人事労務分野の情報機関である産労総合研究所(代表・平盛之)は、JSHRMリサーチプロジェクト(日本人材マネジメント協会)との共同調査「2014年 人事のあり方に関する調査」を実施しました。
本調査は、実務家および研究者からなるJSHRMリサーチプロジェクトのメンバーが、「人事部とは何か」を議論するなかで開発した「HRMのIn-Diモデル」をもとに調査票を設計し、産労総合研究所と共同で実施したもので、193社から回答を得た(調査要領参照)。「In-Diモデル」のInはイノベーション、Diはダイバーシティの略であり、本調査では、まずイノベーションとダイバーシティの2つを軸に置いた4つのIn-Diタイプに回答企業をわけ、次いで、このタイプ別に人事管理のあり方や人事部門のあり方について考察している。調査結果の分析によると、イノベーションへの貢献や人材の多様性が求められていない企業群ほど、人材の統合に対する方針が明確でなく、人事部門への期待度が低い、などの傾向がみられた。
本調査の結果は、産労総合研究所発行の『人事実務』2015年3月号に掲載されるほか、2015年3月7日(土)に学習院大学において行われるシンポジウム「HRMのIn-Diモデル~イノベーションとダイバーシティからの提言~」において、成果報告が行われる。詳細は、日本人材マネジメント協会(JSHRM)HPを参照のこと。http://www.jshrm.org/event/symposium_6149.html
In-Diモデルとは
【4つのIn-Diタイプの説明】
本調査は、人事部門の役割は経営と連動しているという観点から、日本の企業における主要な経営課題である「イノベーションの推進」と「多様な人材の活用(ダイバーシティ)」という2つを軸として置く独自のHRMモデル(In-Diモデル)をベースにしている。このモデルでは、「経営・事業のイノベーションへの貢献度」と「多様な人材の活用度」の大きさから、企業を下図のように4つのIn-Diタイプに分類し、それぞれの特性を考えて、「タレント型」「体育会系型」「企業内熟練型」「マニュアル型」と称することとした。各タイプの説明と、想定した企業群は、以下のとおり。
参考図 In-Diモデルの枠組み
[タレント型(右上の象限)]
- オープン化した先端的市場、激しい国際競争下に置かれるIT系企業に代表されるような、イノベーションが非常に重視され、多様な人材の活用度が高い企業群を想定し、その人材活用のあり方の象徴的な意味合いを込めて「タレント型」と命名した。
[体育会系型(左上の象限)]
- 事業の性格上、イノベーションが非常に重視される一方で、多様な人材で事業を運営する必然性は相対的に低く、むしろ同質の人材による、暗黙知も含めた統制された価値観によって組織される企業群であり、国際的に事業を展開する重工系の製造業や総合商社などを想定し、「体育会系型」と命名した。
[企業内熟練型(左下の象限)]
- イノベーションが相対的には重視されず、また多様な人材活用の要請の度合いも低い企業群であり、市場を国内に絞って事業を展開している製造業、あるいは規制の下で激しい競争にさらされていない産業などを想定した。これらは、基本的には業界や企業のなかに蓄積された技術・ノウハウを重視して事業が運営されていることから「企業内熟練型」と命名した。
[マニュアル型(右下の象限)]
- 多数のチェーン店をもち価格を競争優位性の大きな要素とする外食産業等は、事業そのもののイノベーションはさほど重視されず、一方で人件費の抑制が鍵となることから、主婦層や外国人労働者等の多様な人材の活用を重視している。その結果として運営はマニュアル化され、統一性を保ったオペレーションを行う枠組みが整備されていると考えられるので、このタイプを「マニュアル型」と命名した。
調査要領
【調査名】 2014年 人事のあり方に関する調査
【調査機関】JSHRMリサーチプロジェクト・産労総合研究所 共同調査
【調査対象】産労総合研究所会員企業から任意に抽出した3,000件およびJSHRM会員320件
【調査時期】2014年10月初旬~11月初旬
【調査方法】郵送によるアンケート方式
【集計対象】締切日までに回答のあった193社について集計。集計企業の内訳は別表を参照。
調査結果の概要
(1)人事管理のスタイルや方針
組織の目標達成に向けた人材の統合 ~VBPスタイル~
In-Diモデルでは、人事管理のあり方や人事の役割を捉える視点として、「組織の目標達成に向けて、企業は社員をどのように統合するか」(人材の統合)という点に注目した。この人材の統合スタイルを検討するにあたり、「経営理念・組織文化(Vision)」「業務プロセス・ルール(Behavior)」「成果・パフォーマンス(Performance)」の3つの要素をどの程度重視するかを尋ねた。
図表1は、「重視している」を4点、「やや重視している」を3点、「あまり重視していない」を2点、「重視していない」を1点として得点化した結果を、In-Diタイプ別にみたものである。
In-Diタイプ別に重視している割合(「重視している」と「やや重視している」の計:%)と重視している程度(前述の得点:ポイント)をみると、タレント型は「経営理念・組織文化」(89.7%、3.39ポイント)と「成果・パフォーマンス」(95.6%、3.54ポイント)が他のタイプより高い。マニュアル型は、「経営理念・組織文化」(82.5%、3.26ポイント)、「業務プロセス・ルール」(86.0%、3.20ポイント)、「成果・パフォーマンス」(86.0%、3.26ポイント)のすべてが高い。多様な人材の活用が求められているこれら2タイプでは、「経営理念・組織文化」が重視されている。
一方、企業内熟練型は、すべての統合スタイルの数値が他のタイプよりも低い。体育会系型は、4つのタイプのなかで中間的な傾向がみられるが、「経営・理念・組織文化」と「業務プロセス・ルール」の数値はやや高い。
図表1 組織の目標達成に向けた人材の統合 ~VBPスタイル~
(2)人事部門の機能
人事部門の機能として、何が求められているのかをきいた結果が図表2である。各項目について、求められている程度(「求められている」を4点、「やや求められている」を3点、「あまり求められていない」を2点、「求められていない」を1点として得点化)をIn-Diタイプ別にみると、タレント型は、ほとんどすべての項目において、求められている程度が高い。また、タレント型とマニュアル型は、「経営理念を組織に浸透させること」「経営戦略の実現につながる人事戦略を策定すること」が顕著に高い。逆に、企業内熟練型は、全項目にわたってこれらの数値が顕著に低くなっている。
図表2 人事部門の機能として求められている程度
JSHRMリサーチプロジェクトについて
JSHRM(日本人材マネジメント協会)は、日本を代表する人材マネジメントの専門団体として、人材マネジメントに係る方々のための能力向上と会員ネットワークを活かした情報交換・相互交流、更にグローバルな視点からの各種調査研究・提言・出版などの諸活動を展開している。JSHRMリサーチプロジェクトは、このJSHRM内で、設定したテーマについての調査・研究に対して有志が集まり形成しているプロジェクト形式の活動。第4期目となる「人事の役割」に関するリサーチプロジェクトは、現在以下の12名で活動中。泉田洋一(キャリアコンサルタント)、今野浩一郎(学習院大学)、大橋歩((株)浜銀総合研究所)、黒澤敏浩((株)ジェイエイシーリクルートメント)、佐山幸嗣((株)富士通マーケティング)、堤敏弘((株)クレハ・バッテリー・マテリアルズ・ジャパン)、土橋隼人(組織・人事コンサルタント)、西岡由美(立正大学)、◎松浦民恵((株)ニッセイ基礎研究所)、 山﨑京子(アテナHROD)、山本史織((株)ポーラ・オルビスホールディングス)、吉田貴子((株)産労総合研究所、オブザーバー参加)((五十音順)〈◎はプロジェクトリーダー〉
※ 詳細データは 「人事実務」2015年3月号にて掲載しています。
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株式会社産労総合研究所「人事実務」編集部 担当:吉田
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