橋区高島平 2 -33- 12 F 未来箱内 御用聞き
TEL: 0120-309-540
活動内容:

  • ●100円家事代行

    5 分100円メニュー(・電球交換・電池交換・あて名書き・郵便物回収・びんのフタ開け・カートリッ ジ交換・ウォーターサーバー付け替え・日常的なお掃除)

  • ●たすかるサービス

    5 分300円メニュー(・家具、粗大ゴミ移動・草むしり)
    たすかるメニュー(・大掃除のお手伝い・ふろ掃除(しっかりめ)・トイレ掃除(しっかりめ)・キッチン掃除(しっかりめ)・ちょっとしたPCサポート・その他いろいろ)

  • ●片付けられないお部屋のお手伝い(・遺品整理・生活環境整理)
  • ●講演会・セミナー
  • ●事業支援 サービス提供エリア:
    • ●東京都 ・23区全域・清瀬市・町田市・立川市・八王子市
    • ●埼玉県 ・和光市・新座市
    • ●神奈川県 ・茅ヶ崎市の一部地域・横浜市の一部地域
    • ●愛知県 ・名古屋市の一部地域・刈谷市の一部地域・春日井市の一部地域・知立市の一部地域

1億円、すっちゃいました

― 「御用聞き」を始めた背景を教えてください。

小学校5~6年生ぐらいのころから、スーパースターになりたいとか、野球選手になりたいとかの延長線上に、世の中を良くしたいとおぼろげながらイメージしていました。先行したのは、ファッションとか欲としての挑戦だったんですけど、いろんな失敗や経験をするなかで、ファッション性が薄れいって、リアリティーというか、事実が見えてきました。
事実に触れれば触れるほど、その難しさや感動があるなかで、30歳のころに「よし、そろそろだ」と思い立ち、インターネットを使った買い物支援をやったところ、大失敗して1億数千万円すったんです。自分は「世の中を良くしたい」「サポートしたい」からスタートしたはずなのに、「自分に対する評価はもうなくなった」「人間として生きる価値があるのか」と思いました。できることは買い物支援を継続できないことへのお詫びです。でも、「ごめんなさい。買い物支援サービスはもうお金がなくなって続けられません」と回った先で、
「あなた顔色悪いけど大丈夫?」「ご飯食べた?」「もうそんなこといいから、上の物取ってよ。3,000円あげるから」などと言ってもらって、支援していたはずの地域の方に自分は救われたんです。「じゃあ、もしよかったら上の物を下ろさしてください」と言って、下ろした時の目の前にいる方の感動した姿や、中には涙を流して喜んでくださった方に救われたという感謝の気持ちでいっぱいになりました。あとは、こんなささいなことでここまで喜んでくださる方が、この今の日本にいらっしゃるんだという衝撃ですよね。そこから、何かを考えてとか、欲望の赴くままにではなく、この課題と向き合いたいと。これを解決することが、結果的に自分にとっての起業なんじゃないかっていうのを細胞レベルで理解したんです。結果、頭が「あ、そういうことなんだ」って追い付いてくるみたいな。

ヤバい、仲間が必要だ

― それで御用聞きを始められたのですね。立ち上げ た当初は、古市さんお 1 人でやっていらしたのですか。

1人でしたね。お金なかったんで。練馬区の光が丘団地って、1万3,000世帯が住んでいるんですが、そこから始めました。
初年度で、12月の大掃除っていうシーズンに気づかないまま突入しまして。いろんな方に呼んでいただいて、「うれしい!やった!」と、朝の6時半ぐらいから夜の12時すぎぐらいまで、一日中、何現場もお手伝いしてて。そうしたら、12月下旬に、血尿が出てひっくり返りまして。「あ、ヤバい。仲間が必要だ」それが最初の思い出です。

― どなたかにお声掛けしたのですか。

まずは、福祉でいうところの「互助」を目指しました。お互いを助け合う中には、「スーパーマン型」と「組織型」があると思っています。スーパーマン型は、1人が何でも言われたことはやり切る。スーパーマン型のいいところは、その人がいる場所は平和だし、周りがうれしい。短所は、その人のいない場所では何も起こらない。その人が体調崩すとサービスがゼロになる。組織型のメリットは横に広げられる。デメリットは、金太郎あめです。画一的になりがちで深掘りしづらいっていうところですね。ただ、血尿を出してひっくり返った時に、「やっぱり、日本には組織型がもっとあったほうがいいよな」と思いました。そこで、商店街のシャッターに「仲間求む」って手書きのポスターを張ったら、65歳以上の方が1週間で10人ぐらい手を挙げてくださって。

「御用聞きらしさ」に収束できない

すぐはうまくいかなかったですね。なぜかっていうと、マインドセットだったり、サービス設計などが何もできてなかったんです。なので、メンバーの中には「今日のお風呂掃除、説教してやったわよ」と言う方がいたり。家具の組み立てで、電話で「壊された」とクレームが入り、現場に急行したら、新品のねじ穴が金づちで真っ平らにつぶされていて。「こうすればねじが外れないんだ」と言う元職人さんがいたり。皆さんのさまざまな流儀を「御用聞きらしさ」に変えるってことができなくて。地域の人から「あなたたち、シルバー人材センターさんなの?」と言われて、「あ、必要性がなかったのかな」って思いましたね。そこから、ママさんとも何名か一緒にやってみたんですが、お子さんの風邪で当日キャンセルとか。あとは、お客さまが親御さんの介護をされていて、担い手のママさんの介護とぴったり重なっていたので、介護疲れのお話を4時間ぐらい聞いたりとか。これはこれで、突破口が見いだせないなと感じていました。

「学生さんは集まんないよ」、「それだ」

そんななか、当時、自分は30歳とか31歳だったので、まだ若者寄りに扱っていただいて、「あんたさ、体丈夫そうだから、これ持てる?」とか「パソコン、わかんないんだけどさ」など、相手が若い世代だからこそのニーズを言ってもらえるようになってきたんです。「だったら若者の担い手ってどうなのかな」と思ったところ、地域では若者のお助けチームは少ないと、いろんなところで言われました。「学生さんは、集まんないよ」「学生さんは、何を考えてるのかわかんないからさ」って言われたんで、「あ、そこだ」と思って、問題解決に特化していきました。結果、現在では175人の学生さんが登録してくれています。その学生さんたちと一緒に東京23区+αの地域で生活支援をさせていただいています。

― 学生の方々にとってもメリットのある活動なのですね。

そうですね。有償ボランティアという形で、ボランタリティー精神にのっとった活動に仲間が集まっていて、最低限の報酬を保証しています。週3回の御用聞きで10万円以上の報酬がある仲間もいます。
あとはやっぱり社会経験ですね。もっと視野を広げたい、もっと地域を知りたいという社会経験が、需要としては圧倒的です。もう1つはキャリアアップ。消去法ではなく自分で就職先を選ぶ攻めの就職活動のために、自分自身をもっと深めたいようですね。社会経験、キャリアアップ、有償ということで、学生さんたちは御用聞きを喜んで、一緒に仲間となって活動していただいているっていう感じですね。

― 有償ボランティアをした学生さんからの口コミで、お友だちなどにも広がったりしているのですか。

はい。お友だちやその学生さん本人のリピート参加も多いです。ほかには、自分が通っている大学の先生に話したら、とても興味を持ってくださったようで「大学で活動を話してください」と依頼されたこともあります。大学に行って話すと共感をいただき、さらに仲間が増えるみたいな。
また、一部の大学では、御用聞きでのインターンシップで単位がもらえる仕組みを導入してもらっています。学業というアカデミックスマートと、社会を生き抜く力であるストリートスマートを両立するプログラムが増えていると、最近強く感じるようになってきました。

失敗し続けて残ったもの

― マインドセットや理念を設定する際、ご苦労されたんじゃないでしょうか。

仲間とはよく、「後出しじゃんけん」と言っていまして。大体、古市がこうであろうとか、こうあるべきだと言っているものはすでに失敗しているので(笑)。失敗して失敗して、残ったものに結果、社会が求める必然性があるんですよね。だから、今こうやってお話している内容も、8年数カ月の間に残り残った必然性の事実のみです。
もし、当時「いや、年配の方が担い手でないとダメだ」と思っていたら、今のような成果を上げることはできなかったんじゃないかと思っています。自分は、経営者としては天才でもないし、やり手でもないので、どうするかといったら、やっぱり場数ですよね。とにかく「人より多く考えて、人より多く動く」を徹底的にこなすことが約10年間のスタイルでした。

― 場数を踏まれていくなかで、お客さまとトラブルが起きたことはありませんでしたか。

ありがたいことに、トラブルはほとんどなかったですね。介護業界や医療業界に在籍する方とよく意見交換をするんですが、うちとの差は何だろうって考えたときに、「顧客は誰か」というところに行き着くのかなと思っています。顧客が行政や自治体で、利用者は個人という場合、顧客と利用者が一体ではないので、利用者から「何でこれやってくれないの」となりますよね。これが御用聞きの場合は、良くも悪くも顧客と利用者が一体化している現場がほとんどなので、会話が成り立ちやすいことが特徴としてあるのかなと。あとは、難し過ぎることはやらない。「これは、僕らできません。ただ、やれるところを一緒に探しましょう」と提案して、インターネットで一緒にとことん調べるので、そのあたりも自分たちの特徴なのかと思います。

― 介護保険のサービスなどでは、カバーし切れない部分ですね。

そうですね。介護保険制度外であることと、民間のベンチャーであることの強みです。お客さまと一緒に調べるとなると、大手企業だったらコンプライアンスの問題があるでしょうし、もっと大手企業でいうと、玄関に踏み込むことさえできないことも。
ご自宅にあがらないことでリスクヘッジしているわけですが、自分たちは、だからこそ、必要性が生まれて役割分担できるんだと思いますね。

会話で世の中を豊かにする

― 実は、御社を知り合いに紹介しまして。パソコンの設定が難しいけれど、メーカーさんに頼んだら何万円もかかってしまうと困っていたのですが、御用聞きさんはいろいろと話を聞いてくれて、非常に助かったと言っていました。

うれしいです。よかったです。

― 皆さんが求めているのは、例えば電球の交換だけではなかったりしますよね。

そうなんです。まず理念・ビジョンとして、自分たちは「会話で世の中を豊かにする」と掲げています。
相手がうれしい、ほっとした気持ちでいられたら、自分たちもうれしい、ほっとした気分で、お互いがいる空間に温かみが生まれる。そういったありようを1つでも多く増やしていきたいというのが、御用聞きのビジョンです。
よく新聞などで「つながり」という平仮名4文字が踊っていますが、言うは易しというか、それはもっと複雑であり、複雑なようでいてシンプルで、温かみがあってなどなど、簡単には表現しづらい部分あるじゃないですか。「つながり」を見いだすにはやっぱり会話が必要です。そのためには自分たちを知ってもらうことだったり、生活者さんを知ることであったり。ささいな困りごとや背景にあるその方のアイデンティティー、喜び、悲しみを理解することがすごく大事だと思っています。
御用聞きのスタッフは、全員個性的で、それぞれに長所・短所があって、少しでも喜んでもらいたいと思っている仲間たちです。ビジョンに基づいて、みんなで楽しくやっています。

ビックリ依頼

― 今までのお客さまの中で、驚きの依頼があったら教えてください。

夜8時ぐらいに事務処理をしていたら、ドアがコンコンって鳴って。小学校2~3年生ぐらいの女の子が1人で来て、テーブルの上にパチンって100円玉を置いて「これでお父さんとお母さんのけんかを止めてください」と言われてびっくりしましたね。で、「お父さんとお母さんの顔を見て、けんかやめてって言ってごらん。それでもダメだったら、もう1回、おじさんとこにおいで」と言ったら、「分かりました」と走って帰りました。心配になって夜10時ぐらいまで店で待っていたんですが、来なかったので多分うまくいったのかな、と。
ほかには、泣きながら電話相談された年配の女性の方で、ご自宅に見積もりに行ったら、お通夜の準備で祭壇と遺骨があって。「お父さんが」とおっしゃるので、「お父さん、他界されたんですね」って言うと「うん、そうなの。よかったの」って言われて。「どういうことですか?」と返すと、家で死にたいがお父さんの口癖だったそうで、終末期で入院されていたのですが、先生方が頑張って家に帰してくれて。それから1週間後に亡くなったそうです。「大変でしたね。でもよかったじゃないですか」と言うと、「そうなんだけど、これ見て」と言われて壁を見たら、吐血の跡が袈裟斬りのようにバアっと。
「明日お通夜なんだけど、主人がみっともなくって恥ずかしくって。このままじゃお通夜できないから、葬儀屋さんに聞いたら『いや、私たちのサービスにはありません』。ケアマネさんに聞いたら『ちょっと、そういうの、私たちはできないな』って」と断られたようで、「どうしたらいいの?」とその場で泣き崩れられちゃって。
もうやるしかないですよね。「やりましょう。どうなるか分からないですが、それでもよかったらやりましょう」と言いました。ジャリジャリした砂壁なので、立体的に血が付いちゃって全然落ちないんですよ。ああでもないこうでもないと試行錯誤した結果、お好み焼きのへらで削ってみようと。お母さんと2人、100均で買ったへらで砂壁の一面を全部削るのに4時間かかりました。
その4時間の中で、ご夫婦のなれそめ、お子さんの誕生、けんか話などなど、お父さんの人生を話してくださって。怒ったり泣いたり笑ったり、いろんな感情をシェアしてくださいました。砂壁が全部きれいになって、2人で握手して「やったー!」と泣きましたね。祭壇にお線香を上げて手を合わせた時、自分も家族の一員にさせていただいたような感覚になり、印象的でした。誰も悪人がいなくて。
いわゆる高齢世帯の1つを経験させていただいた案件でしたね。

「あ、テレビのお兄ちゃん」

― 高齢の方は、インターネットが当たり前ではない方が多いので、どういう形で御用聞きをお知りになるのでしょうか。

私たちはそんなに予算がある会社ではないので、PRの仕方を絞っています。東京23区の地域包括支援センターさんには、月に1回ご案内書をお出ししていて、そちらのケアマネさんからのご紹介。あとはテレビ出演と口コミですね。
前に換気扇の油取りで伺った先で、「あ、テレビのお兄ちゃんだ」と言われ、「ありがとうございます。テレビのお兄ちゃんです」と(笑)。お客さまは、すごく元気な80代の女性の方で、片っ端からお友だちに電話で「あのテレビのお兄ちゃん来てるよ、来てるよ」と連絡したら、10分ぐらいで6人ぐらいのお友だちが集まられて。
換気扇を拭いていると、後ろで「これできんの?あれできんの?」「食べていけんの?」「奥さんいるの?」「夫婦げんかしてないの?」と質問責めで大盛り上がり(笑)。そうしたら、どんどん「じゃあ次、私んち」、「じゃあ、その次は私んちね」と目の前で口コミのご依頼があったり。
この活動は、デジタルな部分とアナログな部分が共存したサービスなのかなとは思いますね。デジタルが効率化だとすれば、効率化する前の大切なものは何か。御用聞きでやらせていただいている活動には、その大事なヒントがあるんじゃないかなと思っています。効率化よりも、前提として何が必要かというところです。だから、現場に行って「よくわからないけど、大丈夫ですよ」と言ってそばにいることを、経済合理性を伴いながらどうできるか、自分たち徹底的にやり込んでいます。それも、自分たちにとっての必然性、やり込んだ結果、残ったものなんです。

0 から 1 をつくる

― 経済合理性を伴った活動。なるほど。ご自分たちばかりを犠牲にしては成り立ちませんね。

はい。お客さまに喜んでいただく、守ることと同じぐらい、担い手を守ることってすごく大事なので、担い手とお客さまを同列にして議論しています。

― 古市さんが会社でお勤めされていた時に、担い手として組織から大事にされていると感じたことはありますか。

自分は10カ月だけ会社に勤めていましたが、「ん?」っていう半疑問はいろいろ経験しました。お客さまが求めていない商品を営業しに行かなければいけないとか、膨大な書類を書くことに何の意味があるんだろうとか。
ただ、それは大手企業を批判するものではなくて、そういった経緯も含めて大手になったわけなので、「まあ、そういうもんか」と思ってはいました。
大手企業にとって、社員が感じる半疑問は解決されることがなかったデッドスペース。歴史のサイクルから見ても、これが次に生まれるベンチャーの売りとなるスペースなんだろうなと思っています。御用聞きが肥大化したときにも必ず間ができるはずで、そこを埋める活動も必ず必要になるでしょう。
自分は0から1をつくることに圧倒的な欲求を持っているので、1がつくれるまで続かないと意味がありません。

― そのこだわりは、プライベートでも発揮されるのですか。

プライベートはあまりないですね。御用聞きの活動自体が、ライフワークになっているので。
強いて言うと、数少ない趣味の1つが合気道です。大学生のころにめちゃくちゃやり込んでいたんですが、また復活しました。

― 当時との違いを感じますか。

違いますね。面白いですね。
学生のころは反射神経と筋力でやっていたんですが、今は考えないようになりました。考え込まないほうが結果がいいんです。力を抜くみたいなところが合気道にはあって、それができるようになったので当時とは違う面白さを感じます。合気道でぎゅっと体動かして汗かいて力を抜くと、次の日の現場や打ち合わせでのパフォーマンスが上がるんですよね。我欲や思考が行き過ぎちゃっているときこそ、合気道で肩の力が抜けるみたいです。

マツケンとの出会い

― インターネットで御用聞きを検索すると、御社の松岡健太さんもよく登場されていますね。

マツケンですね。彼はエネルギーの塊ですよ。

― 彼は社員さんなのですか。

そうです。大学卒業と同時に御用聞きに入社して、その年の年末に取締役にしたんで、正確に言うと役員ですね。現場にはたくさん出ていますが、今は、ちょっとボリュームを絞ってバックヤード側に片足を突っ込んでいます。

― お二人はどういう出会いだったのですか。

御用聞きは最初の4年間が赤字で、経済合理性を担保するために赤字解消に2回挑戦したのですが、うまくいかなくて。3回目は最後の挑戦ということで、失敗したら会社を清算することが株主総会で意思決定されました。
最後の挑戦する時に、このままでは多分同じ結果になるだろうから、いろいろな知人を介して、仮説を検証する仲間を募集したところ、何人か集まった中の1人がマツケンでした。それまでの経緯と絶対にこの1年で切り返したいことを説明して、「その活動、一緒にやらない?」、「やる」ということに。彼が大学3年生の時でした。それからのつき合いです。

― マツケンさんのやりたいこととマッチしていたのですかね。

そうですね。本人に聞いてみないと分からないところはありますけど、自分もマツケンもお客さんに育てられたという感覚はあります。いろいろな欲求や思い、健全な野望はあるんですが、やっぱり、必然性という言葉に戻っちゃうんですけど、地域の方が目の前で喜んでくださるのを見ると、軸が生まれるんですよね。それで、もっとこの現場を増やしたいとなると、やるべきことが絞り込まれるというサイクルです。自分たちの欲求のためだけだったら空中分解していたかもしれないですが、生活者の皆さんの喜び、それから担い手の喜びをどう増やせるかの議論に集中できたので、お互いに苦楽を共にしながら、一緒に成長し合えているのかなと思いますね。

― 0 から 1 を生み出すということは、モデルケースがないなので、全ては話し合いのもとに。

言葉にするとかっこいいんですけど、やると超大変なんです。「何、この結果?」みたいなものばかりで。ただ、マツケンが半分バックオフィス側になって、新しい仲間がどんどん活躍し始めて、来年の4月から第2の新入社員チームが誕生します。御用聞きキャリア何年目の、正社員1年目みたいな。自分たちはまだまだ規模が小さいので、もっと普遍的なものにするには、さらに頑張らないといけないので、気合を入れています。
そんななか、うれしいことが2つありました。介護業界を目指して御用聞きをスタートした学生さんが、介護業界を御用聞きを通じて見ることができて「あ、すてきな担い手さんたちがいる」、「あ、生活者さんが喜んでいる」と言っては介護施設や介護事業所の説明会に行ったり、夜間のファミレスのアルバイトを訪問介護に切り替えたり、介護の資格を取れた人が生まれたというのが1つ。
2つ目は、「施設内御用聞き」といって、有料老人ホームでの困りごとを御用聞きの担い手が引き受けているんですが、それを導入していただいている施設さんが、学生さん向けの合同説明会に参加されたんですって。その説明会に来た学生さんから、「法人名に三幸福祉会って書いてありますけど、御用聞きの三幸さんですか」と、質問が来たそうです。少しずつですが、介護を全く知らなかった人たちが、御用聞きを通じて業界に入っていくようになっているのは、すごくうれしいですね。
奇をてらったことやオシャレなこととは別軸で、人が輝いている現場に興味を持つ学生さんを増やしていきたいと思います。これは介護業界に限らずですね。

カラーとモノクロ

― 介護施設や地域包括支援センターのほかにも、訪問看護ステーションや訪問介護などとも連携されるのですか。

はい。自分たちは介護保険などの制度外の部分を担うことが多いので。最近増えているのは、介護認定は取れたものの、ヘルパーさんが入れないいわゆる「片付けられないお部屋」の整理ですね。生活環境改善の領域です。非常に増えているので、積極的にやらせていただいています。
ただ、その時に気を付けているのは「生活者を利用者にしちゃいけない」ということです。カラーだった家の中をモノクロにすれば、確かにどのヘルパーさんも入りやすいかもしれないですが、その方の人生の色がなくなっちゃうんです。せっかくご縁があって私たちが現場に入るからには生活をしてきた色を残したいんです。その方の歴史だったり、楽しさだったり、アイデンティティーをきちんと引き継ぐことをすごく大事にしてますね。

― サービスを利用される方というだけではなく、バックグラウンドがある上で、地域で生活をされている方として捉えているのですね。

そうですね。
自分、一卵性の双子でして、もう1匹同じ遺伝子のがいるんです。昔、双子の研究をやっている大学で2時間1万円のアルバイトをしたことがあるんですが、その時、記号が書かれた名札を貼られて、ものすごく違和感を覚えまして。それって、途端に自分がモノクロになったような気がしたからだと思うんです。
寝たきりの方の部屋の中に介護用品が積まれているんですが、その方に聞くと、頭の中でどこに何があるのか覚えているんですよ。空気感で物が出入りしているのがわかるんです。その人らしさが残っているかどうかって、心の元気を左右する問題で、「エビデンスは?」と言われたら、「まだわかりません」なんですが、間違いなくそこには心の元気があると、自分たちは現場を通じて体感しています。カラーのある、モノクロではない生活者さんのお手伝いをする場を増やしていきたいんです。
まっさらにすればヘルパーさんも動きやすいけど、「いやいや、待って」と。忙しいという理由でまっさらを選ぶのであれば、自分たちはその忙しいの量を減らすサポートをするんで、カラーを残したい。忙しいから仕方ないのではなくて、連携を取りながら忙しさが減る努力をしていって、最終的に白黒で死を迎えるのか、彩りのある死を迎えるのか選ぶ権利は、ご本人あると思っていますので。

― そういうサービスが地域にあることを知っているか、知らないかでは雲泥の差なので、口コミとテレビ出演は強いですね。

今も全国区のあるテレビ局が1週間半、密着で付いてくださっていて、8月初旬に放送予定なんですけれども、ありがたいですね。介護する側の息子さん娘さん世代とご本人たち世代、その関係者の方からも共感できると言っていただいて。多世代に関心が持てる内容だから、視聴率が高いそうです。
反面、自分たちが常に意識しているのは、全うなことを頑張ってやっているから、皆さんによく見ていただけるのであって、ちょっとでも勘違いしたり、踏み外して逆回転がかかれば、御用聞きの存在場所はなくなるということです。もうインターネットの事業で1億何千万すって、しこたま失敗しているんで。気引き締めてもっと頑張ってかないといけないと思っています。

最前線の人たちと楽しみたい

これからの御用聞きとしては、やることが2つあります。広げることと深めること。
まず、「広げる」については、東京、名古屋、大阪を中心に、2025年までには全国の8割ぐらいの場所で、いろいろな団体さまと連携を取りながら進めていく作業です。
それから「深める」については、今は学生中心の担い手ですけれども、2019年の年末からは、一部の地域で、元気な年配の方々のお手伝いチームの実験を始めます。あとソーシャルワーカー(介護福祉士)さんの兼業モデルを積極的に進めるつもりです。ソーシャルワーカーさんには具体的な活躍の場や可能性がまだまだあると思っていまして。ソーシャルワーカーさんが、利用者さんへの自費サービスという彩りを何らかの制度とのバランスをみながら提供することは、既存の学生チームの学びにもなりますし、世の中での価値として可視化できる部分があると思っています。
自分たちは、現場の最前線で活躍されているケアワーカーさん、ソーシャルワーカーさん、お医者さん、看護師さんなど、皆さん尊敬していますし、連携していきたいです。初期の御用聞きは「自費ですが、もしよかったら」という姿勢でしたが、最近は「自費だからこそ」と感じられるようになったんで、最前線で活躍されている方々と、胸張って対等に情報交換やコミュニケーションができればいいなって。皆さん、かっこいいですよね。
ただ、なぜかは分かりませんが、一部、そうではない事象が起こっていて、それがイメージとしてまん延していますね。なので、現場で活躍されているかっこいい方々に光が当たって「いや、この業界、悪くないよ。むしろ、現場って楽しいよね」という共通項で自分たちも連携が取れたらいいなと思っています。

名刺を破られた!

― 現在は東京で活躍されていますが、生まれはどちらですか。

東京です。でも、父方の祖父が福島で生まれ育ったので、小さいころは休みとなるとずっと福島に行っていました。郷土って言われると、福島が頭の中に浮かびますね。
自分は9年間、不動産の仲介業として上場企業などを相手にするなか、足元をすくわれないように余計なことは話さず、端的な発言に終始していました。
なので、御用聞きを始めたばかりのころは、何話していいかわかんなかったんですね。ケアマネさんたちに話し掛けても、声が通らないせいか無視されて。どうしようかなって思った時に、小さなころ、福島で祖父と散歩しながら、玄関が開いている近所の家に「こんちはー」って言いながら入って、スイカ食べて「、またね」という場面をなぜか思い出して、この感じかなと。そう思いつつ、ケアマネさんたちが話しているのをはじっこでずっと聞き耳立てて勉強しました。そうしたら、3カ月ぐらいで無視されなくなったんです。
昔はこういうしゃべり方じゃなかったんです。もっとトゲトゲ、サバサバしていましたね。

― 無視されても心が折れなかったのですか。

めっちゃ折れましたね(笑)。
初めて店舗を出したとき、地区の自治会長さんに、個室で2人だけの空間で、目の前で名刺を破られました。「振り込め詐欺だろ」、「おまえみたいなチャラチャラしたのはもう来なくていいから」と。それぐらいひどかったんです、話し方が。
でもその方は結局、すごく応援してくださるようになって。「彼がいるからここは良くなってる」と言ってくださったり。その関係性をつくるには、やっぱり時間が必要だったことも勉強になりました。その方にとっては、地域を守るための行動だったんだと思いますね。名刺破んなくても……とは思いましたけど(笑)。

お金じゃない時代の到来

― それでも諦めなかったのはなぜですか。

1ミリぐらいのほんのちょっとのプライドが残っていたのと、現場の生活者さんたちに喜んでいただいたことで救われたからですね。それが原動力でした。
さっき出てきた「つながり」の前提にあるのが、同じ空気感や温度感だと思うんです。そこから、いかに相手を知るか、自分が何者かを知ることが肝です。うちには商品を売る人は必要ありません。商売も大事ですけど、商売だけであればそれなりの伝え方があるので。そうではなく、今の世の中に必要とされている「喜び」みたいなものを楽しく提供する人を求めています。
新しい時代が来ますよ。業務効率やコスト削減などはとことん追求して、伸ばすところを徹底的に伸ばすというものすごく明確なメリハリと、主軸がお金じゃなくなってくる時代です。
看護師さんや介護福祉士さんにとっては、これからもっと面白い時代になるんじゃないかと思っています。同じことを繰り返せないってことは、新しい何かを生み出すきっかけなんで。少子高齢化で悲観している人もいますが、自分はポジティブ志向でいますよ。
御用聞きとしても、尊敬し合えて、彩りがあって、すてきって言い合える環境を一緒につくっていきたいと思います。

[2019年 7 月]

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