育成は受け入れ前の準備も必須
人を育てるというと、そのノウハウにばかり目がいきます。しかし、職場メンバーが受け入れのために準備をしておくことも案外大切です。
職場全体で育てる意識を持つこと
そもそも新社会人を育成するということは、仕事のやり方だけでなく、挨拶から仕事の進め方など、さまざまな社会人としての基本行動を教えることも含まれています。したがって、担当者が1人ですべてを教えるのではなく、配属された職場全体で仕事から社会人の基本までを教えているという意識を念頭におく必要があるのです。
また、最近は適性を重視して、年齢や担当業務の違いがあっても育成を担う場合が出てきています。つまり、育成担当者には、指導の方向性や実務は誰が指導するのかを調整する「新人育成チームリーダー」の役割要素がますます高まっているといえます。
育成に役立つスキルを身につけること
自律型社員育成は「ティーチング+コーチング」の手法を使った対話で進めます。そのためには、次の1~3の基本スキルを身につけておくと役立ちます。これはリーダーとして身につけておくべきコンピテンシーでもありますから、この際、確実に自分のものにされるとよいでしょう。
[1] 傾聴
まず、あなたの聴き方の癖を知るためにチェックリスト(図表1)をやってみてください。ここに挙げた項目は、すべてクリアすべき基本項目です。人は相手の話を聞いているようで案外聞いていないものです。例えば、(6)の質問肢にあるように、つい「話が長いなあ」、「取引先に電話しなくては……」といろいろな考えが浮かぶ経験をお持ちではないでしょうか。
また、(1)(8)をせずにパソコンの入力画面や書類に目を向けたまま答えている場面もよく見かけます。仕事中に声をかけられたら、まずいったん手を止めて相手の顔を見て聞くこと。この状態で新入社員が言葉で伝えられずにいる小さな変化もしっかり受け止めましょう。
[2] 承認
承認とは相手の存在を認めることを指します。「褒める」と同義語ではありません。「朝早く出勤しているね」、「入力が速くなったね」、「君の挨拶は気持ちいいね」といったように、その時の状況やあなたが感じたことをそのまま伝えます。こまめに伝えることそのものが承認になり、安心感を生みます。「良い」、「悪い」のジャッジをしないことが特徴です。
もちろん褒めてはいけないと言っているのではなく、褒めるべき時には褒めることも必要です。ただ、人間の行動特性として「褒められないと動かない」という行動づけがされることもありますので、承認を効果的に使うことをお勧めします。
[3] 質問
人は質問されると考えます。一度教えたことについて「どうしたらいいですか?」と聞いてきたら、「それはね……」と答える前にまず質問をします。5W2Hで始まる問いにして「どこから始めればいいだろう?」、「他にどんなやり方が考えられるかな?」と聞いてみましょう。相手は具体的に答える必要がありますから、いろいろと考えを巡らせます。常にイエスかノーかで迫られると息苦しくなりますが、相手に決断を迫る時や何かをはっきりさせるときには、Yes‐Noを問う質問が威力を発揮します。
また、失敗を重ねた時には原因を究明する質問に加えて、「どうすれば上手くいくかな?」、「これを習得するとその後の仕事のやり方はどう変化するかな?」といった未来の状態を聞く質問も効果的です。
育成担当の役目は答えの自動販売機のように聞かれたら何でも答えることではありません。これらの質問のスキルを身につけて、自らの持つ考える力を伸ばす可能性をつぶさないようにしましょう。