インタビュー
「雑誌 × web」クロスインタビュー
Interview 4
〜武庫川女子大学 経営学部教授 本田一成〜
- Episode 1 私はスーパーマン
- Episode 2 「私の捉える労働問題の根幹には「人」があります」
- Episode 3 30年前からクミジョは不満だらけ。そこに問題を感じたのでクミジョに焦点をあてました
- Episode 4 女性組合員全部いなくなればリアル組織率は1%になってしまいます
- Episode 5 クミジョが悪いわけではない。とことんクミダンが悪い
- Episode 6 クミジョになりたいという人がたくさん出てきました
Episode5
「詰み」もクミジョ活躍の弊害
編集部
それでは今後、クミジョの活躍が進展していくためには、どんなことが必要になってくるのでしょうか。
本田氏
まずは男性を改造しないといけないと思います。これは女性側の問題ではありません。クミダンと対峙しているクミジョの皆さんの苦労が解消されていかなくては、問題の解決にはならない。男女の役割分業とか、組合の中にある好意的性差別のことです。組合はよくアンコンシャスバイアスという言葉を使いますが、決して無意識で片付く話ではないと思います。意識下にある「女性だからかわいそう」といった好意的性差別をなくしていかなくてはなりません。
もう一つはクミジョを増やしていくことです。数の論理で言えば、やっぱりある程度まで人数を増やさないと力はもてません。単組の場合だと、だいたいそれぞれの組織にクミジョは0人から2人なんですよね
クミジョの皆さんは、1人のときと2人のときだと全然違うと言います。1人のときだと「あなたの意見でしょ」となるけど、でも2人になったら「女性の意見やね」となる。これが大きいんですよ。3人だったらもう動き出します。「3人ともそんなこと言っているなら大変な問題だぞ」と。
クミジョとクミダンの構成人数を半々にするべきという意見もあるのですが、半々にする前に解決すべき問題だとは思っています。4割ぐらいとか、あるいは労働組合はデータから見直して、「目指して3割」としていますが、そういった割合です。
編集部
好意的性差別の問題と、クミジョの人数の底上げ、両方の問題はリンクしていますね。データから見直しを行っているとのことですが、労働組合の中では、組織内の男女に関する調査もされているんですね。
本田氏
ジェンダー主流化といわれますが、労働組合も男女のデータをきちんと出して、女性の取り組みを行ったら、その取り組みが効果的であったかどうか検証するという動きになっています。
私が一番欲しいデータは、組合費のデータです。女性が払った組合費と男性が払った組合費は実額でいくらなのか、ということです。よく女性の組合比率に応じた組合役員の比率が求められますが、私は経営学者なので金目の組合費に注目します。男性組合員は組合費をたくさん払っていますが、管理職になったら組合を抜けますので、払っている期間は短いですよね。女性は非正規も多いのですが、組合費を収める期間は男性に比べて長いです。では、一定の期間でどれだけどっちが納めているのかといえば、女性組合員比率じゃ収まらない話になるのかもしれない。
大事な組合費が男女でどれぐらいのバランスになっているのか。男性の納めた組合費が少ないのに、男性のほうが使っていたらそれはおかしな話ですよね。もちろん、データをとってみたら、意外に女性の組合費が少なかった、という諸刃の剣になりかねない話ではあるのですが、こういった議論はいまのところありません。私はデータとしてオープンにする必要があると思っています。
編集部
男女別にみた組合費の割合と、組合費の使途の割合ですか。組合費っていくらぐらいなんだろう? といった水準のデータについては弊社の雑誌でも取り扱うことはありますが、こういった着眼点はなかったですね。たしかにお金の話ですし、大切な論点ですね。
本田氏
組合費で運営している組織なので、ここはハッキリさせるべきです。あとはケア機能です。多くのクミジョはたくさんのストレスを抱えています。メンタルに不調をきたした方もたくさん知っています。そりゃそうですよね。すごいマイノリティで、「女のくせに」と言われて、「崖」もあれば「壁」もたくさんある。それでも一生懸命やっていたら、詰まれてしまう。
編集部
「詰まれてしまう」とはいったいどういうことでしょうか。
本田氏
クミジョの「崖」「壁」のもう一つ、私は「詰み」と呼んでいますが、どういう状態かといえば、退任したときに行き場所がないということです。全部、クミダンのほうが天下り先やいろいろなものを押さえてしまうので、クミジョは詰んだ状態にされてしまう。「崖」「壁」「詰み」は不安を呼びますし、そういったことで心の病を患うクミジョが多くいます。こういった実態があるので、クミジョセンターなりクミジョ保健室といった、悩んでいる人をケアする機能も必要だと思います。
それから、労働組合は伝統芸能なので、業務的にもいろいろなノウハウが必要です(笑)。それがわからないとか、教えてくれないといったときに、クミジョのOGたちがきちんと相談に乗ってくれるような体制を整備することも必要かもしれませんね。情報がわかれば動けるんだけど、情報をあげないというイジメもありますから。もう少しクミジョが増えるまでは、そういったケアが必要じゃないかと思います。まあクミダンは「俺たちだって同じだ」と反対しますけど、同じなわけはなく、クミジョはもっとつらい目にあっていますよ。
クミジョとクミダンで問題意識の度合いは二極化している
編集部
お話を聞いていて、労働組合の中でそういった問題が起きていることに驚きました。記事の中でも「会社も労組もオトコ社会だが、会社のほうがマシ」というクミジョを取り巻く環境を表す言葉が出てきましたが、こういったところにつながってくるのですね。
先ほど、クミジョの方々は不満だらけ、とおっしゃっていましたが、先生がクミジョにスポットをあてる前も不満の声はあがっていたのでしょうか。
本田氏
聞かれていなかったからなかったことにされているだけで、クミジョたちの不満はずっとあったでしょうね。本人たちの感触からすると、私たちの犠牲の上に組合は生きながらえているのだという思いがあります。何かあっても聞いてもらえるところもないし、たった1人だとクミダンに「何を言ってるの」という話になってしまう。
そもそも労働組合をつくる意味は、たった1人だと会社に「何を言ってるの」と言われてしまうから、労働者でまとまって組織化するところにある。それなのに労働組合の中ではたった1人のクミジョが同じように悩んでいるのだから、ちょっと不可思議なことが起きています。
それまでは、そんな不満はなかったことにされてきたし、あってはいけないことになっていました。それが、私の研究でクミジョのたまった不満が詳らかになってしまった。クミダンからは、これから男女で「ガンバロー」っていうときに、先生、何言うんですか、みたいに言われますよ(笑)。でも、苦情なんかも言うところがないんですよね。聞いてもらえないから。だから私がインタビューをするとクミジョの皆さんは喜々として応じてくれるし、今度こういう人紹介してあげるといった感じでつながっていく。
アンケート調査に基づいて『クミジョ白書』を書いてから、現段階でクミジョへのインタビューは40人超になりました。最初に、とあるクミジョの方にインタビューをして、その後、順繰りに紹介をしていただくスタイルでやっています。その40人は私が全精力をかけてインタビューしているので、いろいろことを語ってくれますが、ほとんどはクミダンの悪口です(笑)。
編集部
ほとんど悪口ですか。よっぽど不満がたまっているんですね。
本田氏
はい。でも、それはクミジョが悪いわけじゃないです。とことんクミダンが悪いと私は思っています。ただ、これを言ってもあまりクミダンには響かないかもしれません。それはいろいろな講演会で登壇していてもわかります。だいたい1時間半くらい講演で話をしますが、ほとんどのクミダンは眠そうですし、本当に寝ている人もいる。一方で、クミジョのほうは、首がとれるんじゃないかっていうくらいずっと頷いています。
それを見てもわかる通り、状況は深刻です。クミダンのほうはわかっていなくて鈍い。クミジョはわかっていて鋭い。つまり二極化しています。
編集部
先ほど、まずはクミダンのほうを改造しなくてはならないというお話がでましたが、クミジョが活躍の幅を広げていくためには、この状況は深刻ですね。
本田氏
はい。もちろん中にはわかるクミダンもいますよ。ただ非常に少ないですけどね。わかっているふりをしている人は多いのですが。
クミジョからのリアルな意見を紹介すると、例えば、労働組合も男女平等宣言を掲げているけど、ホームページを開くとトップの人たちがずらっと並んでいて、それを見ただけでも男だけですよね。それがこれからは男女平等をやっていこうって言ってけれど、あれは嘘だと(笑)。クミダンの皆さんは全然なってないと。
また、例えば労働組合は沖縄問題に熱心に取り組んでいますが、ただ沖縄の人たちの苦しみをわかっているのかどうか疑問だというのはクミジョの皆さんの一致した意見です。沖縄の人たちがされたことがわかるのであれば、女性がされていることもわかるはずなのに、自分たちの足元は全然じゃないか、など、インタビューをするなかで、クミジョのリアルな声がいっぱいあがっています。