人事の地図

インタビュー

「雑誌 × web」クロスインタビュー

Episode6

人事と労組の関係はいい意味での「腐れ縁」

編集部

これまで先生の研究テーマである労働組合について、クミジョを主軸にお話を聞いてきました。今回の時事探訪でも人事部が登場しますが、先生が研究をされている中で、人事と労働組合の関係はどのようなものとして捉えていらっしゃるのでしょうか。

本田氏

人事と労働組合の関係はいい意味での「腐れ縁」だと思います。何回もお話をしましたが、わが国の主流は企業別組合で、社員イコール労働者です。普通は分離して然るべきものが、わが社のことをわが社の中で、わが社の組合が決めているわけだから、腐れ縁ですよね。企業の一室の中に労働組合があったりして、シーズンになってくると交渉をして、会社と労働組合でいろいろなことを決めていく。腐れ縁といいつつも面白味のあるパートナー同士。それが人事と労組です。
人事と労組の2つがつながれば、いろいろなことができますし、いろいろなことしていかなくてはいけないと思います。
日本の企業は、思っている以上に他社がどのような取組みをしているのか気になるようで、御社(産労総合研究所)の雑誌を見ながら、読者である人事部の方々は考えるわけですよね(笑)。自社の戦略にあわせて人事制度の設計や施策を導入していくなかで、わが社独自の制度を組み立てることはいくらでもできる状態にあります。ここに面白味があって、それがうまくいけば労働者のためになるし、そうじゃなければ労働者のためにならない。

編集部

制度を導入するうえで、企業側の思惑がハマらず、現場で働く従業員の実態とズレが生じていることはよく聞かれますよね。

本田氏

実際、結構ズレているんですよね。濱口先生※9が言うように、ちょっとしたジョブ型を導入すると、矛盾が生じてどうにもならなくなってしまったり、あるいは成果主義のときもそうですが、本当に労働者のことがわかっているかという視点で見れば、すごくズレています。

労働組合がそのズレを正しながら、本当の正解を示して、うまく企業と手を結べれば、ものすごくいい関係になり、いい流れができると思います。その延長線上で何か物事が進んだときは、正解はジョブ型じゃないかもしれないですよね。今は二項対立になっていて、二択で考えられていますが、これはおかしな議論になっています。本来は日本に根付いたメンバーシップ型をどう変形するかっていうことではないかなと思うんですけどね。

※9濱口先生:労働政策研究・研修機構労働政策研究所長の濱口 桂一郎氏。諸外国の雇用システムと日本の雇用システムを対比するために「ジョブ型」「メンバーシップ型」という言葉を提唱したが、日本ではしばしば間違った解釈や使われ方をされている。

編集部

企業と労働組合でコミュニケーションをとって、労使で自分たちの新しいスタイルを構築していくほうが健全ということでしょうか。

本田氏

はい。それがうまく回ってほしいので、クミジョを研究し、労働組合の足元ではこんな問題があるということを伝えていきたいという気持ちがあります。
そういったことを大学でも教えているので、卒業して企業の人事部に配属された教え子から、やっぱり人事は面白いですよ、先生の言う通りでしたという声を聞きますね。それから最近、労使関係論を教えていると、学生の中にクミジョになりたいという人がたくさん出てきました。先生の話を聞いていると、「何とかせにゃいかん」と言って(笑)。思いは強いです。

編集部

先生の元で次世代人事やクミジョの芽が育っていますね!

本田氏

クミジョ予備軍を作っているみたいです。やっつけてやる! なんて言ってるんですよ、男を(笑)。それはそれで大変なんだけど、「労働組合は嫌な世界みたいだからちょっと私には無理」ってならないで、クミジョになりたいという学生が出てきたのは、頼もしいですよね。

(2022年10月21日収録)

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