人事の地図

インタビュー

「雑誌 × web」クロスインタビュー

Episode4

法律以上の制度を作る時の考え方を伝えたい

編集部

さて、『育児・介護休業のすべて』、ぜひ手に取っていただきたいと思いますが、ちょうど弊誌も『人事実務』から『人事の地図』にリニューアルするタイミングでしたので、いろんな人に登場していただく時事探訪のコーナーで連動して何か書きませんか? とお話しさせていただきました。
これが、『人事の地図』11月号の「アップデートの進む育児・介護休業に対応しよう」ですね。
こちらはどういうコンセプトなんでしょうか。

多田氏

そうですね、書籍と直接連動はしていませんが、その発展系という感じになります。

編集部

(育児・介護休業の)「すべて」の書籍があった上で、それを補完するような形ですか?

多田氏

育児や介護って、法律を遵守する制度だけでは、従業員の生活の補填がすべてできなくて、不足している部分は各社が自分たちでオリジナルな制度をプラスα考えていらっしゃるんですよね。
ですので、法律以上の制度を作る時の考え方というのを伝えたいと思いました。
「育児・介護休業のすべて」の……何でしょう、お兄さん版みたいな(笑)。

編集部

お兄さん(笑)。そもそも育児や介護の制度がなぜ大事なのかから始まって、その上で具体的にこういうケースではどうしよう、という施策例を紹介する構成ですよね。これは確かにすごくわかりやすいなと思いました。

多田氏

特に介護が顕著なんですが、人によってケースが様々なんですよね。
例えばご自身やパートナーの方、あるいはご兄弟みんなで介護をされていて、水曜日の午前中だけ自分が当番で病院に連れて行かなきゃいけない、とか。

そうすると毎週水曜日の午前中はお休みするわけですけど、制度が柔軟に整備されていないと、「年休を使います」で対応されて、でもそのうち有給もなくなっちゃって欠勤になってしまうんですね。
その結果、「もう休めないから辞めます」とか、「正社員からパートになります」という話がよくあるんです。

それって変ですよね。
例えば「今年1年間に関してはいわゆる短時間正社員に一時的に転換できる」など、柔軟な制度を作っていかないと、先ほどお話したように従業員の方が辞めるしかない、と考えてしまいます。ですので、具体的なケースを基にどういう仕組みを入れると補えるのかを解説する構成にしました。

編集部

これは完全に内輪話ですけれども、どうしても雑誌ってページ数に限界があるわけです。育児と介護両方を盛り込むとなかなかのボリュームになりますから、この記事の打ち合わせの時、編集部の提案として、例えば育児だけにしますか、というお話もしたんですけれども、多田さんはぜひどちらも入れたいと。
そこにはこういう熱意があったわけで、最終的にでは「両方行きましょう!」とさせていただきました(笑)。

社員が言い出しづらいからこそ「会社は準備してるよ」と伝える

多田氏

本当に「隠れ介護」っていう言葉があるぐらいで、「実は介護しています」という従業員って、人事の方がキャッチアップしている情報の倍以上いらっしゃる可能性が高いです。
そうした方々が自分が介護をしていることを言い出しにくくなっていたり、今は介護をしている人が会社にいなかったとしても、事前にいろんな制度を準備をしておくだけで、従業員の安心度が全然違うと思いますので、そこをお伝えしたかったんです。

編集部

隠れ介護……そうですね、会社に言えないんだって人ももちろんいますし、自分では介護だと思ってないけど、他人から見たら「それ介護だよ」みたいなこともありますよね。

ちょっと違うかもしれませんけど、例えばスーパーに買い物に行かなきゃいけないけど、重いものとか危なっかしいから休みの日はいつも連れて行ってるなんて場合も、厳密にいうと介護と言えるかもしれません。

多田氏

ですよね。これがさらに平日も付いていかなきゃいけないとか、本人はもう無理だから自分が買い物しなきゃいけなくなった、というのもありえます。「そうなったらどうしよう」とか、しまいには「いつか会社辞めることになるのかな」とか、漠然とした不安を持ちながら仕事をするのはやはり健全じゃないと思います。

編集部

介護の話をしていて改めて思ったんですが、正直世間的には育児ってすごくクローズアップされるじゃないですか。でも介護はなかなか取り上げられないところがありますよね。

多田氏

そうですね、なかなか言いにくいですよね。
でも、だからこそ会社はちゃんと働き方を準備してるよというメッセージを事前に表明していくことで、安心を与えたり、離職者が出ないことを目指していけると思います。

編集部

実際、ご相談として介護のお話って増えていらっしゃるんですか?

多田氏

「実は社内で公式には言っていないが、A課長は親の介護をしているらしいという噂があって……」みたいな話が人事に入ってきて、会社としては安心してもらえるような制度を準備しておきたいという相談はありますね。

編集部

ああ! 介護は個人情報が強く絡んできますものね。だからなかなか表に出てこなくて、
整備もなかなか進まない。

多田氏

そうなんです。だから、困ったときに恒常的に使えて、なるべく多様な取り扱いができる柔軟な制度を準備しておくことが必要なんじゃないかなって。

例えば極端な例ですけれども、カムバック制度というのも、一つの手じゃないかと思っています。

仮に一時的に会社を辞めたとしても、そのご事情がなくなったら戻ってこれますよ(再雇用)というような。本当は辞めてほしくないけれども、会社としてそういった事情も受け入れるよというメッセージのある制度も検討の余地があると思います。

編集部

なるほど。多田さんの原稿をいただく時にいつも思うんですが、「この制度がいいよ」というだけではなくて、「この場合はこれがいいです、こっちの場合はこうしたらいいでしょう」と、記事の中で選択肢をいくつか出していただけるんですよね。

多田氏

漠然と概要だけを語るよりも、やっぱりどういうふうに活用していくんだろう、どういうケースが起こりうるんだろうって示してあげると、イメージが湧きますから。

普段の相談業務の中でも意識していることなのですが、イメージが湧かないと人ってうまく説明ができないんですよね。人事の方が従業員の皆さんに想いを持って伝えるってすごく重要だと思うので、その説明のお手伝いができるように、なるべく具体的にお話するようにしています。

イメージが具体的であるほど、「会社のみんなに説明できるぞ」とか、「辞めなくてもいいんだ」とか、「戻ってこれるんだ、安心だな」って、それぞれの立場で自分の生活とリンクさせて会社の制度が実感できますよね。

編集部

そういう意味でもやっぱり社会保険労務士さんって、人事をいろいろなところで支えていただける方々じゃないかと思いますね。

多田氏

そうですね。社会保険労務士側としても自分が役に立っているという実感がありますので……共感型、あるいは共鳴型の仕事というんでしょうかね、このお仕事って。

それに何でも社内だけで決める時代じゃなくなってるんじゃないかと思います。ノウハウだったものがそうではなくなる、変わるまでのスピードが早くなっているので、社内だけでノウハウを作って対応して、と対応していくのは、もう難しいと思ってます。

編集部

いま、共感・共鳴っておっしゃってましたけれども、多田さんはやはり人に頼ってもらうのが好きなタイプですか?

多田氏

好きです大好きです! スタッフに頼られるのも好きですし。「頼って!頼って!」と思いながらオフィスの中を回ってます(笑)。

編集部

目に浮かびますね、それ(笑)。それはもう天職なんじゃないですか?

多田氏

そう思ってます! 一個一個お受けする相談全てが違う事案で、状況も全然違いますから、そこに向き合う毎日が楽しいですね。

編集部

ただ楽しい面白い、じゃなくて、「毎日」楽しいですか! 僕も編集の仕事に対してそう思ってるかな、とちょっと思っちゃいました(笑)
本日はありがとうございました。

(2022年10月24日収録)

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