前年度と比較して教育予算が増加した企業は半数以上
人事労務分野の情報機関である産労総合研究所(代表・平盛之)は、このたび「2016年度(第40回)教育研修費用の実態調査」を実施しました。本調査は1976(昭和51)年より実施しており、今回で40回目となります。
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調査回答企業における教育研修費用総額は、2015年度の予算額5,548万円、実績額4,944万円、2016年度の予算額が5,786万円で、前回の2015年度調査と比較するといずれも増加していた。1人当たりの教育研修費用では、2015年度実績額が35,662円となり、前回調査に比べて約1,200円ダウンした。
また、4年ぶりに調査した「選抜型リーダー育成(経営幹部育成)制度」については、「導入している」、「導入を予定、または検討中である」企業を合わせると5割強。課題としては、「選抜が難しい(人選に課題がある)」などがあげられた。
主なポイント
(1)教育研修費用総額と従業員1人当たりの教育研修費用
- 教育研修費用総額の2015年度の予算額は5,548万円、実績額は4,944万円、2016年度の予算額は5,786万円で、前回調査と比較すると、いずれも増加。
- 従業員1人当たりの2015年度実績額は35,662円で、前回調査と比較して約1,200円減少。2016年度予算額は44,892円。
(2)教育予算の増減状況
- 教育予算の対前年比をみると、「増加した」とする企業が54.6%で半数を超えている。平均増加率は33.4%。
(3)各種教育研修の実施状況
- 「階層別研修」で実施率のトップは、例年どおり「新入社員教育」。次いで、「新入社員フォロー教育」、「初級管理者教育」。
- 「職種別・目的別研修」では、「OJT指導員教育」の実施率が49.1%で最も高い。前回実施率の高かった「メンタルヘルス・ハラスメント教育」、「CSR・コンプライアンス教育」は若干減少。
(4)選抜型リーダー育成制度の取組状況
- 選抜型リーダー育成制度を「導入している」企業は38.2%。「導入を予定、または検討中」は13.3%で、あわせて5割強だった。
- 課題・問題点としては、「選抜が難しい(人選に課題がある)」が48.1%で最も高い。
調査要領
上場企業および当社会員企業から任意に抽出した約3,000社に対して、2016年6月に調査票を郵送で依頼し、176社の回答を得た。
用語の定義について
本調査でいう「教育研修費用(総額)」とは、次に掲げる各費用の合計額である。
[1]正社員を対象とした自社主催研修の会場費・宿泊費・飲食費
[2]外部講師費
[3]教材費
[4]外部教育機関への研修委託費およびセミナー・講座参加費
[5]eラーニング・通信教育受講費
[6]公的資格取得援助費
[7]研修受講者・社内講師の日当・手当・交通費
[8]事務局費
[9]その他これら以外の教育研修に必要な費用
(ただし、研修受講者・教育スタッフの人件費は含まない)
ちなみに、厚生労働省が実施する「能力開発基本調査(企業調査)」では「教育訓練に支出した労働者1人当たり平均額」として、「Off-JTに支出した費用の1人当たり額」と「自己啓発支援に支出した費用の1人当たり額」が算出されており、2015年度調査はそれぞれ1.7万円、0.6万円となっている。
教育研修費用の実態調査 結果概要
[1]教育研修費用総額と従業員1人当たりの教育研修費用
(1)1社当たりの教育研修費用総額
1社当たりの教育研修費用総額は、2015年度は予算額5,548万円(前回調査5,458万円)、同実績額4,944万円(同4,533万円)であり、2016年度は予算額5,786万円(同5,651万円)である。調査対象が異なるため、前回調査と厳密な比較はできないが、いずれも増加している。全体的に、企業規模による差が大きい(図表1)。
なお、今回の調査では自社研修施設の保有の有無別の教育研修費用についても調査・集計した。2015年度実績額をみると「保有している」企業は6,706万円、「保有していない」企業は3,175万円と、研修施設を保有しているほうが倍近い金額となった。
(2)従業員1人当たりの教育研修費用
従業員1人当たりの教育研修費用は、2015年度の予算額41,839円(前回調査46,764円)、同実績額35,662円(同36,877円)、2016年度予算額44,892円(同47,170円)で、予算、実績ともに前回調査を若干下回った。規模別にみると、中堅企業で37,326円と前回より増加している(図表1)。
図表1 教育研修費用総額と従業員1人当たりの額(実績と予算)
(注)
1.2015年度予算/実績と2016年度予算のすべてに回答があった企業について集計。ただし、総額が10億円以上および従業員1人当たりの額が3,000円以下と20万円以上の企業を除く。
2.本社のみ、あるいは事業所単位での回答企業については、その従業員の規模として集計。以下同じ。
3.「実績対予算の倍率」は、「2016年度予算÷2015年度実績」で算出。[ ]内は前回の倍率。
4.無回答は集計から除いているため、以下の各表で集計社数が異なることがある。
[2]教育予算の増減状況
2016年度予算の対前年度の状況をみると、予算が増加した企業は54.6%(前回調査48.7%)、減少した企業は25.5%(同32.7%)、増減なしの企業は19.9%(18.6%)と、「増加した」とする企業が半数を超えている(図表2)。
予算が増加したと回答した企業の平均増加率は33.4%で、分布をみると「20~40%未満」が28.6%となるなど、前回と比べて増加率は高い傾向にある。他方、減少率の平均は16.2%(同19.1%)で、分布をみると「5%未満」22.2%、「5~10%」33.3%と、前回調査と比べて低いほうにシフトしており、全体としてみれば教育予算を増やす傾向がみてとれる(図表3)。
図表2 2016年度教育予算の対前年度の増減状況
(注)
1.2015年度予算/実績および2016年度予算のすべてに回答があった企業のみで集計。図表3も同じ。
2.教育研修費用総額における2015年度予算と2016年度予算の比較である。
図表3 2016年度教育予算の増加率および減少率の分布
(注)
1.増加・減少率=[2016年度予算-2015年度予算]÷[2015年度予算]×100
2.図表2において、[増加]、または[減少]と回答した企業の予算増減率について分布をみたものである。
[3]各種教育研修の実施状況
2016年度の予算で実施する予定の教育研修についてみると、階層別教育で実施率の高いものとしては、「新入社員教育」が93.5%で例年どおりトップとなった。次いで、「新入社員フォロー教育」77.5%、「初級管理者教育」75.1%、「中堅社員教育」74.0%となっている(図表4、複数回答)。
次に、職種別・目的別教育についてみると、「OJT指導員教育」49.1%、「選抜型幹部候補者教育」42.0%などの実施率が高くなっている。前回調査で高かった「メンタルヘルス・ハラスメント教育」(前回調査47.4%)や、「CSR・コンプライアンス教育」(同40.7%)は、社内での一定の周知・教育ができたためか、今回調査では若干減少している(図表5、複数回答)。
図表4 2016年度に実施する階層別教育 (複数回答)
図表5 2016年度に実施する職種・目的別教育(上位10項目・複数回答)
[4]選抜型リーダー育成制度の取組状況
(1)今回の調査では、「選抜型リーダー育成(経営幹部育成)制度」についても聞いた。このテーマでの調査は、2012年の「選抜型の経営幹部育成に関する実態調査」以来4年ぶりとなる。選抜型リーダー育成制度を「導入している」企業は38.2%(2012年調査37.7%)、「導入を予定、または検討中である」企業は13.3%(同11.3%)で、合わせて5割強となった(図表6)。
(2)選抜型リーダー育成候補者の要件(複数回答)としては、「人事・業績評価で一定レベル以上の評価をされたもの」が66.3%で最も高く、次いで「役職」61.1%、「年齢」37.9%となっている(図表7)。「人事・業績評価で一定レベル以上の評価をされたもの」は2012年の調査で4割弱であったのが、今回の調査で28ポイントも上昇しており、役職や年齢にとらわれず、現在の成果を重視して選抜を行う企業が多くなっているようである。
図表6 選抜型リーダーの導入状況
(注)
1.2012年調査は「選抜型の経営幹部育成に関する実態調査」を指す。以下、図表8まで同じ。
2.2012年調査では、「導入している」、「導入を予定または検討中である」、「導入していない」で聞いている。
図表7 選抜型リーダー育成制度の選抜対象者の要件(複数回答)
(注)その他は省略した。
(3)選抜型リーダー育成制度の課題・問題点(複数回答)についてみると、最も割合が高かったのは、「選抜が難しい(人選に課題がある)」48.1%である。次いで「育成に費用・時間がかかる」42.0%、「他の人事・教育制度との連携が難しい」25.9%などとなっている。「効果について疑問がある」も24.7%と、約4社に1社あり、なかなか効果が実感できていないところもあるようだ(図表8)。
図表8 選抜型リーダー育成制度の課題・問題点(複数回答)
(注)
1.選抜型リーダー育成制度を導入していない企業にも聞いている。
2.その他は省略した。
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※ 詳細データは 「企業と人材」2016年10月号(No.1044)にて掲載しています。
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