人事の地図

インタビュー

「雑誌 × web」クロスインタビュー

Episode1

多様な働き方を考えた提案を

編集部

 オフィスにお邪魔するのは2回目ですが、白を基調にした素敵なオフィスですよね。曲線になっている壁も印象的です。

さて、多田さんには弊社の『労務事情』や『人事の地図』での執筆や、セミナーにも登壇いただいています。10月には書籍『育児・介護休業のすべて』も刊行となりました。

そこで、人事の地図の誌面でも関連した記事をいかがですかという事で、11月号に『アップデートの進む育児・介護休業に対応しよう』を執筆していただきました。

本日はこの記事や書籍を掘り下げることと、多田さんご自身についてお話しいただければと思います。よろしくお願いします。

多田氏

はい、よろしくお願いします。

編集部

まずは多田さんご自身のことからお話しいただきたいんですが、そもそも社会保険労務士事務所を立ち上げて、今までどういったお仕事をされてきたのか、多田さんってどんな人なのかなっていうところを教えていただきたいと思います。

多田氏

ありがとうございます。一般的に社会保険労務士というと、社会保険や給与計算の実務とか、助成金申請の仕事をしてる先生というイメージが強いと思います。当法人の場合は、労務相談部門が契約のメインになっています。その上で信頼を頂き、社会保険業務のご依頼をいただくケースが多いです。現在240社ほどのクライアントの皆様とお仕事をしていまして、私以外にも30名のスタッフで仕事をしています。

それから、会社の名前に「国際」とありますように、海外進出をしている企業への海外労務サービスも特徴です。ご想像の通り、グローバル化に伴い海外進出を検討している、実際に進出している企業はかなり多いです。

しかし、「相談をしたいんだけど、なかなか対応してくれる社会保険労務士先生がいない」というのが実態です。当法人ですと、通常の労務相談は当然として、海外赴任者がいるときの相談にも対応できますので、それを理由に弊社との顧問契約を選択していただいている企業が多くあります。

編集部

事務所を立ち上げたときから、国際関係のお仕事もされるというおつもりだったんですか?

多田氏

いえ、今の事務所を作って20年になりますが、20年前はまだ社会保険労務士が就業規則のお手伝いをするってことすら珍しいぐらいの時代でしたので、海外労務相談なんて話は全然ありませんでした。
でも、時代の変化とともに社会保険労務士って身近な労務相談に対応してくれる、ということが認知されてきて、海外赴任者の相談も聞いてくださいという話も出てくるようになったんですよね。具体的には、海外赴任規程の作成のアドバイス業務です。当法人では大体10年前ぐらいから海外案件が増えてきたように記憶しています。

また、今後は企業も従業員のワークライフバランスを検討していく重要性が増してくるであろうと考えていまして「ワークライフバランス研究所」を立ち上げていました。「働き方改革」というキーワードが政府から出る前から多様な働き方について研究していたんです。その成果か、過去からの実績を踏まえて多様な働き方に関する制度設計をクライアントに提案することができるのも強みです。

在宅勤務も、今はコロナ禍もあって普通になってきましたが、コロナの前から「在宅勤務規定を設けてはどうですか?」と提案していました。お打合せでは、多様な働き方を導入したことで実際に起こるメリット・デメリット・エラーも含め、導入前に事前に検討しておく事項などの人事担当者のみでは網羅できないノウハウを持っているというのも強みでしょうか。

編集部

元々そういうところに関心があったんですか?

多田氏

ええ、女性の働き方に非常に関心を持っています。恩師の藤村博之教授(法政大学経営大学院イノベーション・マネジメント研究科教授)の影響でもあります。授業の中で藤村教授が「日本ってもったいないよね」っていつも仰ってたんです。
新卒から65歳退職までと仮定して同じ会社に40年以上在籍しますよね。当然働いてる間に育児の期間も出てきますけれど、まったく仕事ができない期間って2年~3年ぐらいですよね。

「約40年の間に育児期間(介護もしかり)以外は通常の仕事ができるにも関わらず、一昔前の日本の会社は『退職しなきゃ』とか、『もう仕事できない』みたいなそういう極論になりがちだった。お金をかけて人材を採用して育ててきて、いざこれから活躍してもらうよという時期に非常にもったいない話だ。働き方というのをもっと柔軟に考えていかないと日本は強くなれないよね」
ということを講義の中で仰っていて、私も心からそうだなと思っていたんです。

では、私ができることって何かなと考えてみると、やはりライフステージに併せて選択できる多様な働き方、柔軟な働き方をきちんと制度に落として、会社の中で運用ができるようなところまで持っていくことかなと思いワークライフバランス研究所を立ち上げたんです。それが時代にも合っていた、合ってきたんだと思っています。

「社会保険労務士に相談する範囲は広いです」

編集部

確かにそうですね。
しかし、さっき多田さんも仰っていましたが、言い方悪いんですけど社会保険労務士さんっていわゆる事務屋というか、「社会保険と給与計算の人」みたいなイメージを持っている人事の人がまだまだ多い気がします。

※社会保険労務士(社会保険労務士)とは……
一般的に「労働・社会保険の問題の専門家として、(1)書類等の作成代行、(2)書類等の提出代行、(3)個別労働関係紛争の解決手続(調停、あっせん等)の代理、(4)労務管理や労働保険・社会保険に関する相談等を行う」者を言う(厚生労働省ホームページより)。社会保険労務士法に基づいた国家資格。
なお、上記(3)で挙げられている紛争解決手続代理業務を行う場合は、研修を修了し試験に合格する必要があり、「特定社会保険労務士」と呼ばれる。

多田氏

勿論、事務代行も重要な業務の1つであることは間違いありません。社会保険業務を法律を理解して対応できるのは社会保険労務士のみですので。ただ、それのみならず、企業の労務管理について幅広く相談にのれるのも社会保険労務士なんです。例えば、在宅勤務制度を導入したい場合、企業は誰に相談するか?考えてみると、
税理士の先生に相談しても、「働き方改革ですか。いいですね~」で終わっちゃいますし、弁護士の先生は「そこは弁護士の領域じゃない。企業内で検討してみてください。」となり、労務管理という視点で相談にのれるのはやはり社会保険労務士なんですよね。例えば労働基準監督署であっても在宅勤務制度の構築は、法に触れるとかそういう話じゃなければ管轄外ですので。
日々の労務管理のご相談、この分野は我々社会保険労務士が企業から回答を求められるメインの業務になるのではないかなと考えているんです。

編集部

プロフェッショナルだからこそ領域の問題になるわけですね。ちなみに社会保険労務士さんって、今までお付き合いがなかった人事担当者からすると、どういう相談までならしてもOKなのかわからない、って結構多いんじゃないかと思うんですよ。そういう人たちに対しては、社会保険労務士さんってどんなひとだって伝えればいいんでしょう?

多田氏

例えば弁護士さんへの相談内容ってわかりやすいですよね。裁判とか不利益変更(笑)。
私がよくクライアントの皆様に言っているのは、「裁判と不利益変更以外は社労士です」と。

例えば、「休職者が増えてきました。欠勤から休職、復職までのルールと手続を明確にするにはどうしたらいいんでしょうか」など、このような会社内でのルール構築は、社会保険労務士の分野になりますよね。あとはそうですね、「懲戒事案を対応するのが初めてです。懲戒処分までの手順がわからないので教えてほしい」というふうに、人事の方って日々社内でいろいろな事が起きていて、比較的急ぎの案件も多く、悩むことがたくさんありますよね。
このような運用に関してはとりわけ裁判になるような話でもないので、弁護士の先生に聞くような内容でもないですよね。

「じゃあ誰に聞くの?」って、また先ほどと同じところに戻って、知見を持っている専門家である社会保険労務士に相談しましょう、となるわけです。
社会保険労務士は、クライアントとコミュニケーションを本当に密に取ってお応えするお仕事ですから、まずは抱えている労務に関する悩み事を迅速に相談してくれるといいなと思います。

Episode 2 へつづく